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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
70/109

52.水着




 コテージの寝室で水着に着替えると、普段よりも露出が多すぎて、ちょっと恥ずかしかった。

 髪は邪魔にならないように、サイドを編みこんで、後ろで一つに纏めておいた。



「ミサちゃん、やっぱりビキニが似合ってる! それに結花ちゃんのもピンクで可愛いね」



 ビキニをリクエストしたリンちゃんが、私達の水着姿を見てご機嫌だ。

 そういうリンちゃんのオレンジ色のタンキニも、とても良く似合っている。

 カンナさんの白のビキニは、息を飲むほどに大人っぽくて素敵だった。



「日焼けには、水系の回復魔法が一番いいらしいから、美咲さんにお願いするわ」



 カンナさんに頼まれて、笑顔で頷く。

 あまり魔法を使うことはないけれど、役に立てるのは嬉しい。

 寝室から出ると、男子もみんな着替えた後だった。

 中学も高校も水泳の授業は男女別だったので、水着姿を見る機会はほとんどなかったから、何となく恥ずかしくて直視できない。

 結花さんも同じようで、頬を赤らめていた。



「みんな、凄く可愛い。良く似合ってるよ」



 みぃちゃんが真っ先に笑顔で褒めてくれる。

 チラッと視線を向ければ、尊君は真っ赤になって横を向いていて、アルさんは驚愕の表情で固まっていた。

 みぃちゃんはにこにことご機嫌な笑顔で、亮ちゃんと鳴君は、いつもと同じ顔だ。

 あ、でも亮ちゃんの眉間にちょっと皺がある。

 露出が多すぎだと思われてそうだ。



「みんな、早く行こうよー。泳ぐ前に夜になっちゃうよ?」



 リンちゃんに腕を引かれて、コテージの外に出る。

 桔梗は『いってらっしゃい~』と、飛び回りながら見送ってくれた。

 空調が効いたコテージと違って、外は暑くて、太陽の熱を肌で直に感じた。

 程よく風も吹いていて、海で遊ぶにはよさそうな天候だ。

 灼けた砂が熱くて、リンちゃんと波打ち際まで走っていった。



「サンダルも欲しかったねー」



 リンちゃんも熱かったみたいだ。

 足でばしゃばしゃと海水を蹴立てて遊びながら、ご機嫌な顔で笑う。



「ビーチサンダルの再現は難しいものね。下駄で代用する?」

 


 みんなもコテージから出てくるのを、目の端で捕らえながら、軽く準備運動をしておいた。

 


「夜になっても砂が熱かったら、考えよ? ミサちゃん、泳ごうよ!」



 リンちゃんに腕を引かれて、沖へと歩いていった。

 こんなに透明度の高い綺麗な海は初めてで、心が浮き立っていく。

 ある程度の水深まで歩いたところで、泳いで更に沖に進んだ。

 昔、スイミングスクールに通っていたので、少しなら泳げるけれど、足がつかないところはちょっと怖い。

 リンちゃんは、深くても平気みたいで、気持ちよさそうに泳いでる。

 太陽の熱で程よく水温が上がっているのか、波に揺られているだけでも心地よかった。

 ゴーグルとかないから、潜るのには目が痛くても我慢する勇気が必要だ。



「リンちゃん! 潜っても平気? 目は痛くない?」



 一度海に潜ったリンちゃんが、頭だけを海面に出したので、心配になって聞いてみる。

 異世界の海水は、目に優しいんだろうか?



