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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
48/109

幕間 エルフという種族

アーネスト視点。亮二達が合流する前の話ですが、ラルスの話などが混ざっているので、投稿しそびれていました。

最近影が薄いので、救済というわけではないですが、おまけっぽく投稿しておきます。




 エルフは排他的な一族だとよく言われる。

 だが、私は、排他的ではなく、臆病な一族だと思う。

 他の種族と比べて、長い時を生きるエルフは、多種族と交流を持つことで生じる別れの悲しみを嫌って、自国へ篭るものが多い。

 いつか悲しい思いをするのなら、最初から付き合わなければいい。

 そういった考えの者がほとんどだ。

 だから、森の国を出るエルフはとても珍しい。


 私はそんな珍しいうちの一人だ。

 転生者の父と森の国の王女を母に持つ私は、確かに王家の血を引いているが、王位継承権は持っていなかった。

 それというのも、エルフは血統主義者が多いからだ。

 特に王家や上位貴族では、純粋なエルフの血を受け継ぐべしという考えが罷り通っていて、多種族と婚姻した段階で、生家からは離れることになる。

 排他的な血統主義といっても、神に遣わされた転生者に対しては友好的だから、転生者との婚姻の場合は、円満に済むことが多かった。

 私の母も、父の姓であるマクダネルを名乗り、王家とは無縁とされながらも、女公爵として爵位を賜っている。


 血統主義になるのも、臆病の表れだと私は思っている。

 他種族との間に子供ができたとしても、確実に自分よりも早く死んでしまう。

 純血のエルフの寿命は400から500年あるのに対して、他種族の寿命は長くて100年、ハーフエルフとなれば、少しは寿命も延びるものの、それでも200年生きればいいところだ。

 最愛の伴侶や子供が、自分よりも先に死んでいく悲しみに、耐えられない者が多いのだ。

 だからエルフは、子供ができにくくても血統主義になる。

 神の恩恵なのか、エルフでも、転生者との間には子供ができやすかった。

 しかも、転生者は比較的長生きなので、排他的なエルフの住む森の国での、転生者の扱いは悪くない。

 普通は、王家の女性を妻にしたら、第二夫人などありえないけれど、転生者にはそれも許されている。

 だから、私には母の違う兄弟もたくさんいる。

 転生者との間の子供は、エルフの特徴を受け継ぎやすいというのも、好まれる理由の一つだ。

 私は滅多にないことに、人に近い外見に生まれてしまったけれど、他の兄弟達は見た目だけではハーフとはわからない。

 兄弟なのに自分一人だけ姿が違うというのは、幼い頃は、疎外感を感じていた。

 兄や姉達は、父に似ているのを羨んでくれたので、その疎外感もちっぽけなものであったけれど。

 母よりも父の血が濃く出た私は、身体能力的にも優れていた。

 森の国にある迷宮で自身を鍛え、いつしか旅に出ることを望むようになっていた。

 父以外の転生者に会ってみたかったのだ。

 冒険者として15歳の時に森の国を出た。

 人の15歳ならば成人だが、長く生きるエルフの15歳では、見た目はまだ幼かった。

 侮られる事も多かったが、魔法に長けたエルフの血も引いていたので、冒険者として生きることに問題はなかった。

 森の国で作られた優秀な魔道具を、色々と持ち合わせていたので、それにも助けられた。


 街から街へと移動する間には、小さい村もある。

 人手が足りず、物資も足りず、困窮している村も中にはあった。

 私は父からの遺伝で、アイテムボックスのスキルを持っていたので、そういった村に物資を運べるよう、いつしか商人のようなこともするようになっていった。

 森の国の魔道具である、アイテムボックスと同じ機能のバッグを持っていたことも、それを助けた。

 旅をしながら商人紛いのこともするために、商業ギルドにも登録をした。

 途中、転生者や転生者の子孫と会いながらの旅は、少年であった私の冒険心を満足させてくれた。


 旅の途中で知り合った、当時のランスの商業ギルドのマスターに誘われ、ランスの街に定住する事にしてからは、冒険者を辞め、商業ギルドに入った。

 商業ギルドでは着々と出世して、マスターが引退する時に、ギルドマスターを引き継ぎ、史上最年少のギルドマスターとなった。



 ギルドマスターになって3年、長く旅をしていた私は、定住する事に少し飽きつつあった。

 商業ギルドを発展させる為に、日々、仕事に勤しむ事に不満はないが、無性に旅に出たくなる時もある。

 ギルドのトップとなると、私用で安易に街を出ることができないというのは、ちょっとしたストレスだ。

 ランスの街の領主であるラルスは、幼い頃から縁があって、今は立場が違えど、それなりに親しくしていたし、ラルスの手助けをしたいと思う気持ちもあったので、ギルドマスターを続けていた。


 そんな時、私の前に現れたのがカグラだ。

 転生者だという美しい彼女は、見たこともない料理を作る料理人だった。

 家事などとは一切無縁の貴族の令嬢のように見えるのに、華奢な見かけを裏切るほどに逞しい。

 思慮深く冷静で、それでいて女性らしい柔らかさ可愛らしさも持ち合わせていて、強く惹かれた。

 速攻で求婚したが、冗談だと思われたようだ。

 諦めるつもりはないので、長期戦で行くつもりだったが、目の前をちょろちょろとする冒険者がいて、顔を合わせればいがみ合ってしまう。

 20年ほど前に、ミシディアで会った転生者のくそ生意気なひ孫と、ランスで再会するだけでなく、一人の女性を争う事になるとは思わなかった。


 カグラといると、飽きる暇もない。

 次から次に私を驚かせてくれる彼女は、やはり得がたい女性だ。

 彼女がいるのなら、私はもう旅に出たいとは思わないだろう。




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