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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
37/109

29.クラスメイト




 次の日、私は早速商業ギルドに向かって、ミシェルさんにピアノの事を聞いてみた。

 もし、グランドピアノしかないなら、お店の内装も考え直さないといけないから、早目がいいと思ったのだ。

 昨日、亮ちゃんから話を聞いて、例えグランドピアノしかなくても、絶対にピアノを手に入れようと決意していた。

 それに、ピアノを置くなら、調律やメンテナンスがどうなっているのか、それも調べないといけない。

 


「ピアノでしたら、中古でよろしければ、たまに没落した貴族が売りに出したピアノを、商業ギルドで取り扱う事もございます。ただ、カグラ様がおっしゃるような形のピアノは見たことがありません。もし、お店にピアノを置かれるのでしたら、席数を減らすか、魔道具でスペースを拡張するか、どちらかになりますが、魔道具となりますと、かなり高くなってしまいますので、あまりお勧めはできません」



 ミシェルさんの表情からすると、魔道具はかなり高いんだろう。

 ピアノを置きたい気持ちはもう固まってるから、グランドピアノを置くことで生じる問題を、どう片付けていくか考えないといけない。



「こちらでお願いしたら、ピアノを手に入れることはできますか? それと、ピアノって大きいですけれど、アイテムボックスには入りますか?」



 もし、アイテムボックスに収納できるのなら、夜だけピアノを出すという手もある。

 みんなで考えれば、他にももっといい案が出るかもしれない。



「アイテムボックス(中)のスキルなら何とかなります。実際、街から街の輸送は、アイテムボックスのスキルを持った者が行いますから。今、ランスでは在庫がありませんので、王都から取り寄せになります。ですので、少しお時間をいただくことになりますがよろしいですか?」



 時間がかかるくらいは、仕方がない。

 確実に手に入るのなら、それでいい。

 値段を確認すると、さすがに貴族の家にしかないような楽器だけあって、高かった。

 手持ちのお金をかき集めれば払えなくはないけれど、本当にぎりぎりになってしまう。

 収入がまったくない状態で、手元にお金がないのは不安なので、私も少し冒険者として活動したほうがいいかもしれない。

 この後、冒険者ギルドでクエストを確認してみよう。


 ミシェルさんにピアノを頼んで、その足で冒険者ギルドに向かった。

 食材は山ほどあるし、家もあるから、生活には困らないけれど、何かあった時のためにできるだけ備えておきたい。

 それに、お店にまだお金を掛けないといけないので、みんなと一緒に迷宮にいくことも考えた方がいいかもしれない。

 料理やお菓子を作って、売るということも考えたけれど、開店前の店にどうやって集客したものか悩む。

 アーネストさんに相談すれば、何とかしてくれるかもしれないけれど、あまり頼り過ぎるのも申し訳ないと思ってしまう。

 ただでさえ、私のことでは嫌な噂も立てられて、迷惑を掛けてしまっているのだから。



「カグラ様、ちょうどいいところに来てくださいました」



 冒険者ギルドに入ると、すぐにシェリーさんがカウンターから出てきた。

 いつもと違って、少し焦ったような様子だ。



「どうかなさったんですか?」



 何かトラブル発生だろうか?と、首を傾げる。

 正直なところ、冒険者としての実力の足りない私で対処できるのかどうか、怪しいと思うのだけど。



「とりあえず、こちらへ」



 シェリーさんに案内されて、普段は行かない1階の奥へ続く扉を通って、医務室などがある方向へ歩いていった。

 訓練所や医務室があるのは知っていたけど、私は一度も利用した事がない。



「実は、小迷宮の方で、転生者らしい冒険者の女性が襲われまして、運び込まれたんです。行為自体は未遂だったんですが、精神的に酷いショックを受けているようで、目が覚めてからはずっと泣いていて、お話もできない状態なんです」



