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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
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3.レベルアップ


 旅行バッグに残っていたおにぎりとお茶で朝食を済ませて、防具をきちんと身につけてから、コテージを片付けた。

 所有者が外に出て、隠してあるボタンを押すと元の卵形に戻るようになっていた。

 武器もちゃんと持ち歩くべきかと思ったけれど、すぐに取り出せるのでアイテムボックスにいれたままにしておく。

 奴隷制度はないようだけど、盗賊などはいるみたいなので、できる限り早めに大きな街へ移動する事にした。

 と言っても、徒歩で行くしかないので、丘の上から見えた建物を目指して歩いていく事にする。

 荷物の中にマグボトルとペットボトルがあったので、コテージでマグボトルには温かいお茶を、ペットボトルには水を入れておいた。

 生活魔法で水は出せるけれど、用意しておいても無駄にはならないだろう。


 丘を下りながら、辺りの植物を鑑定して、役に立ちそうなものを探していく。

 せっかくアイテムボックスを持っているのだから、食料になりそうなものや、こういった異世界物では定番の薬草などを集めるつもりだった。

 植物などは日本とあまり変わらないものも、見たことがないものもあった。

 鑑定が大活躍で、ハーブや果物、そして、やっぱりあった薬草などを採取していく。

 少しずつ地図が表示されるようになったので、半透明のまま視界の隅に現れるようにしておいた。


 左手に広がる森はタルマの大森林というらしい。

 森から少し離れたところに街道を見つけたので、街道沿いを歩く事にした。

 見晴らしの悪い森では、魔物が出てきても気がつかないかもしれないので、森から離れる草原の方へ、街道を進んでいく。

 襲い掛かられるわけではないけれど、時々生き物の気配がする。

 街道なのに、人の姿はまったくないので、遭遇しても武器を見て警戒はされないだろうと、アイテムボックスから薙刀を取り出しておいた。

 食料を得たいならば、動物を見つけて倒した方がいいとわかっているけれど、まだ生き物を殺す心構えができていない。

 草原の中にも薬草や料理に使えるハーブは生えていて、時々採取しながら歩いていく。

 装備の性能がいいのか、随分歩き通しなのに疲れを感じる事はなかったけれど、持っていた時計で時間を確認して、お昼になった時に一度休憩をすることにした。


 手ごろな岩を見つけたので、腰を落ち着けて、途中で見つけた見た目も名前もリンゴな果物を、念のためにペットボトルの水で洗ってから、ほんの少し齧ってみる。

 毒のあるものは、鑑定で毒と出ていたので、毒物の可能性はないけれど、一人きりで何かあったら辛いので、用心した。

 見た目と名前がリンゴな果物は、幸いな事に味もリンゴだった。

 お菓子にも使えそうな少し酸味のあるリンゴで、みずみずしくてとても美味しい。

 食べ終えて、コテージで作っておいたお絞りで、少しべたつく手や口元を拭いた。

 べたつくほどに糖分が高いという事だから、この世界の食糧事情に期待してもいいのかもしれない。

 昔、品種改良をされる前の果物はとても酸っぱかったと、何かの本で読んだことがある。

 特に改良されなくても、これだけ甘みのある果物が普通に手に入るのなら、料理をする上で問題はない。

 


