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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
16/109

12.有益な情報



 たくさんの竹を切り、山のように竹ひごを作って、一日の労働の後にはがっつりとご飯を食べて、アルさんは帰って行った。

 しかも、リンちゃんとカンナさんに勧められたとのことで、山のようにお米も味噌も醤油も持っていて、その上、鰹節や昆布まで持っていた。

 夢にまで見た馴染み深い食材を惜しげもなく出してくれたアルさんが、私には神様みたいに見えた。

 これでだしをとって和食が作れる!

 勧めてくれたリンちゃん達にも、そして、素直に受け入れてくれたアルさんにも大感謝だ。

 

 聞いてみれば、アルさんがランスにいる時の定宿はこまどり亭とのことで、街に帰れば会う機会も増えそうだ。

 竹を利用した器もアルさんが作ってくれたので、後は籠を編むだけだ。

 一日の労働の代償が、クッキーとご飯だけでは申し訳なかったかもしれない。

 でも、好意でしてくれたことに対して、お金で解決するのは失礼な気がするので、今後も機会があったらご飯を提供したり、何か手伝える事があれば手伝う事にしようと思った。

 とりあえずは、和食を作って、またご馳走する約束だ。


 それと、アルさんと話をしていて、いくつか解決した事がある。

 まず、コテージを家として利用している人は、結構いるらしい。

 一回出してしまえば、片付けない限りはずっと出しっぱなしにできるので、コテージを家のかわりに使う人は珍しくないみたいだ。

 一回限定のコテージだと、うっかり片付けてしまった時に、中に持ち込んだ荷物だけが残されて回収が大変だから、家として使う場合には複数回使えるものを出す事が多いらしい。

 特に家を建てるのが大変な辺境の村なんかでは、簡単に家が建つコテージは重宝されているらしい。

 コテージが高いとは言っても、迷宮で手に入るものだし、家を建てるよりは安いそうだ。


 それと、私の作ったクッキーは、商家の生まれで珍しいものを見慣れているアルさんでも食べた事がないくらい美味しいらしい。

 こちらのお菓子は、甘くて堅いらしく、焼き菓子もぼそぼそとした感じで、食感はあまりよくないそうだ。

 出回っている甘味は、飴のようなものが多く、色々と聞いてみたけれど、洋菓子も和菓子も、少なくとも平民や下級貴族の中では広まっていないようだ。

 何故なのか理由を考えながら、アルさんと色々話してみたけれど、どうやら、バターが簡単に手に入るのは、ランスだけらしい。

 魔物がいる世界なので、酪農などはあまり盛んではなく、牛を飼ったりしていても結界のある村の中だけという状態なので、バターやチーズを流通するほどには作れない。

 けれど、ランスではそれらが迷宮で手に入る。

 ランス以外では滅多に手に入らないから、高級品になってしまう乳製品を使う料理人はあまりいない。

 だから、乳製品を使ったレシピがあまり出回っていないのだ。

 迷宮に人が入れば、乳製品がドロップするけれど、本来なら高級品扱いのそれを使う料理人がいない。

 そうなると需要がないということで、高級品のはずなのに溢れすぎて安くなってしまう。

 アイテムボックス持ちの行商人が、他の街で売ればいいんじゃ?と思ったけれど、レシピがあまりないのと、乳製品は行商人から買った後の保存が大変なのもあって、あまり売れないそうだ。

 コテージに冷蔵庫と同じ魔道具があったから、感覚がおかしくなってるけど、本来ならば、大きな店を構えている料理人のところか、高位の貴族の屋敷でもないと置いていないような高価な魔道具らしい。