 痛ましそうにシェリーさんが事情を説明してくれる。

 同じ女性として、それがどれだけの恐怖だったのか、想像するだけでも震えてしまう。

 転生者だったとしたら、みんなパーティを組んでいたはずなのに、どうして一人だったのかわからないけれど、会って、できるものなら助けになりたい。



「どうして、シェリーさんはその方を転生者だと思われたんですか?」



 見てわかるほどに、転生者は違うものなのかと思って尋ねてみた。

 シェリーさんは私のことも、最初から転生者だと気づいていたようだった。

 


「何となくとしか、言いようがないんですけれど、あえて言うなら雰囲気でしょうか? カグラ様もですけど、育ちがよさそうな印象があるんです。安全な場所で大切の育てられたような、そんな雰囲気です」



 私の通っていた学校は、それなりに育ちのいい人も多かったから、そういう雰囲気が出ているんだろうか?

 私も、亮ちゃんに言わせると、世間知らずで箱入りのお嬢様らしいし。

 

 話しているうちに医務室に辿り着いた。

 軽くノックをしてから中に入ると、学校の保健室に似たような空間だった。

 左手にベッドがいくつか並んでいて、正面は治療を行うスペースになっている。

 魔法やポーションがあるからか、消毒薬みたいな匂いはしない。



「失礼します」と、声をかけて入ったけれど、反応はない。

 泣き疲れて寝てしまったのか、泣き声は聞こえず少しホッとした。

 起こさないようにそっと近づいてみると、少しやつれて痩せているけれど、そこにいるのはクラスメイトの楠木さんだった。

 背が小さくて童顔の可愛らしい人で、園芸部で熱心に活動していた。

 花の世話が好きな大人しい子だったので、私も話しやすくて、修学旅行の時も同じ班だった。

 同じクラスの坂木君と付き合っているというのを、旅行中に聞いて、意外に思ったのを覚えている。

 サッカー部の坂木君は、ちょっと派手な感じの子で、大人しめの楠木さんと並んだ姿が想像できなかった。

 同じクラスで恋人同士なのに、修学旅行中はあまり一緒に過ごしてなかったみたいだった。



「シェリーさん、私が見てますから、お仕事に戻ってください。もし、うちの者がギルドに来たら、帰るのが少し遅くなると伝えてもらえますか?」



 居場所がわからないと心配を掛けてしまうので、伝言だけ頼んで、二人にしてもらった。

 シェリーさんなら受付にいるので、誰かがギルドに私を探しにきたりしたら、すぐに気づいてくれる。


 様子を見ると、特にうなされる事もなく寝ているようなので、ベッドの横に置いてあった椅子に腰掛けて、アイテムボックスから縫いかけの浴衣を取り出し、縫い始めた。

 何か細かい作業でもしていないと、色々と考えてしまって、不安になりそうだ。

 この世界にきてから、クラスメイトに遭遇したのは初めてだから、少し緊張していた。

 しかも、状況が状況だから、なんと話しかけたものか悩んでしまう。



「――神楽さん…? どうして、いるの?」



 しばらく作業に没頭していると、少しかすれた声が聞こえた。

 目を向けると、驚いたように目を瞠って、楠木さんが私を見ている。

 大きな瞳から、涙が溢れるのを見て、焦ってしまった。

 何か泣かせるような事をしてしまったのだろうか?

 時間つぶしのように浴衣を縫ったりしていたから、気に障ってしまったのだろうか?