 脱水を起こさないようにしっかり水分を取ってから、また歩き出した。

 午後に入って幾度目かの採取をしている時に、何かを知らせるような音が鳴った。

 いきなり音がして、一瞬ビクッとしてしまったけれど、念のためにとステータスを開いて確認すると、名前の横についていたレベルが1から2に変わっていた。



「さっきのはレベルアップの音なのかな?」



 ハーブを摘んでいただけなのにレベルが上がったのは、職業が料理人だからかもしれない。

 何にしても、アイテムが手に入ってその上経験値までもらえるのならば、ありがたいことだ。

 レベルが上がれば上がるだけ、死ぬ可能性が減っていくのだから。


 しばらく歩くと、草原から何かが飛び出してくる。

 慌てて薙刀を構えると、そこには大きな角の生えた兎がいた。

 見た目からして、これは魔物だろうと思ったけれど、一応鑑定してみると【一角兎Lv4】とだけ、表示される。

 レベルがあるのは魔物で、ないのは動物と、本に書いてあったから、やっぱり魔物で間違いないようだ。

 でも、初遭遇の魔物がLv4ってちょっとレベルが高すぎじゃないだろうか。

 倒せるのかどうか不安になってしまい、緊張してしまいながら兎を見据える。

 特に襲い掛かってくるわけでもない、何故か硬直している兎に攻撃を仕掛けるのを躊躇っていると、向こうから突進して来た。

 直線的な動きなので、避けながら兎の首を狙って切り付ける。

 武器の性能がいいのか、運がよかったのか、その一撃だけで兎は事切れた。


 咄嗟の事で、反射的に切りつけたけれど、今頃になって胸がどきどきとしてくる。

 解体ナイフを兎に刺すと、皮と角と肉が残った。

 奪った命を無駄にしないように、全部アイテムボックスに入れて、水で喉を潤す。

 手が、まだ少し震えている。

  料理をしていれば、加工してあるとはいえ肉も使うし、魚は丸ごと買ってきて捌く時だってある。

 自分の手で命を絶ったことこそ、初めてだけど、殺すのが辛いなんて綺麗事を言うつもりはない。

 だけど、初めて他者の命を奪った、このなんとも言えない気持ちを、分かち合える相手がいたらと、考えても仕方のないことを思わずにいられない。

 誰かと分かち合う代わりに、ネックレスに通した指輪を服の上からぎゅっと握る。

 そのまま、大丈夫と繰り返し自分に言い聞かせて、何とか落ち着きを取り戻していった。


 コテージの準備は一瞬でできる。

 だから今日は、夕暮れまで頑張って歩き続ける事にした。

 早く、人のいる場所へ辿り着きたかった。



 街道を歩き始めて3日目の夜、コテージのキッチンで手に入れた食材を使って料理をしていた。

 さすが異世界というだけあって、不思議な植物や生物が溢れている。

 コケッコという魔物を倒せば、肉や卵をドロップするし、サトウカエデという植物の葉を採取したら、さらさらっと崩れて砂糖に変わった。

 見た感じはグラニュー糖だ。

 塩の実という植物は、触ればホウセンカの種のように弾けて、塩の小さな固まりが零れ落ちる。

 調味料が簡単に手に入るのはありがたいけれど、思いがけないところから手に入るので、いちいちびっくりさせられてしまう。

 油の樹も見つけたので、採取するために幹に傷をつけてから、下に使っていないたらいを置き、一晩放置していたら、溢れるほどにたまっていた。

 容器もないのにどうやって保存したら?と、採取してから悩んでしまったけれど、仕方がないのでたらいごとアイテムボックスに入れてしまった。

 どこかの街にたどり着いたら、容器を見つけて移しかえるしかない。


 食材は色々見つかるけれど、米や小麦などの主食は見つからなくて、ここしばらくおかずと果物だけという生活だ。

 調味料があるだけマシと思うけど、そろそろご飯が恋しい。

 街道では全然人と会わないので、休憩の時などもこまめにコテージを使うようになった。

 中に入れば安全だし、水も使えて水洗のトイレもあるので、有効活用している。

 おかげで、ずっと歩いてばかりだけど、そこまで疲れてもいない。

 レベルも上がり、食材や薬草もたくさん集まってきた。

 永続型のコテージだからか、出した時に中に置いてあったものはそのまま出てくるので、いつか荷物が増えたら、荷物置き場としても使えそうだ。

 置いたものはそのままなのに、コテージを出した時には、中は清掃され、綺麗にベッドメイクもされた状態で出てくるので、掃除いらずで助かっていた。

