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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
72/109

54.馬車の考察

 



「うちの爺さんに食わしてやりてぇなぁ」



 食事中、アルさんがしみじみと言い出した。

 転生者である曾お祖父さんとアルさんは、とても仲がいいみたいだ。



「それなら、次にミシディアの商人さんが来たときに、作った料理を持って帰ってもらう? こちらで仕入れたものを持って帰るから、あまり余裕がないかな?」



 アルさんの実家からやってくる商人さんは、アイテムボックス(中)の持ち主だけど、帰りはいつもランスで手に入りやすい小麦粉や牛乳、はちみつなどを手に入れて戻っているようだ。

 小麦粉はかさばるから、もしかしたら、アイテムボックスにあまり余裕がないかもしれないけど、曾お祖父さんの分の料理くらいなら運べる気がする。



「あ、その手があったか。カグラ、悪いんだが次の商人が来たときに、爺さんに何か作ってやってくれるか? 冥土の土産に生まれた世界の料理を食わしてやりたいんだ」



 縁起でもないことをアルさんが言うので、リンちゃんが、ぽかっとアルさんの頭を叩いた。

 たいして力は入ってなかったのか、アルさんは痛がることもなく、穴子の天ぷらを堪能している。



「お祖父ちゃんは元気なんだから、そんなこと言わないの! 本当はアルフが持って行ってあげれば、一番喜ぶのに」



 アルさんの曾お祖父さんに会った事があるリンちゃんは、曾お祖父さんのことがとても好きらしい。

 リンちゃんの話を聞くだけでも、面白そうなお祖父さんなので、私も機会があったら一度逢ってみたい。

 やっぱり、いつかミシディアに行けるといいんだけど。



「俺が帰ると、嫁はまだかって、うるせぇから嫌なんだよ」



 余程、嫁攻撃を食らっているのか、アルさんがため息混じりにぼやく。

 よくある話ではあるけれど、アルさんにまだその気がないのなら、鬱陶しく感じても仕方がない。

 私の感覚では、アルさんが未婚でも、お嫁さんをもらいそびれいているといった感じはしないけれど、こちらでは結婚が早いみたいだから、家族の人はお嫁さんが待ち遠しいのだろうか。

 平民では結婚しない人が多い地域などもあるらしく、こちらの世界の常識はわからないことだらけだ。

 


「それに、片道一月はかかるからな。往復で二月、天候次第では下手すると三月は留守にすることになるから、それが嫌なんだ。ずっと馬に乗りっぱなしもだるいしな」



 片道一ヶ月か。

 やっぱりミシディアは遠い。

 行ってみたいけど、お店をそんなに休めないし、無理なのかもしれない。

 


「でも、いつか、みんなで行きたいね。ミサちゃんもミシディアに興味あるでしょ?」



 リンちゃんに問われて、大きく頷く。

 ミシディアにはとても行ってみたい。



「また、みんなで旅行できたらいいんだけど。お店が繁盛するのはありがたいけれど、長期のお休みが取り辛いのだけは大変ね」



 今回も、長期のお休み前に、バケットサンドの大量注文がいくつも入った。

 留守中の分を補う為に、纏めて注文してくれたお客様も多かった。

 半月でさえその状態なのだから、二ヶ月とかなると、大変な事になりそうだ。

 仕事をするってやっぱり大変な事だ。



「コテージのレベルが上がって、馬車にも変化するようになったら、早く移動できるかもしれませんよ? 妖精が世話をする馬が、普通の馬と同じになるとは思えないんですよね。最低でも2頭というからには、2頭立ての馬車なんでしょうし、4頭預けたら、途中で馬を変えながら走ってくれるんじゃないかと推測してます。普通なら休憩が必要でしょうけれど、乗っている人間はコテージの中ですから、外に出て休憩する必要はありませんし、桔梗も魔力を使って御者をやるでしょうから、そうなると、魔力さえ注げば、一日中走るんじゃないでしょうか」