「……ごめんなさいっ…! ……あの時、ひとりにして、ごめんなさいっ」



 おろおろとしていると、勢いよく体を起こした楠木さんが、泣きながら謝りだした。

 浴衣をアイテムボックスに放り込んで、ハンカチを差し出す。



「罰があたったのっ……あの時、自分のことしか考えなかったから……だから、私も、一人になっちゃったのっ」



 状況はよくわからないけれど、楠木さんがとても自分を責めているのはわかった。

 あの時は、私も進んでパーティに入ろうとしなかったし、楠木さんが悪かったわけではない。

 それに、誰だって不安な時に自分優先になってしまうのは、当たり前の事だと思う。



「楠木さんは、罰が当たるような事は何もしてないわ。一人って、パーティを組んでいた人とは別れてしまったの? ――坂木君は?」



 ハンカチを受け取ってくれないので、次々に零れる涙を拭きながら問いかけた。

 無神経かもしれないと思ったけれど、多分、同じパーティにいたはずの坂木君の事を聞くと、辛そうに身を強ばらせて俯いてしまう。

 話そうにも涙で声にならないようで、懸命に呼吸を整えようとしているのがかわいそうで、宥めるようにそっと背を撫でた。



「翔太君とも、別れたの……私、役に立たないからっ…お料理も上手じゃないし、戦えないし、お荷物だから、いらないって」



 職業は色々だから、戦えない人がいてもおかしくない。

 私達は、平和な世界で、殊更平和に育ったのだから、戦闘スキルがない人もたくさんいたんじゃないかと思う。

 だからこそ、パーティを組むようにと言われたのだと思う。

 それなのに、一人になってしまって、どれだけ不安だっただろう。

 私は、自分が戦えるだろうとわかっていたから、一人でもまだ随分マシだった。

 けれど、戦う手段も持っていない女の子が一人で、しかも迷宮にいたなんて、随分怖い思いをしたんじゃないだろうか。



「苦労したのね。でも、一人なのに、どうして危険な迷宮にいたの?」



 宥めるように、慰めるように、そっと髪を撫でた。

 浄化の魔法しか使ってないのか、髪は随分傷んで、艶がなくなっている。

 向こうにいたときは、いつも可愛く整えていて、愛らしい雰囲気だったのに、別人みたいだ。

 


「迷宮の前で、置いていかれて、一人は嫌だから追いかけたの。そしたら、知らない人達が、一人は危ないから一緒に探してくれるって言ってくれて。でも、翔太君達は見つからなくて、休憩してた時にっ――……優しい人達だって、思ってたのに、別人みたいになってこわくてっ」