 もう一つ嬉しい点は、コテージの結界に特攻をかけて死んだ魔物が手に入ることだ。

 初日は、魔物が出ない安全地帯だったのか、何もなかったけれど、次の日の朝から、外に出るたびにコテージを囲むように魔物が倒れていた。

 さすがに経験値は入っていないみたいだけど、所有権は私にあるみたいで解体ナイフで素材が手に入る。



「やっぱり、ご飯かパンが欲しいな」



 から揚げとハーブのサラダの皿をカウンターに並べながら、小さくため息をついた。

 温かいものを食べられるだけマシだと思うけど、主食が欲しい。

 せめて、じゃがいもみたいなものが見つかるといいんだけど。

 デザートの桃をカットして、木製の器に盛り付けた。

 備え付けの食器は、陶器が多いけれど、ガラスはなくて、一部は木製だ。

 ボウルなどの調理器具もほとんど木製で、フライ返しやお玉はあるけど、泡だて器みたいなものはない。

 というのも、料理人のスキルに撹拌があるからだ。

 スキルを使って撹拌すると、泡だて器を使うことなく撹拌できる。

 どういう状態にするかはイメージ次第みたいだけど、まだなれなくてうまく使えてる感じがしない。

 ただ、泡だて器があれば、スキルを使うほどではないときに便利だと思う。 

 一人で寂しく夕飯を食べていると、レベルアップのときと同じ音がした。

 何もしていないのに、何故だろう?と、一応ステータスを確認するけれど、何も変化はない。

 


「何だったのかな?」



 しばらく色々と見てみたけど、やっぱり変化はなくて、わからないので諦めることにした。

 一人だと情報も足りないし、相談もできないから、わからないことがあっても解決するのが難しい。


 翌日、休憩のためにコテージを出してみたら、ベッドがあった場所にドアが増えて、寝室が別になっていた。

 ワンルームが1LDKに変化した感じで、寝室にはセミダブルのベッドが二つ並んでいる。

 どうして中の作りが変わったのかわからなかったので、一度コテージを収納して鑑定をかけてみた。



【コテージLv2:永続使用可。譲渡不可。破壊不可。持ち主に悪意を持つ者は招待されても弾かれる結界付きコテージ。最大レベル10】



 アイテムなのにレベルがついている。

 しかもまだレベルが上がる可能性があるみたいだ。

 レベルアップの要因を考えてみる。

 多分、夜中に魔物を倒した経験値が一番大きいんじゃないかと思う。

 後はコテージの使用率とか使用回数とかだろうか。

 よくわからないけど、更に便利になるのなら嬉しい。

 もう一度コテージを出して中に入ると、ソファの前のローテーブルの上に操作パネルのようなものが増えていた。

 木製のテーブルの一部に、ステータスの画面のように文字が見えていて、タッチする事で操作できるようになっている。

 使わないときは消しておく事もできるみたいだ。

 まだレベルが足りなくて未開放の機能がほとんどだったけれど、結界の設定などをすることができるようになっていた。

 魔物に対しては迎撃、人に対しては防御のみという風に設定を変えて、一晩様子をみることにする。

 盗賊対策なのか、人に対しては捕縛というものもあった。

 捕まえても一人では対処できないので、しばらく使いどころはなさそうだ。

 一人でも安全なようにと用意されたコテージだけど、かなりのチートアイテムなのではないだろうか。

 中にいる間、何の警戒もしないですむのは助かるけれど、一人だけずるをしているような気持ちになる。

 他の人達はどんな状況なんだろう?と、少し申し訳ない気持ちを感じながら、一人きりの夜を過ごした。


 翌朝、普段の3倍以上の魔物がコテージの周りで倒されていた。

 迎撃に切り替えたのは正解だったみたいだ。

 手早く解体ナイフを刺して解体を済ませ、また、遠くに見える建築物を目指して歩き出した。

 日に日に近くなるけれど、まだたどり着くまでには時間が掛かりそうだった。




初戦闘が一撃ですんだのは、武器と防具の性能がいいからです。

転生者が死に辛いようにと、転生者全員に与えられた武器と防具なので、それなりの性能です。

レベルアップの早い転生者が、しばらく武器などの買い替えをしないでいい様にという意味合いもあります。


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