表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
62/109

45.食事会




「いらっしゃいませ。桜庵へようこそお越しくださいました。店主のカグラと申します」



 二日後の夜、恙無く準備を終わらせて、次々とやってくる貴族を出迎えた。

 着物は珍しいらしく、時々、強いくらいの視線を向けられる。

 中にはあまりよくない感じのする視線もあったけれど、笑顔で対応した。

『お客様は神様です』という言葉を聞いたことがあるけれど、どれだけいやらしい視線を向けられようが、平民風情と侮る視線を向けられようが、すべてお客様だ。

 店主として笑顔で乗り切るしかない。

 客商売の大変さをひしひしと感じながら、到着するお客様を出迎えては、他のみんなにホールへの案内をお願いする。



「ミサキ、今夜も美しいね。無理を聞いてくれて助かったよ」



 後のほうになって、ラルスさんもエリーゼさんを伴ってやってきた。

 今日はクラウスさんともう一人、見知らぬ若い人を連れている。

 金髪碧眼の派手な容姿の人だ。

 クラウスさんの友人だろうか?



「私の幼馴染のクリスだ。どうしてもミサキの料理が食べたいと言うから、連れてきたよ」



 私の心の中の疑問に答えるように、クラウスさんが紹介してくれる。



「初めまして。店主のミサキ=カグラと申します。桜庵へようこそお越しくださいました。ごゆっくり、お寛ぎください」



 絵本に出てくる王子様みたいと思いながら、ラルスさんたちの恥にならないよう、丁寧に挨拶をする。

 貴族なのに驕った感じはなく、親しみの篭った笑顔を向けられて、貼り付けたものでない自然な笑みが零れた。

 ラルスさん御一家が懇意にしている貴族は、身分を笠に着る人がいなくて安心できる。



「先日のパーティーのデザートは素晴らしかったよ。クリスティアン=ブランデルだ。気安くクリスと呼んでくれると嬉しい。この店にはSランクのアルフレッドもいると聞いて、彼に会えるのも楽しみにしているんだ」



 さすがクラウスさんの幼馴染と言うべきか、驚くほどに平民に対して友好的な人だ。

 アルさんに逢いたがっているということは、この人も迷宮が好きだったりするんだろうか?

 アルさんへの紹介と、ホールへの案内は尊君に任せて、私は厨房に向かった。

 今日も、みぃちゃんと結花さんが裏方を買って出てくれて、料理の盛り付けや仕上げをしてくれている。

 本当に二人がいなかったら、店が回らないほどに、助けられている。



「二人とも、任せっきりでごめんなさい。特に問題はないかしら?」



 問いかけながら、ワゴンに料理を載せていく。

 ホールのテーブルに、飲み物やいくつかの料理は用意してあるけれど、追加も必要だろう。

 料理だけでなく、取り分け用の食器や金属製のゴブレットも追加が必要だ。

 それとは別に、今日は個室のお客様もいらっしゃるので、そちらの対応もしなければいけなかった。



「問題はないから大丈夫だよ。美咲ちゃんは忙しいんだから、任せられるところは僕達に任せてよ。それに、少しは休憩しないとダメだよ? 美咲ちゃんは頑張りすぎるから」



 今日の食事会のために、ばたばたと落ち着かなかったのを知っているからか、みぃちゃんも結花さんも心配してるようだ。

 少し休むようにと、冷たいオレンジジュースを出してくれる。

 言葉に甘えて、少しだけ座って休憩することにした。



「ありがとう、みぃちゃん」



 お礼を言って冷たいジュースを飲むと、思っていたよりも自分が疲れていたことに気づいた。

 ため息のような吐息が零れてしまう。



「あ、そうだ。今日はクラウスさんも来ていたわ。クラウスさんの幼馴染だという人も一緒に」



 先日の迷宮行きで、みぃちゃんはクラウスさんと仲良くなっていたようだったので、教えておくと、何だか落ち着かない様子だ。

 いるとわかれば、会って話したいほどに親しくなったらしい。



「じゃあ、これを持って行くついでに、ちょっと挨拶してくる。今日は貴族が多いから、結花ちゃんはここにいていいからね? 目をつけられたら大変だから、厨房からは出ないほうがいいかもしれない」