 素直に迷宮にいた理由を教えてくれて、そのうちに襲われた恐怖を思い出したみたいで、真っ青になっていく。

 辛い事なのに、話そうとしてくれるのは、私に対する罪悪感があるからなのかもしれない。

 小さく震えているのが、彼女の感じた恐怖を強く伝えてきて、涙が溢れそうになった。

 けれど、辛い思いをしたのは私じゃないんだからと、何とか耐える。



「もう、いいわ。話さなくていいから。大丈夫、怖い人はもういないし、ここは安全だから。もう、怖いことは何もないから、落ち着いて、ね?」



 温もりを伝えるように、ぎゅっと抱きしめた。

 縋るようにきつく抱き返してきた楠木さんが、子供のようにしゃくり上げる。

 好きなだけ泣いた方がすっきりするから、抱きしめて、あやすように背中を撫で続けた。

 こんなに可愛い人を一人で放り出せば、危険だとわかっているはずなのに、放り出した坂木君達に腹が立ってしまう。

 取り返しのつかない事態にならなくて、本当に良かった。

 もしかしたら、楠木さんも良妻賢母の称号を持っているのかもしれない。

 だから、運よく助けが入ったんじゃないだろうか。



「喉、渇いていない? これ、飲む?」



 泣き疲れて落ち着いた頃、マグボトルに入れた冷たいレモネードを、ボトルごと差し出した。

 レモンは市場で手に入るし、はちみつは迷宮でたくさん手に入れたから、レモネードはいつも持ち歩いていた。

 冷たいほうがおいしいので、マグボトルを愛用している。

 鳴君の出してくれた氷入りなのだ。



「冷たいっ……それに、甘くておいしい……。冷たいのも甘いのも、すごく久しぶり」



 今までどこにいたのか知らないけれど、冷たい飲み物一つでも、元の世界みたいに簡単に手に入れることはできないから、久しぶりなのも仕方がないかと思った。

 戦闘手段がなくて苦労していたみたいだから、パーティ内でも肩身の狭い思いをしていたのかもしれない。



「全部飲んでいいからね。お腹は空いていない?」



 何か食べると落ち着くかもしれないと思って、アイテムボックスからクッキーを取り出す。

 それを見て、楠木さんが小さな笑みを零した。



「どこにいても、神楽さんは神楽さんなのね。手作りのクッキーが出てくるなんて、思わなかった」



 楠木さんは、「いただきます」と、クッキーを一つ齧ると、泣き出しそうな顔で笑った。

 元の世界では、ありふれたただのクッキーだけど、懐かしかったのかもしれない。



「私ね、職業が料理人だったの。ランスは乳製品が手に入れやすいから、お菓子も作りやすいのよ。今度、楠木さんの好きなお菓子を、何か作るわ」



 少しでも楽しみを感じて欲しいと思って、先の約束をする。

 些細な約束でも、小さな希望でも、何か一つでもあれば、気力は沸いてくると思うから。



「神楽さんは、私のこと、怒ってないの?」



 不思議そうに問われて、自分の心を探るように考えてみる。

 怒りのようなものは、まったくない。

 あの時、私は選んで一人になったのだから、誰のせいでもない。



「怒る理由がないわ。それに、一人だからって、自分だけ苦労したとは思わないもの。みんな、同じでしょう? それぞれ、状況が違って、その人なりの苦労があるはずよ」



 本音だと伝えるように微笑みかけると、泣き出しそうな顔のまま、楠木さんは微笑んだ。

 その笑みは、何かを必死に乗り越えようとしているようにも見えて、ぎこちないのにとても綺麗だった。



「ありがとう。神楽さんがそう言ってくれて、凄く、救われた。でも、もう一度だけ謝らせて。あの時は、本当にごめんなさい」



 楠木さんが、謝りながら深々と頭を下げる。

 本当に心から申し訳なく思っているのだと伝わってきた。

 私が気にしなくても、楠木さんはずっと気にしていたのだろう。



「謝罪を受け入れるし、赦すわ。だから、もう、謝るのはこれでおしまい」



 何も怒っていないけれど、それで楠木さんの気持ちが楽になるのなら、受け入れようと思った。

 一人になってしまった彼女が、前に進むためにも必要な事なのかもしれないから。



「あの時ね、私、怖かったの。神楽さんが一緒にいたら、翔太君は、神楽さんのことを好きになっちゃいそうで、不安だったの。だから、神楽さんのこと、パーティに誘えなかった。――こっちに来てから、あの時、私じゃなくて神楽さんと組んでればよかったって、何度も言われた。私の他はみんな男子だったから、料理とかできなくて、食材が手に入っても、まともな物を食べられなかったの」



 少しずつ、こちらに来てからの事を話してくれるけれど、少し吹っ切れてきたのか、辛そうな様子はない。

 話を聞いていると、むしろ、私を恨んでも仕方がないような気もするのに、そうならない辺り、楠木さんは優しいと思う。



「職業も植物遣いで、植物を育てたりはできるけど、戦えなくて、役に立てなかったし、料理もほとんどやった事がなかったから、私だけ何もできなくて、段々、翔太君までみんなに責められるようになっちゃって。翔太君が私と付き合ってなかったら、パーティに入れる必要もなかったのにって……」



 当時のことを思い出したのか、小さなため息が零れる。

 その後も、少しずつ、思い出すように今までのことを話してくれたけれど、聞くに堪えないようなひどい話もあった。

 やっぱり、楠木さんは良妻賢母の称号を持っていたそうで、それがなかったら、信頼すべき仲間に酷い事をされていたかもしれない。

 実際に、何度も襲われかけて、そのたびに邪魔が入っていたらしい。

 街から遠いところに飛ばされたみたいで、小さな村を辿り、街を目指して旅をしていたそうだ。

 旅をしているうちに、転生者だと知れると、どこの村でも歓迎される事がわかって、襲われることもなくなったと聞いたときはホッとした。



「ねぇ、これからの事なんだけど、楠木さんさえよかったら、私の家に来ない? 庭が広いから、手入れをしてくれる人がいると、とても助かるの」



 戦闘手段もないのに一人ではどうにもならないと思うし、それに、庭の手入れをしてくれる人がいたら、とても助かるから、家に誘った。

 園芸部で熱心に活動していた楠木さんは、花や植木の手入れも慣れているみたいだったし、職業になるからには、何かスキルもあるはずだ。

 そのうち、冒険者としても活動したいと楠木さんが思ったときは、亮ちゃん達に頼んで、狩りに連れて行ってもらってもいいし、私が一緒に行ってもいい。

 楠木さんは私に謝っていたけれど、私としては、私のせいで迷惑を掛けたような気がして、せめて何か役に立てたらと思った。



「家があるの? 庭の手入れは好きだから、役に立てるなら嬉しいけれど、でも、いいの? ただのクラスメイトで友達だったわけでもないし、一度は神楽さんを見捨てたのに……」


