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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
55/109

38.コテージの有効活用




「美咲ちゃん、ハニートースト食べたい!」



 朝から元気なみぃちゃんのリクエストで、二日目の朝はハニートーストを作った。

 はちみつはたくさんあるので、何の問題もないけれど、コテージのオーブンだと、一度に焼ける数に限りがあるので、何度も焼かないといけなくて、時間がかかってしまう。

 お店の大きなオーブンに慣れてしまうと、コテージのキッチンは広くても設備が物足りない。



「今日は、宝箱探しなのよね? 私はここで料理をしててもいいかな?」



 テーブルに焼きあがったハニートーストやサラダを並べながら切り出す。

 キングコケッコは結界が退治してくれるので、明日からの迷宮攻略中の料理を、少し作りためておきたかった。

 それに、できれば、クモの魔物とは戦いたくない。

 取れる糸が高いってわかっていても、見たくない。



「クモが嫌なんだろ。残るのはいいけど、一人で結界の外に出るなよ?」



 亮ちゃんに笑いながらからかわれて、図星だったのでちょっとむくれてしまう。

 小さいクモでも嫌なのに、大きいのなんて見たくない。

 わかっていてからかうのは意地悪だと思う。



「クモは亮ちゃんに任せるわ。料理人の経験を上げるのに、いつもと違う環境で料理をするのはいいことみたいだから、今日は篭るわね」



 戦闘しない宣言をした私に、結花さんも付き合ってくれることになって、今日は二人で料理を作ったり、庭の手入れをすることにした。

 食事の後に、アルさんが一度コテージを出し直しすると、やっぱりレベルが上がっていたみたいで、コテージの中が広くなっていた。

 暖炉前のテーブルに設定画面も出ていたけれど、そこに出ている文字が、アルさんには読めないそうだ。

 アルさんが見たことのない文字だという、その文字は、私達の世界の文字でもなかった。

 もしかしたら、神様ならわかる特別な文字なのかもしれない。

 転生者である私達には、自動翻訳が備わっているみたいだから読めるけれど、自動翻訳がなければ、誰にも読めない文字なんじゃないかと思った。

 とりあえず、アルさんには口頭で説明しながら設定を変えてもらって、後でメモに翻訳した説明を書いて渡す事にした。

 私のコテージとまったく同じになるかわからなかったので、アルさんのコテージの操作画面を見て、説明の翻訳をしたほうがよさそうだ。

 このままコテージの結界で魔物を倒し続けることにするらしいので、結界を迎撃設定に変えた後は、自分のコテージに戻った。

 みんな、お昼には一度戻ってくるみたいなので、魔物が結界のところに積まれていても、そのときに解体してもらえばいいだろう。



「美咲さん、私は庭の手入れをしてるわね」



 みんなを見送った後、庭にいるという結花さんを残して、私は料理をすることにした。

 油の樹の下のたらいから、樽に油を移し変えるのを結花さんにお願いして、コテージに入る。

 まずは納戸に自動収納された魔物の解体を済ませておく。

 その後は、作っても作っても足りないバケットの生地を、大量に作った。

 必ず消費するものだから、いくら作っておいても、アイテムボックスに入れておけば問題はない。

 バケットサンドが売れすぎて、包装用の布が足りなくなりそうなので、迷宮に入る前に、ディアナさんのところで大量に注文をしてあった。

 10枚単位で戻ってくる事もあるけれど、10枚ためるのに時間がかかる人もいるので、お客様が増えれば増えるほどに足りなくなる。

 バケットサンドの注文数も、段々、一人で何とかなるような量ではなくなってきているけれど、バケットは街中のパン屋さんでも手に入るので、似た様なサンドイッチを作って販売する人も出てきたようだ。

