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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
52/109

35.第一回運営委員会



「第一回、ミサちゃんのお店運営委員会を開催しますー」



 みんな集まった居間で、リンちゃんが宣言して、一人でぱちぱちと拍手をする。

 みぃちゃんは付き合うように一緒に拍手していた。



「みんな、ノリが悪いよ。ここは一斉に拍手でしょー?」



 不満そうな口調を作って訴えながらも、リンちゃんはご機嫌な笑顔だ。

 毎日ご飯が美味しくて、幸せらしい。

 リンちゃんとカンナさんが合流して、3日経っていた。



「林原が仕切ると、話が進まん。美咲、話し合ったことはノートに書いててくれ。とりあえず、開店するまでに片付けないといけない問題を話し合っていこう」



 昔取った杵柄で、亮ちゃんが仕切りだし、リンちゃんは大人しくおやつのケーキに手をつける。

 開催宣言で満足してしまったようだ。



「お店の名前を決めた方がいいんじゃないですか? 後はピアノを置く事で狭くなった席を、どう広げるか、考えないといけません」



 鳴君は、ピアノのせいで席数が減る事を気にしているみたいだ。

 鳴君の心の平安のためにも、何とか解決策を探したいと思っている。



「お店の手伝いをするのはいいのだけど、給仕をする時の制服は? 男子も手伝うのなら、男女でお揃いにするのかしら? 後はメニューを具体的に決めた方がいいんじゃない?」



 続けてカンナさんも意見を出してくれる。

 上がった意見を、一つ一つノートに纏めていく。

 私も前から考えていたけれど、まだ解決しないといけない問題は山積みみたいだ。



「一つずつ片付けるか。店の名前はなくても何とかなるみたいなんだが、美咲はどう思う? なければ、神楽の店と呼ばれるみたいなんだが、味気ない気もするな」



 亮ちゃんに話を振られて、悩んでしまう。

 ネーミングセンスに自信はないから、困る。



「桜って、入れられないかな? こっちの世界に桜はないみたいなんだけど、スプーンの柄とか、ディアナさんのところで作ってもらった布とか巾着に、桜の花模様を入れたの。私達が住んでいた国の花だもの、店の名前に桜ってついていたら、一緒に転生した人には意味がわかると思うんだけど」



 冒険者になっていれば、迷宮のあるランスにくることもあるだろう。

 そのときに、店の名前を聞いて、同じ転生者の店だとわかれば、懐かしい料理を食べにきてくれることもあるかもしれない。

 どうせ店を作るのなら、憩いの場所にしたい。



「こっちの世界で名前のついた店は少ないが、ないわけじゃない。サクラって入れたいのなら、こっち風なら、サクラ亭とかサクラ館とか、つけるのが多いな」



 アルさんがこちらの世界の住人ならではの意見を出してくれる。

 桜亭に桜館か、何となくしっくりこない。



「こっち風にするなら、桜庵とかは? 後は桜花亭とか」


「俺は桜庵がいいと思うな」



 みぃちゃんが意見を出すと、すぐに尊君が乗ってくる。

 確かに、憩いの場という意味では、静かな雰囲気があって桜庵はいいかもしれない。



「そうね。桜庵っていいと思うわ。お店が憩いの場所になるといいと思うから」



 私が同意すると、みぃちゃんが嬉しそうに頷く。



「じゃあ、桜庵でいいか? 店の名前は決定だな。次は、店内の客席なんだが、昼だけ、テラス席も増やすか、それか、昼はピアノをアイテムボックスに片付けたらどうだろう? 夜は客席が減る分、予約制にして、昼より少し高級志向のメニューにしてみるとか」



 亮ちゃんの意見をノートに書きながら、考えてみる。

 昼と夜でメニューが違えば、どちらも食べてみたいという人が、どちらの時間帯にも来てくれるかもしれない。

 お客様を飽きさせないということは大事だから、やってみる価値はある。



「テラス席の欠点は、雨の日は出せないって事よね。それなら、最初から昼はピアノを片付ける方がいいかもしれないわ。それか、ピアノは昼もそのままにして、1階の個室を貴族専用にしないで、個室の予約も取るようにしたらどうかしら? そしたら、4つの個室がフル回転するから、ホールの席数が減る分も補えると思うの。夜はコース料理を出してもいいかもしれない」