「もう、それは謝ってもらったから、終わった事でしょう? それに、これから、友達になればいいじゃない。私、色々と理由があって、同性の友達を作るのが怖かったの。だけど、楠木さんとは友達になりたい。ダメかな?」



 楠木さんは私を苛めてた人達とは全然違う。

 ずっと、同性の友達を作ることに消極的だったけれど、そろそろ変わっていい頃かもしれない。

 同情とかそういうのはまったくなくて、嫌な目にあっても荒む事もなく、謝る事のできる楠木さんを好ましく感じたから、友達になりたいと思った。

 首を傾げ、窺うように見つめると、何故か楠木さんが真っ赤になっていく。

 そんなに恥ずかしがるような事を言っただろうか?と、自分の言動を振り返ってみるけれど、よくわからない。



「あのっ、私でよかったら、よろこんで。よろしくね、……美咲さん」



 躊躇ってから、真っ赤な顔のまま名前を呼ばれて、気恥ずかしさと嬉しさで頬が緩んでしまう。

 女の子の友達に名前を呼ばれるのは、よく考えたら幼稚園以来かもしれない。

 小学生の時は、周りより大人びて見えたからか、神楽さんと呼ばれていたし、リンちゃんはミサちゃんと呼ぶし、カンナさんは神楽さんと呼ぶ。

 そのことに気づいたら、照れてしまって頬が熱くなってしまった。



「こちらこそ、よろしくね、結花さん」



 名前を呼ぶと、驚いたように見つめられた。



「私の名前、覚えていてくれたんだ」



 嬉しそうに微笑まれて、つられるように笑みが零れる。



「ゆうかって、いい名前だなぁって思っていたから。花を結ぶって、風情があってとても綺麗な名前だと思うわ」



 クラスの自己紹介で、初めて名前を聞いたときから思っていたことを口にすると、真っ赤になって恥らわれてしまった。

 楠木さんは少し幼い顔立ちなので、とても可愛い雰囲気になるのが羨ましい。


 しばらく話をしていたら、帰りが遅いので心配した亮ちゃんが迎えに来たので、従兄だと紹介すると、とても驚かれてしまった。

 亮ちゃんは生徒会長をしていて有名だったから、余計にびっくりしてしまったらしい。

 最初、結花さんを見た亮ちゃんは、少し人見知りを発動していたけれど、しばらく様子を見て警戒を解いたらしい。

 一緒に夕飯を食べる頃には、普通に接するようになっていた。

 結花さんが家の大きさに驚いたり、亮ちゃんの他の生徒会役員に驚いたりしていたけど、何とかお互いの紹介をすることができた。

 でも、住む場所が、お店の建物とコテージで分かれていると知って、安心していた様子だったので、元気そうにしているけれど、傷は深いのだとわかった。

 しばらく、気をつけて様子を見たほうがよさそうだ。

 結花さんがコテージのお風呂に入っている間に、亮ちゃんに事情を話して、しばらくの間、コテージは男子禁制にした。

 そのうち、リンちゃん達もやってくるだろうし、賑やかになれば結花さんの気も紛れるはずだ。

 一日も早く傷が癒えることを、祈る事くらいしかできないのがもどかしいけれど、焦っても仕方がない。

 心の傷が治りにくいものだというのは、身を持って知っているのだから。


 紹介してくれたカロンさんには申し訳なかったけれど、頼む予定だった庭師の人は断って、結花さんときちんと契約を結んで雇う事にした。

 身近に同性の友人がいるというのは、女の子同士分かり合えることもあって、心が休まった。



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