 別に独占する気はないので、どんどん真似してくれたらいいと思う。

 今回の注文分から、布の端には店の名前も刺繍してもらうことにした。


 ランスの名物になるのなら、焼き菓子のレシピを公開してもいいかと思っているのだけど、相談したらラルスさんに止められてしまった。

 公開するのなら、お店が開店して、完全にランスの名物になってからの方がいいと言われた。

 しばらくの間は、結花さんやみぃちゃんに手伝ってもらいながら、私の店だけで頑張るしかなさそうだ。


 パン生地を山のように作り、その一部をコテージのオーブンで焼きながら、パスタ生地も作っていく。

 料理人のレベルを上げるのに、何が有効なのかわからないので、今日はできるだけたくさんの種類の料理を作ってみるつもりだ。

 コンロをフル活用して、パスタソースを複数作り、横では、野菜を刻んだり、果物を使いやすいようにカットしていく。

 お店の厨房には負けるけれど、コテージのキッチンもそれなりの広さがあるので、作業する場所は広い。

 それをいい事に、道具や材料を色々と出して、思いつくままに料理をする。

 途中で結花さんが戻ってきたので、手伝ってもらいながら、お昼ご飯も作っておいた。

 いつもとやる事が変わらず、あまり迷宮に来た気がしないけれど、時々レベルアップの音が響いて、迷宮にいるんだなぁと感じさせてくれる。

 パーティを組んだ状態なので、大変申し訳ないけれど、経験値だけもらっているようだ。


 その日、宝箱からはまたコテージが出たそうだ。

 戦利品だと、食材を山ほど渡されて、かなり減ったような気がした材料も、また補充されてしまった。

 明日からは71層の攻略を開始するらしい。

 71層にアルさん達は入ったことがあるみたいで、聞いてみたら、洞窟のような場所らしかった。

 こうもりの魔物や、ワームという、巨大いも虫みたいな魔物がでるらしい。

 明日の目標は、最低でも72層に到達する事だそうだ。

 というのも、洞窟ではコテージが出せないので、72層に入ったところにある安全地帯まで進まなければ、野営になってしまう。

 でも、71層の地図はほぼ埋まっているので、問題ないと言われた。



「思ったんだけどさ、コテージって、ここに出しっぱなしで帰るのとか無理なの? レベルの上がったコテージは、登録しないと入れないんだから、荒らされたりはしないだろうし、放っておいてもいいんじゃない? 街に戻ってから寝る場所なら、コテージじゃなくて店のほうにも部屋があるんだし」



 夕飯のから揚げを食べながら、ふと思い出したように尊君が切り出す。

 それは、ここにコテージを出したまま、迷宮を出るってことだろうか?

 考えた事もなかったので、驚いてしまう。



「美咲のコテージなら、結界で倒した魔物も自動回収してくれるし、放置でもあまり問題はなさそうだな。破壊不可、譲渡不可だろ? 誰も持っていけないだろうし、そもそも、大迷宮の70層に到達しているパーティが他にいないから、出しっぱなしでも見つかる事もない」



 私が首を傾げていると、亮ちゃんは意味がわかったのか、乗り気な様子だ。

 70層に到達済みの人に連れてきてもらうか、自力で攻略するかでないと、70層には来られないから、70層で他のパーティと遭遇する可能性はまずないようだ。



「でも、解体はこまめにしないと、傷んでしまうわ。それに、庭に魔力も注がないといけないの」



 コテージを出しっぱなしにすること自体は問題ないけれど、お店が開店したら、魔物回収や魔力を注ぐためだけに迷宮にくる余裕はない。

 納戸には、アイテムボックスと同じ性能の棚もあるけれど、容量はあまり大きくないし、魔物はそこには入らない。

 納戸自体は普通の部屋だから、魔物を置きっぱなしにしたら、最悪は腐ってしまう。



「コテージを回収したりは出来ないけど、中には入れるから、俺達がこまめに解体すれば大丈夫じゃないか? 魔力を注ぐのも、美咲じゃなくても大丈夫だろ?」



 尊君の提案に、少し考えてから頷きを返した。

 確かに、効率は少し悪くなるみたいだけど、庭に魔力を注ぐのは私でなくてもいいというのは、前に確認してある。

 以前から、結花さんがコテージの庭の手入れもしてくれていたので、代わりに魔力を注いでもらったりしていた。

 中に入れる人なら、納戸で解体はできるし、それをアイテムボックスで回収してもらえばいいから、そう考えると、迷宮に放置していてもあまり問題はないかもしれない。



「コテージの経験値を効率よく稼ぐという意味と、毎日使用する卵と鶏肉を手に入れる方法としては、最善でしょうね。尊達も、80層の攻略が終わるまでは、毎回70層スタートですから、コテージという拠点があるのはありがたいのでしょう?」



 鳴君が、わかりやすく利点をまとめてくれる。

 確かに、倒した魔物の自動回収に、庭の植物の自動収穫ができる状態のコテージなら、利点の方が多い。

 私一人だったら、お店に住むのも悩むところだったけど、今は女子も4人いるし、同居も問題ないだろうか?

 結花さんが嫌がるようならやめようと思って、視線を向けると、すぐに気づいて、笑顔を向けてくれる。



「美咲さん、私なら大丈夫よ。お店に個室もあるんだし、このメンバーでなら同居も平気だから」



 気をつかってるわけではなく、強がっているわけでもないと伝えるかのように、まっすぐに結花さんに見つめられた。

 よかった。

 今はまだ、ここのメンバー限定だとしても、結花さんが立ち直りつつあるのがわかって嬉しい。



「じゃあ、解体と回収と魔力を注ぐのは、尊君達に任せてもいい?」



 一番迷宮に来るのは、尊君とみぃちゃんとアルさんだから、お伺いを立ててみると、笑顔で頷かれた。

 私もコテージのレベルがどこまで上がるかは興味があるし、何より、キングコケッコの素材が、定期的に手に入るのはとても魅力的だ。

 毎日、大量に消費する卵の入手手段を、どうしたものかずっと悩んでいたのだから。



「迷宮で安心して寝る場所があるのは助かる。回収もみんなアイテムボックス持ちだから、問題ないしな」



 アルさんが、食事の手を止めて返事をくれる。



「迷宮でお風呂に入れるのも嬉しい。これで、長期の時も、アルフ達と一緒に迷宮に入っても、いいでしょ? 寝るところも女子はロフトを使えるし、危なくないから」



 今まで女の子は危険だからと、日帰りの時しか、迷宮に同行するのを了承してもらえなかったリンちゃんが、とても嬉しそうだ。

 