 考えながら意見を纏め、自分の意見もしっかりノートに書いておく。

 話し合いに参加しながら、書いていくのは結構大変だ。

 貴族の人は、護衛がいたりして一人でくることはないと思うけれど、個室の前に待機できないことはない。

 ただ、できるなら、迎えに来てもらうという形を定着させたい。

 店の中は安全だし、ランス自体が、そこまで治安の悪い場所ではないのだから。



「個室の予約制はいいかもしれません。貴族じゃなくても、特別な記念日とか、個室の方がいいという人もいるでしょうし」



 鳴君の言葉に、私も頷く。

 いつくるかわからない貴族のために、個室を遊ばせておくよりも、貴族以外の人にも使ってもらえるほうがいいと思う。

 個室はそれなりの広さがあるので、テーブルさえ変えれば、8~10人くらいまでは対応できそうだった。

 それくらいの広さがあれば、ちょっとしたお祝い事にも使える。

 こちらでも、誕生日を祝う習慣はあるみたいだから、そういうときに使ってもらえるなら、バースデーケーキを用意してもいい。



「個室なら、マナーを気にせずに食えるから、冒険者でも利用しやすいかもしれねぇな。確か、ここの個室は、防音の魔道具も備え付けだっただろ? 飲んで騒いでも迷惑掛けずに済むなら、個室を使いたがる冒険者もいるはずだ」



 アルさんの意見は、逆の発想で、目からうろこが落ちた気分だった。

 確かに、ジンさんとかマナーを気にしていたし、個室ならそれがない分、リラックスして食事ができるかもしれない。

 冒険者は体が大きい人が多いけれど、1パーティは6人だから、個室は、パーティにはちょうどいい広さだ。



「でも、アルフ。酔っ払って暴れる人とかいない? 個室の備品とか壊されちゃうと、困っちゃうよ。花器とか特注なんだし」



 普段、他の冒険者と接する事の多いみぃちゃんが、心配そうに意見を出す。

 確かに酔って、暴れられるのは困る。

 シグルドさんのお店のお客さんみたいな人達だったら、問題なさそうだけど。



「俺が住んでる店で、いくら酔ったからって、暴れる度胸のある冒険者がいると思うか?」



 人の悪い笑みを浮かべたアルさんが、自信ありげに言い切る。

 言われてみれば、いないかもしれない。

 うちで食事をしようと考えるくらいのランクの冒険者なら、アルさんの事は絶対に知ってる。

 ランスの冒険者の質はいいと言われているらしいし、Sランクで尊敬されているアルさんが住んでいる店に、迷惑を掛けるとか、絶対ない気がする。



「いないな。うん、有り得ない」



 みんなの意見を代弁するように、尊君が呟く。

 みんな頷いているから、大丈夫そうだ。



「バケットサンドのおかげで、カグラの料理を食いたがってる奴も多いんだ。けど、この店は敷居が高いみたいでな。個室なら、安心だと思ったんだ。ある意味、隔離でもあるな。マナーのなってない奴が、ホールで酔っ払いながらメシ食ってるより、個室に押し込めておいたほうが、お互いにいいだろ」



 アルさんが酷い事をさらりと言う。

 確かにお互いのためではある気がするけど、そこまで言われる冒険者さん達が、かわいそうになってしまった。



「アルフって、意外と知恵が回りましたのね。本当に意外です」



 カンナさんが、褒め言葉に聞こえない言葉で褒める。

 感心してるのに、誤解されないかな?って思ったけど、アルさんはわかってるみたいで、笑って流している。



「じゃあ、個室を予約制にして、4つの個室をフル回転させて、昼もピアノはそのままでいいか? 夜のホールの予約はどうする?」


「完全予約制にしてしまうと、お客様の幅を狭めてしまうから、予約は個室だけにしたらどうかしら? 家族でのお祝い事に使ってもらったりするのもいいかと思ったんだけど。誕生日のお祝いで使ってもらうなら、ホールでケーキを出すサービスをしたりとかどうかな?」