「ちょっと痛いし、しょっぱい。異世界でもやっぱり海は海なんだねー」



 感心しながら笑うリンちゃんが可愛くて、自然に頬が緩んだ。



「私も潜ってみるわ」



 深く息を吸い込んでから、勢いをつけて海中に潜ってみる。

 恐る恐る目を開けてみると、海水が目にしみて痛かったけど、遠くをカラフルな魚が泳いでいるのが見えて、いかにも南国らしい光景に心が躍った。

 考えてみれば、海に来る事さえ、随分久しぶりだ。

 しばらく、綺麗な海中の景色に見惚れていたけれど、息が続かなくなったので、水面に顔を出す。

 随分長いこと潜ってられたから、水面に出ると、日差しがとても眩しく感じた。

 


「ビーチバレーとかできたらよかったのにねぇ」



 海水にぷかぷかと浮きながら、リンちゃんがのほほんと語る。

 確かに、泳ぐのと釣りをする以外の遊び方が、あまり思い浮かばない。

 以前海に行ったときは、どんな遊びをしただろうか?と考えてみるけれど、思いつかなかった。

 本で読んだときは、スイカ割りとかしてたような気がする。



「スイカも花火もないものね。ちょっと残念だわ」



 夏の風物詩を思い出したら、残念な気持ちになる。

 どこかでスイカが手に入ればいいのにと思う。

 キルタスの迷宮で手に入ったりはしないだろうか?



「スイカがあったら、スイカ割りしたのにね。どこかにあったらいいね」



 リンちゃんもスイカが食べたいらしく、残念そうだ。

 花火は、そもそも火薬がないんじゃないだろうか。

 いくら魔法でも花火の再現は難しいだろうなぁ。

 その時、足にするっと何かが絡みついた。



「きゃぁああああっ!」



 思わず悲鳴を上げながら、ばたばたと何かが絡みついた右足を振る。

 何だかぬるぬるしてて気持ち悪い。



「ミサちゃん、どうしたの!?」


「美咲っ!!」



 焦ったリンちゃんがこちらに泳いでくるのと同時、亮ちゃんが驚いたように、私の名前を呼ぶのが聞こえた。



「足っ! 何かいるのっ」



 涙目になりながら、足元に目をやるけれど、何かが膝下に絡み付いて蠢いているのはわかっても、さすがに見えない。

 潜って確かめるのも怖くて震えていると、リンちゃんが勢い良く海に潜った。

 ほぼ同時に泳ぎ着いた亮ちゃんに、海中で抱き上げられる。

 足が水面に近くなって、右足に絡みつく物体が目に入った。



「蛸? どうしてこんなに浅い場所にいるんでしょう?」



 正体がわかると、怖いのは消えて、気持ち悪さだけが残る。

 鳴君が、蛸を掴んで足から引き剥がしてくれる間、ぎゅっと亮ちゃんにしがみついてしまった。


 

「ミサちゃんを驚かすなんて、悪い蛸だから、食べちゃお」



 リンちゃんが鳴君から蛸を受け取って、手早く止めを刺してから、アイテムボックスに入れてしまう。

 何だかとってもリンちゃんが逞しく見える。



「美咲、大丈夫か?」



 私を腕に抱いたまま、波打ち際に移動し始めた亮ちゃんに顔を覗き込まれる。

 まさか蛸だとは思わず、大騒ぎしてしまったのが恥ずかしくて、視線を合わせられない。

 そんな私を見て、亮ちゃんと鳴君は、小さく吹き出して笑い出した。



「そんなに、笑わなくてもいいじゃない。本当にびっくりしたんだからっ」



 笑われるとますます恥ずかしくなって、ちょっと不貞腐れながら文句を言う。

 二人とも「ごめん」って謝るけれど、声も表情も可笑しそうで、謝られてる気がしない。



「美咲、大丈夫か?」



 亮ちゃんに抱き上げられたまま砂浜に戻ると、何故かこちらを直視しない尊君に尋ねられた。

 私が答える前に、後をついてきたリンちゃんが、「蛸のせいだから大丈夫」と、アイテムボックスの蛸を取り出して説明すると、まさか、こんなに浅い場所に蛸がいるとは思わなかったのか、尊君も驚いていた。