 そんなわけで、迷宮の帰りには、コテージを出しっぱなしにすることが決まった。

 明日からは、アルさんが出したコテージはそのままにして、私のコテージだけ持ち運んで迷宮攻略を進めることになった。

 帰りに、私のコテージを、またこの場所に出しに来ることにする。

 転生してからずっと手元にあったコテージを、迷宮に置きっぱなしで帰るのは、ちょっと不安だけど、今はみんなが一緒だし、一人のときみたいに誘拐の心配とかしなくてもいいから、きっと大丈夫だろう。

 それより、明日はクモの魔物が出ても逃げられないから、今から覚悟を決めておかなければ。






 



 結局、9日で77層まで攻略して、一度外に出てから、70層に入りなおした。

 迷宮では、次の層との境まで行くと、外に転移できるようになっている。

 出しっぱなしにしていたアルさんのコテージに、特に異常は見当たらなかったけれど、結界を囲むように大量の魔物が倒れていて、結界からはみ出た魔物は、他の魔物に食い荒らされていた。

 異臭もするし、なかなかグロテスクな光景だ。



「自動収納がないと、放置は厳しいな」



 その状況を見て、尊君がため息をついた。

 9日も放置していたけれど、どれくらいアルさんのコテージのレベルが上がっているのか、ちょっと楽しみだ。

 私のコテージも、レベルが一つあがって、動物の飼育スペースが増えた分、庭が広くなった。

 何故だかわからないけれど、コテージの庭で動物を飼えるようになるらしい。

 生き物がいる状態でコテージを片付けたらどうなるのか、心配になってしまったけれど、多分、動物も収納されるか、残されるかどちらかだと思う。

 それより、問題は次のレベルだ。

 設定で次のレベルで増える機能が見られるけれど、コテージのレベルが8になると、コテージを管理してくれる妖精が雇えるようになるらしい。

 前に図書館で調べ物をした時に、精霊使いというレア職業があるのは本に書いてあったので、この世界に精霊がいるのは知っていたけれど、まさか妖精までいるとは思わなかった。

 今から、コテージのレベルが上がるのが楽しみで仕方がない。


 とりあえずは、私のコテージを出してから、アルさんのコテージの周りの魔物をみんなで解体した。

 一度、アルさんがコテージを片付けてから鑑定すると、レベル6まで上がっていた。

 やはり、70層で10日近く放置していたのが大きかったらしい。

 より効率的に倒せるように、結界の辺りにぐるっと、魔物を引き寄せるらしい、油の樹の油を撒いておいたのもよかったのかもしれない。

 


「レベル6なら、納戸に自動収納ができるようになってると思うから、もう一度出してみて、設定を見てみる? 自動収納さえできるようになっているなら、アルさんのコテージも放置していいんじゃない?」



 私のコテージとまったく同じかどうかわからないので、もう一度アルさんがコテージを出した。

 庭もできているし、中を覗いてみると、やっぱり広くなっている。



「美咲のコテージと同じになってるな」



 尊君が中で、あちこちの扉を開けたりしながら、室内確認してる。

 他のコテージも同じように成長するのだとわかって、ちょっとホッとした。

 これから、育ったコテージが出回るようになれば、辺境で暮らす人の役にも立つだろうし、それに、私だけ得をしているような、微妙な罪悪感が薄れる。

 自分だけが特別、そんな状況は苦手だ。



「鳴君。アルさんのコテージの設定を変えてあげてくれる? 入れる人をしっかり設定して、ついでに詳細を書き出してあげてほしいの」



 一番まとめるのが上手そうな鳴君にお願いして、私は簡単にお昼ご飯を作ることにした。

 何といっても、大食いの集団なので、食べる量が半端ない。

 だから、食事も大量に用意する必要があった。



「美咲ちゃん、僕も手伝うよ」



 みぃちゃんがすぐに気づいて手伝いにきてくれる。

 リンちゃんも手伝うと言ってくれたけれど、カンナさんが止めてくれた。

 リンちゃんの料理はギャンブル性が高いので、止めてくれて、とても助かった。

 いつものように結花さんも手伝ってくれて、賑やかに話すリンちゃん達の声を聞きながら料理した。

 この後、コテージを置いて帰るから、ここで料理をすることはしばらくないと思うと、ちょっと寂しい。

 転生直後から、このコテージには凄くお世話になった。

 これがなければ、どれだけ苦労した事か、想像するだけでも恐ろしい。



「美咲ちゃんの大事なコテージだから、ちゃんとこまめに見ておくし、安心してね」



 お手伝いをしながら、みぃちゃんが私の気持ちを察したように、優しく語り掛けてくる。

「お願いね」と、笑顔で頷きを返した。

 私はあまり見にこれないけれど、みぃちゃん達がいるなら大丈夫だ。

 優しくて頼もしい友達がの存在に、心から感謝した。

 



コテージも美咲もパワーレベリング。

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