 シグルドさんのお店で働いていた時に見た感じだと、夜、お酒を飲んでいても、食事が終わった後も居座る人は少なかった。

 1時間もあれば食事を終えて、帰る人が多かったから、個室を予約制にしても、そこまで長居はされない気がする。

 こちらでは、時間を知る手段が鐘の音しかないから、鐘に合わせて予約がいいだろうか。



「誕生日のお祝いはいいですね。バースデーケーキを定着させてしまえば、利用してくれる人も増えそうです」

 

「そうだな、誕生日は家で家族と祝う事が多いから、個室が予約できるとなれば、利用する事もあるかもな」



 鳴君とアルさんが、私の意見に同意するように頷いてくれる。

 いつもとちょっと違う特別な誕生日になるように、お店で演出できたらいいなと思う。


 予約時間に関しては、こちらの人は鐘に合わせて行動するから、時間にあまり正確ではないので、細かく設定すると、時間通り来店してもらうのが大変かもしれない。

 しかも、5の鐘の後は、鐘も鳴らないから、夜ともなると余計にアバウトになる。



「予約時間はお客様にもわかりやすいように、鐘の音にあわせるのがいいかな? 3、4、5の鐘の音にあわせたら、一日12組までになるけれど」



 5の鐘の後の予約は、下手に入れると閉店時間が遅くなりそうだから、予約を受けるのを鐘の音にあわせるのが、一番わかりやすいかと思った。

 ゆっくり食事を楽しんでもらいたいから、あまり忙しないのも申し訳ない。



「それが一番わかりやすいだろうな。鐘一つ分の時間があれば十分だろ」



 アルさんが、私の意見に頷きながら、ロールケーキに手を伸ばす。

 フォークを使うのが面倒なようで、手づかみだ。

 住人が増えたので、住居用で部屋はかなりふさがっているけれど、それでもまだ、あまりはある。

 もし、下の個室が、予定通り空かない時でも、予備があるから不測の事態には備えられると思う。



「じゃあ、席数の問題は解決だね。衣装はね、着物風にしようよ! 前にミサちゃんのクラスで文化祭に喫茶店やった時の、あの着物風の衣装、可愛かったから、あれ着たい」



 決まったことをノートに書いていると、リンちゃんが待ち構えていたように意見を出す。

 さっきからうずうずしていると思えば、これを言いたかったらしい。



「あぁ、あの衣装は可愛かったな。半幅帯で可愛く結んであったし、着物の丈も短くアレンジしてだろ?」



 文化祭で和風喫茶をやった時、あまりクラスの準備の手伝いをできないので、当日の衣装の着付けの手伝いをした。

 帯は一通り結べるので、できるだけ華やかな形に結んだのだけど、亮ちゃんは覚えていたらしい。



「衣装のことは、ディアナさんにも相談することになっているんだけど、あの衣装にするなら、半幅帯も着物も作らないとね。一応、和裁はできるし、半幅帯も材料さえ何とかなれば作れるけど、毎日あれだと、給仕するのが大変じゃない? 後、女の子はそれでいいけど、男子はどうしよう? 鳴君と尊君も給仕してくれるのよね?」



 念のため、全員分の衣装をそろえてもいいけれど、男女お揃いにしたいとなると、男物はどうするか悩んでしまう。

 丈の短い男物の着物は、はっきり言ってみたくない。

 すね毛だらけの生足なんか見せられたら、食欲が失せてしまう。



「今、さらっと酷い事、考えてただろ?」



 笑いながら亮ちゃんに小突かれて、誤魔化すように微笑む。



「別に、すね毛だらけの生足は見たくないとか、そんな事考えてないわ」


「考えてたじゃないか」



 言うなり、亮ちゃんに頭を抱きこまれてじゃれつかれ、じたばたと暴れて逃げようとする。

 頭を抱きこまれたまま顔を上げると、亮ちゃんと目が合って、二人で笑い出してしまった。



「そこ、話し合い中に、いちゃつかない!」



 リンちゃんから突っ込みが入り、みんなも笑い出す。

 結局、男性用の着物は、普通に作ることになった。

 衣装を用意するのが大変かもしれないけど、他にはないという意味ではとても目立つと思う。

 お店で使うものだから、プロに作ってもらう方がいいだろうし、作り方や素材などを教えて、ディアナさんに製作を依頼することにした。

 時々脱線しながらも、話し合いは続き、お店の開店に向けて一歩前進できた。




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