「機嫌直せ。敵討ちに、他の蛸も仕留めてやるから」



 みぃちゃん作のビーチチェアに私を降ろして、亮ちゃんが宥めるように頭を撫でる。

 ついでに、体を隠すように、大きなバスタオルを掛けられた。

 尊君は直視してくれないし、亮ちゃんには隠されるし、そんなに水着姿が見苦しかったかと、ちょっと拗ねたくなった。



「敵討ちは任せたわ。ランスに帰ったら蛸焼き器を作ってもらって、明石焼きの刑にするんだからっ」



 本当はたこ焼きが作りたいけれど、ソースがないから明石焼きだ。

 私が宣言すると、リンちゃんは「明石焼き~♪」と、それはもう嬉しそうに飛び跳ねながら、蛸討伐隊に加わった。

 ランスに帰って蛸焼き器を頼んだら、またディランさんに、『珍妙な物を……』と、呆れられそうだ。






 亮ちゃん、鳴君、リンちゃんに、アルフさんと尊君まで加わった蛸討伐隊は、蛸以外にも色々と仕留めてきてくれた。

 みぃちゃんと結花さんは島の探検に行ってしまったので、カンナさんと二人で、潮風に吹かれながらのんびりと過ごした。

 その時に、「いつになったら名前で呼んでくれるのかしら?」と言われて、これからは優美さんと呼ぶことになった。

 前よりちょっと仲良くなれたみたいで、照れてしまうけれど嬉しい。

 そんな事があったので、みんなが帰ってきたときは、見るからに機嫌がいいように見えたらしい。


 夜は、魔道具のカンテラもあったけれど、その他に焚き火もして灯りを確保した。

 夏とはいえ、夜になると少し冷えるので、焚き火があると程よく暖かかった。

 外での夕食後、みぃちゃん達はキャンプ気分を味わう為に、今日はテントを張ってそこで寝ることにしたらしい。

 灯りがあるうちにと、アルさんと尊君が手際よくテントを設営していく。

 いつでも寝られるように支度を整えてから、亮ちゃんが話があると言うので、みんなでコテージに入った。

 思い思いの場所に座っているみんなに、アイスティーを出してから、空いていたソファに腰掛けた。

 ちなみに、アイスティーを作るのを、桔梗も手伝ってくれた。

 ふわふわと飛びながら、魔法で手伝ってくれるのだけど、その様子が可愛くて、見てるだけで楽しかった。

 外で潮風に吹かれているのもいいけれど、コテージの中も落ち着く。

 こうして、コテージで過ごすのも久しぶりだから、尚更だ。



「それで、亮二は何が気になるの?」



 みぃちゃんに問われて、亮ちゃんはアルさんと顔を見合わせる。

 目で何やら相談していたけれど、亮ちゃんが話すことにしたらしい。



「昼間、蛸退治をしてた時、一応、地図に魔物表示を出しておいたんだ。その時なんだが、一部に不自然に魔物が固まっていて、アルフと様子を見てきたけど、もしかしたら、海底に迷宮があるかもしれない。しかも未発見の」



 迷宮と聞いて、リンちゃんが目を輝かす。

 私が読んだ本には、未発見の迷宮の事なんて書いてなかったけれど、多分、珍しいものなんじゃないだろうか?



「見た感じ、大迷宮ってことはないと思う。入ってみないとわかんねぇけどな。届け出るにしてもある程度の調査は必要だ。だから、明日にでも入ってみようと思ってるんだが、みんなはどうする?」