 桔梗の話を聞いて、色々と考えていたのか、鳴君が推測した事を語りだす。

 もし、鳴君の言うことが可能だったとして、その場合、旅程を3分の1くらいに短縮できるんじゃないだろうか。

 一月というのは、普通の馬車で他の街にも寄りながら、かかる時間のはずだから、コテージに居る状態で進めるのなら、街による必要はない。

 それなら、20日あれば、行って用事を済ませて、帰ってこられるかもしれない。

 しかも、往復の間は、コテージのキッチンで仕込みをすることもできる。

 最近、他のみんなに簡単な料理を教えたりもしているから、退屈はしないはずだ。

 私が料理を教えだしてから、みぃちゃんと結花さんは料理スキルを習得できたらしい。

 職業スキルじゃないから、レベルは発生しないけれど、スキルを持つことによる補正はあるみたいで、前よりも包丁使いが上手くなっていた。



「結局、コテージのレベル上げが大切ね。桔梗がかわいそうだけど、帰ったら80層にコテージを出すのがいいかもしれないわ」



 それまで無心で食事をしていた亮ちゃんが、ぽんぽんと軽く私の頭を撫でる。

 桔梗を寂しがらせることを気に病む私を、一応、気遣ってくれているらしい。



「レベル上げさえ終われば、ずっと一緒にいられるんだから、さっさとあげてしまうのも手だ。それより、美咲。これ、美味いな。おかわりはあるか?」



 お吸い物の器を差し出されて、席を立つ。

 冷めないようにアイテムボックスに鍋ごと入れてあるけれど、キッチンに行かないとお玉がない。



「豆腐があるといいんだけど。だれか、にがりの作りかたを知らない?」



 そういえばと、一人のときに考えていた事を思い出して聞いてみると、みぃちゃんが食べる手は止めないまま、左手を上げる。

 久しぶりのお魚三昧が嬉しくて、箸が止まらないらしい。



「……海水を煮詰めていけば、作れるはず。理科の実験でやったから、多分できると思うよ」



 お茶を飲んで一息ついてから、みぃちゃんが大体の作り方を説明してくれる。

 海水から塩を得る段階で出る副産物がにがりみたいだけど、実験の時は、普通に手に入る道具でできたそうだ。

 みぃちゃんの説明だと特殊な道具みたいなのは必要ないみたいで、ホッとした。



「美咲、俺もおかわり」



 尊君も、お吸い物がほしいらしいので、鍋を手に、欲しがる人の器に注いでいく。

 片手鍋を作ってもらってよかったと、こういう時はしみじみ思う。

 こちらには、両手鍋やフライパンはあるのに、片手鍋はなかった。

 ディランさんに作ってもらう時に、『また、変な物を……』と、呆れられたけど、やっぱり便利だ。

 大鍋で作った時も、片手鍋に移しておくと、給仕がしやすい。


 久しぶりの魚料理を堪能した後、迷宮で手に入った食料以外の物を全部出して鑑定した。

 宝箱からやたらと出ていた腕輪は、身につけると海中での呼吸ができるようになるアイテムで、特に呪いのようなものはかかっていなかったので、それぞれ身につけることにした。

 5層に到着するまでに10個も手に入っていたので、余った分は売りに出すらしい。

 他にも雷属性の武器や、雷耐性の防具が手に入ったけれど、私は神様にもらったもので十分なので、みんなに譲ることにした。

 あまり戦う事がないから、いい武器や防具を持っていても、持ち腐れになってしまう。

 使えそうな物、処分するものを分けて、処分する物は纏めて納戸に置いておく。

 みんなのアイテムボックスも中までは育っているけれど、魔物の出現率が高すぎるから、念のために荷物を減らしておくらしい。

 私も使わない調理器具や食器などは、出しておくことにした。

 

 明日は、どんな魔物がいて、どれくらい進めるのだろう?と、ちょっとわくわくとしてしまいながら、夜を過ごした。




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