 余程クラウスさんに会いたいのか、ワゴンを押して、勢いよく出て行こうとしたのに、足を止めて結花さんの心配をしている。

 貴族が相手だと強く出られないことも多いし、余程心配らしい。



「御池君、ありがとう。私はここにいるから、いってらっしゃい」



 貴族の相手は嫌なのか、結花さんは素直に頷いた。

 何となく、もしかしてだけど、みぃちゃんの好きな人って……。

 思わず、結花さんの顔をじっと見つめてしまった。



「美咲さん、どうかした?」



 私の視線に気づいて、首を傾げる結花さんがとっても可愛い。

 多分、私の思った通りだとしても、みぃちゃんは結花さんに告白はしないだろう。

 前の彼氏のことで傷ついたのを知っているから、完全に傷が癒えるまでは、見守るだけなんじゃないかと思う。

 二人とも大切な友達だから、幸せになってくれると嬉しい。

 けれど、私が口を出していい事じゃないから、二人が拗れたりしない事だけは注意しながら、私も見守るしかないと思う。



「ううん。みぃちゃんは優しいなぁって思ったの。背があまり大きくなくて、可愛い感じがするからわかり辛いけど、生徒会のあの4人で、一番男らしいのはみぃちゃんじゃないかなって思うわ」



 みぃちゃんは、私よりも少しだけ背が低い。

 前はそれが軽いコンプレックスだった時期もあるみたいだけど、いつの間にか乗り越えてしまったみたいだ。

 優しくて器用で周りを良く見ている人だけど、自分を後回しにしがちなみぃちゃん。

 たまに亮ちゃん達に腹黒って言われてるけど、私には全然そんな風に見えない。


 みぃちゃんと知り合ったのは、中学に入ってからだった。

 まず、亮ちゃんが仲良くなって、家に連れてくるようになって、その流れで私とも知り合ったけれど、当時、私は既に160cmを超えるくらい背が高くて、みぃちゃんは学校で一番小さいんじゃないかってくらい、背が低かった。

 多分、あの頃は130cmくらいしかなかったんじゃないだろうか。

 自分より随分背の高い女の子ということで、最初は避けられていた気がする。

 人懐っこい性格なのに、私とは距離があって、顔を合わせてもろくに話もしなかった。

 あの当時から、4人は仲がよくて、良く一緒に集まっていた。

 何がきっかけだったのか、私にはよくわからないけれど、何度も顔を合わせたり、亮ちゃんの家じゃなくて、私の家でも過ごしたりもしているうちに、いつのまにかみぃちゃんと仲良くなっていた。

『美咲ちゃん』って、みぃちゃんが呼ぶから、私も名前で呼ぶべきか悩んでいたけれど、亮ちゃんみたいに特別っぽく呼んでほしいというから、みぃちゃんって呼ぶことになった。

 みぃちゃんをそう呼ぶのは、他に誰もいない、私だけだ。

 私を『美咲ちゃん』と呼ぶのも、みぃちゃんだけ。

 私はみぃちゃんのアイドル顔負けの可愛い容姿も、それを裏切るような男らしい性格も好きだし、細かいところに良く気がつく性格は、見習いたいと思っている。

 みぃちゃんが私をどう評価しているかはわからないけれど、お互いにずっと友達でいたいって思っている気持ちは、同じだと信じている。

 みぃちゃんは幸せになって欲しい、大事な友達だ。

 同じように大事な結花さんと、上手くいってくれたら嬉しいと思うけど、でも、いくら友達でも、ここで口を挟むのはただのお節介だ。

 みぃちゃんの気持ちも何となくそうじゃないかと思っただけだし、結花さんの気持ちはまったくわからないのだから。



「そうね、御池君って可愛いのにかっこいいよね。凄く話しやすいし、いつも優しくしてくれて、感謝しているの。私が、美咲さんがいないところでもやっていけたのは、御池君が気をつかってくれたからだと思う」



 結花さんが、みぃちゃんのいいところを理解してくれているのが嬉しい。

 この先、どうなるかわからないけれど、しっかり見守っていこう。

 みぃちゃんも結花さんも私の大切な人だから。



「あ、そろそろ、個室にデザートを出してくるわ。ここには関係者以外は来ないと思うけれど、気をつけてね?」



 厨房に貴族がやってくることは、絶対にないだろうけれど、結花さんが一人になるのがちょっと心配だ。

 防犯ベル、みぃちゃんが作ってくれないかな?



「美咲さんも御池君も心配性ね。私だって、迷宮で鍛えたりしてるんだから、大丈夫よ。逃げるくらいならできるわ」



 笑いながら言われて、返り討ちじゃなくて逃げる辺りが結花さんらしいなと、私も笑ってしまう。

 心配性なのは、結花さんが可愛いからなんだけど、わかってないんだろうなぁ。

 ワゴンにデザートを乗せて、個室のお客様に運んでいった。

 ホールは大盛況のようで、問題なく食事会は終わりそうだった。  


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