 冷蔵庫の魔道具を置いていたシグルドさんのお店は、やっぱりすごかったんだと思った。


 アルさんの曾お祖父さんは、どうしても自分で食べたくて、羊羹だけは料理人と共同で開発して作らせたそうで、今では羊羹がミシディアの銘菓になっているらしい。

 ミシディア王家にも納めているという話だった。


 それを聞いて、商業ギルドに登録する気持ちが固まった。

 ギルド登録して、土地を借りるか買って、そこにコテージを出して住めれば、セキュリティ面でも申し分ない住居が手に入る。

 私の作る料理やお菓子は、多分売れると思うし、その辺りの相談に乗ってくれる人が、商業ギルド内にいるそうだ。


 コテージを出しっぱなしにできれば、いつでも料理ができるようになるし、後は、屋台を出せるように準備をして、自分のお店を開くための足がかりにしようと思った。

 ただ、街の外に出かけるたびに、コテージを片付けているのが目に付かないように、コテージを出せるくらいの庭がついた家付きの土地を、借りるか購入する予定だ。


 屋台を出すのなら、屋台で何を売るのかも考えなければいけない。

 今の予定では、籠を編んでお弁当箱を作って、日替わりのお弁当とクッキーなどの焼き菓子を、売ってみたらどうかと考えている。

 他の屋台とは違うものを考えなければ、もとから屋台を出している人とトラブルになってしまうかもしれないし、どんな屋台が人気があるのか、ちゃんとリサーチしてから決めるつもりだ。

 籠を編むのが大変だけど、籠を返却してくれたら、次に買うときに少し値引きするとか、クッキーは、小さめに作って量り売りにするとか、工夫次第で何とかなりそうな気がする。

 包み紙が何とかなれば、クレープという手もあったんだけど、いくら大きいとはいえ、笹の葉で包むのは、心許ない。


 ノートに、問題点を色々と書き起こしていく。

 足りないもの、欲しいもの、やらなければいけないこと、問題は山積みだ。

 弟達が跡を継ぐだろうと、経営や経済に関する勉強はほとんどしなかった。

 少しでも学んでいたらと、今更悔やむ事になるとは思わなかった。

 色々厳しく教えてくれたお祖母ちゃんも、教えてくれる内容は、嫁入りした時に困らないようにという理由から、家事に関するものが多かった。

 どんな家に嫁いでも苦労しないようにと、一通りの家事と、茶道に華道、薙刀。他にも和裁や着付け、教えられた事は多岐にわたっていたけれど、会社関連のことは、経営に関することよりも社交に関することの方が多かった。


 とりあえず今は、できないことを嘆いても仕方がない。

 できることから、一つずつ片付けていかないといけないし、同時進行でお金も稼がないといけない。

 アルさんは、原価で譲ってくれたけど、さすがに大量にお米や調味料を買い込んだおかげで、かなり所持金が減っていた。

 それでも、この世界に飛ばされた時の所持金よりは、はるかに多い金額が残っているのだけど、まだ、ディランさんに作って欲しいものもいろいろあるし、しっかり稼ぐ事も考えなければと思う。

 

 竹は十分手に入ったから、明日もう一日、狩りと料理をして、明後日には街に帰ることにしよう。

 街に帰ったら、商業ギルドの登録ついでにギルドの雰囲気を見て、ついでにシグルドさんのお店に油を届けてこよう。

 そのためにも、明日の夜は油の樹の近くにコテージを出さなければいけない。


 寂しいと思う気持ちは、アルさんのおかげでかなり和らいでいた。

 アルさんが言うには、リンちゃんとカンナさんは苦労しながら旅をして、私を探しているらしい。

 冒険者で旅になれたアルさんは博識で、いろいろな事を教えてくれた。

 やっぱり、一つの街に落ち着いて冒険者として活動する方が、経済的にも体力的にもかなり楽らしい。

 私と違って、あの二人にはコテージがあるわけでもないし、尚更だろう。

 戦えるといっても、女の子二人で知らない土地を旅することが、どれだけ大変か、深く考えなくてもわかる。

 そんな思いをしてまで、私を探してくれてる人がいる。

 そう考えると、寂しがっている場合じゃないと思った。

 再会した時に二人の役に立てるように、住む環境を整えておきたい。

 ランスの街ならば、アルさんもいるし、迷宮もあって暮らしやすいし、冒険者が住むにはちょうどいいと思う。

 リンちゃんとカンナさんがいいって言ってくれるなら、一緒に暮らしたい。

 同居が無理でも、せめて落ち着くまでは二人を受け入れられるように、迎え入れる準備はしておきたい。



「先生は、今頃、どこで何をしてるのかなぁ……?」



 旅が大変だと聞いて、先生のことが気になった。

 先生とパーティを組んだ人達が旅を嫌がったら、私を探すどころではないと思う。

 何年かかければ回れるほどの世界だとしても、先生も私も動けなかったら、一生逢えない。

 先生は絶対に私を探してくれるって信じてるけど、時間が掛かる事も覚悟しておいた方がいいかもしれない。

 先生にも手紙を届けられたらいいのに……。

 せめて元気だと、頑張っていると伝えられたらと思った。




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