「もちろん、いくっ!」



 アルさんが問いかけると、リンちゃんは勢い良く手をあげた。



「私もいいペットがいないか見たいから、行くわ」



 優美さんもリンちゃんに続いて参加表明する。

 私はどちらでもいいけれど、待っているだけというのも退屈かもしれないから、迷宮に入ってみるのもいいかもしれない。

 未発見の迷宮なんて、入れるチャンスはこれきりかもしれないし。


 結局、全員参加ということになって、明日は迷宮探索をすることになった。

 念のために、簡単に食べられる食事を、何か用意しておいたほうがよさそうだ。



「そういえば、迷宮を発見した時って、どこに届け出るの? 冒険者ギルド?」



 みぃちゃんが、思い出したように尋ねる。

 こういったことがわからない時は、アルさんだけが頼りだ。

 なので、みんなの視線が一斉にアルさんに向けられた。



「冒険者ギルドでいい。領主へは冒険者ギルドから報告してくれる。ただ、ここは場所が微妙なんだよな。拠点にできそうなのがこんな小さな無人島じゃ、わざわざ攻略に来る冒険者がいるかどうかわからん。だから、どんな迷宮か調べた結果次第では、放置されるかもな。わざわざ船を出して、それでたいした収穫がないようだと、誰も寄り付かない」



 この世界の迷宮は恵みでもあるけれど、迷宮の難易度と何が手に入るかも重要視される。

 航路を外れていたら、船を借りるしかない。

 船を借りてまでやってくるからには、確実に稼げるという保証が欲しいはずだ。



「どんな迷宮なんだろうね? また、蛸とか出てくるのかなぁ?」



 リンちゃんは楽しみで仕方がないようで、わくわくとした様子だ。

 


「小迷宮なら、多分危険はないと思うが、初めての場所だから気を抜くなよ? もし何かトラブルがあっても、船はしばらく迎えに来ないんだからな?」



 リンちゃんを心配してか、アルさんが厳しい顔で注意する。

 言われてみれば、しばらく船は来ないんだから、何かあっても自分達だけで対処しなければいけない。

 ポーションもあるし、回復魔法もあるけれど、十分に注意しよう。



「というわけで、今夜は夜更かし禁止。明日に備えて早めに寝る事」



 最後は亮ちゃんが〆て、解散した。

 


コテージに残された男達の会話。




「あれ、何だ! あんな破廉恥なものが、お前らの世界では出回ってるのか!」



 女性陣がいなくなったコテージで、アルフレッドが雄叫びを上げる。

 初めて見るビキニは、刺激が強すぎたらしい。



「アルフなら、もっとすごいのを色々みたことがあるでしょ?」



 和成にからかわれ、アルフレッドはふるふるっと頭を振った。



「商売女のどんなえろい格好より、あいつらのほうがやばいだろ! あのカグラと二人きりになったら、俺は3秒で理性を飛ばす自信がある!」



 妙な断言をしたアルフレッドに、亮二と鳴が冷たい視線を向ける。



「美咲は絶対にアルフと二人きりにしないようにしよう」


「そうですね。僕も協力します。アルフは美咲さんに近づけません」



 亮二と鳴が共同戦線を張り、「墓穴を掘ったぁ」と、焦るアルフレッドの隣で、放心していた尊が息を吹き返した。



「俺、むりっ! あいつら、直視できねぇし、近寄るとか絶対無理!」



 いかに水着姿の女子を視界にいれず、近づかずに済ますか、尊が必死に悩む。

 まだ頬は赤らんだままで、女子の水着姿が余程衝撃的だったらしい。



「尊、いいことを教えてあげます。頭に血が上りそうになったら、林原さんを見るんです」



 鳴の提案に、みんな揃って首を傾げる。



「幼い容姿に言動、アルフの胸筋にも負けそうな慎ましい胸、他の3人よりは露出の少ない水着。あれを見て欲情するのは、特殊な性癖の持ち主と、彼女に惚れ込んだ男だけです。彼女は血が上った頭をクールダウンするには最適の人材です」



 鳴のある意味失礼な言葉に、全員納得したように頷いた。

 リンは可愛いけれど、ずっと年下の妹のような感覚で接する事ができる。

『クールダウンしたい時はリンを見る』を合言葉に、みんな揃ってコテージを出た。

 そういうやり取りがあったとは知らず、みんなと一緒に遊べるのをリンは無邪気に喜んだ。


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