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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
15/109

幕間 急に可愛く恥らうのは反則だろ

アルフレッド視点。本日二回目の更新です。

 なじみの行商人や冒険者仲間から、あちこちに転生者が複数同時に現れたらしいと噂を聞いた。

 転生者と聞いて、今だ現役で矍鑠(かくしゃく)とした曾爺さんに逢いたくなった。

 俺の実家は大きな商家で、世界中で商いをしているから、隣の国にいるとはいっても、連絡は取りやすかった。

 だから、数年ぶりの帰郷ではあるけれど、親族の現況なんかは手紙で知っていた。

 

 俺の曾爺さんは転生者で、ニホンという国の出身だ。

 元は農家の生まれで、商人の家に奉公に上がり、実直な働きが認められて奉公先に婿入りが決まっていたという。

 それを嫉んだ奴がいたのか、殺されてしまい、気がついたらこの世界にいたそうだ。

 幸い、言葉も通じて、文字もわかったし、この世界で転生者は歓迎されるから、こちらでも大きな商人の店に入って、この世界の商売のやり方を学んだらしい。

 そうする内に、生活に余裕ができれば、米がないのがどうにも我慢できなくなって、米の生産地であるミシディアに移住し、曾婆さんにとっ捕まって今に至る。


 神の加護があるといわれている転生者は、基本的に長生きだ。

 俺がガキの頃に100歳の祝いをしたはずの曾爺さんは、まだピンピンしてる。

 殺しても死なないジジィだと、ガキの頃は、堅い手で拳骨を食らうたびに思っていた。

 悪戯をしては、きついお仕置きを食らったりもしたが、小さい頃から俺は曾爺さんにべったりな子供だったらしい。

 先祖返りなのか、俺の身体能力や成長速度は転生者に近く、小さい頃から体も大きかったし、大抵の事は器用にこなした。

 武器の扱いも教えられればすぐに飲み込んで、めきめきと強くなっていった。

 そんな状態で、俺が力に溺れる事がなかったのは、曾爺さんの拳骨のおかげだ。

 俺が慢心しそうになるたび、鉄拳が飛んできた。

 ひ孫が力に溺れて身を持ち崩さないようにと、曾爺さんなりの愛だったんだろう。

 おかげで冒険者としても一流といわれるSランクまであがることができた。

 

 近くに迷宮があって暮らしやすいランスの街を出て、久しぶりに旅をしてみれば、やはり、噂は事実のようで、転生者の話が次々に聞こえてくる。

 同時に多数転生してくるのは、過去にないらしく、何かの前触れじゃないかと怯えてる奴もいた。

 多数の転生者がいるのを知らずに、急いで転生者を確保して、結果、酷い女に捕まった貴族の話は、笑い話になっていた。

 家の発展のためにと迎え入れたはいいが、我侭で贅沢で、そのくせ、貴族としての教育はまったく受け入れなくて、苦労しているらしい。


 実家のあるミシディアの王都の手前、ミシディアでも有名な公爵が治める街で、俺は二人の転生者と知り合った。

 何でも、次期公爵を袖にして逃げるところだそうで、王都に向かうというので、護衛がてら一緒に行く事にした。

 それというのも、その二人が、女二人の上、世間知らずなお嬢様とその護衛にしか見えなかったからだ。

 女の二人旅では、否応なく絡まれる。

 二人もそれはわかっているのか、俺が同行することを受け入れてくれた。

 馬車で王都に向かいながら、少しずつ話を聞いてみれば、二人は人を探しているという。

 最初は警戒していたが、俺の曾爺さんも転生者で、これから会いに行くところだと話しをした頃から、親近感を覚えてくれたのか、色々と話をしてくれるようになった。

 リンはまだ子供みたいな小さな少女で、いつも賑やかで元気だった。

 俺には12歳くらいにしか見えなかったが、16歳になっているらしい。

 こっちでは嫁にいける歳なんだが、とてもそうは見えない。

 もう一人のカンナは、いかにも育ちのいいお嬢様といった雰囲気で、こっちは歳相応に見えた。

 大人しそうに見えるのに毒舌で、下手な事を言うと10倍になって返ってくる。

 他にも4人の仲間がいたらしいが、その仲間は、最初の街から移動するのを嫌がったので、大事な人を探す為に別れたらしい。

 王都に辿り着いて、俺の実家で曾爺さんに紹介した後に、やっと誰を探しているのか教えてくれた。


 リンが言うには、黒髪黒目の凛とした美人で、スタイルもよくて料理上手らしい。

 旅の途中で、リンの作ったとんでもない料理を食わされた身としては、リンと比べりゃ、誰でも料理上手なんじゃないかと思った。

 話半分に聞き、王都での人探しは手伝ったけれど、リンが『ミサちゃん』と呼ぶ女は見つからなかった。

 リンとカンナがあれだけ必死に探していても見つからないのに、俺が出会える確率はかなり低いとは思ったが、二人が必死なので手伝いをしてやりたくて、手紙を預かった。

 仕入れと行商担当の店員も紹介して、できる限りの便宜を図るように頼んでおく。

 旅費を貯めながら旅をして探すのだから、進行速度は遅い。

 二人とも転生者ということもあって、それなりに強いが、一攫千金を狙えるような圧倒的な強さではないから、こまめにギルドの仕事をこなしていた。

 一つの街に落ち着けばもっと楽に暮らせるだろうに、そこまで苦労して探すほどに大事な友がどんな女なのか、俺は興味を持った。


 転生者に会えば絶対に売れるからと、二人が熱心に勧めるので、米とミソとショーユとウメボシとカツオブシとコンブを、商売に影響が出ないぎりぎりまで譲ってもらい、アイテムボックスに入れておいた。

 この時の判断を、俺は後に心から褒め称えることになる。


 ちなみに、このアイテムボックスのスキルは、遺伝しやすい。

 使えば使うほどにスキルは成長しやすいらしく、商人のアイテムボックスは(中)まで育っている事が多い。

 安全に荷物を運べるという利点があるので、アイテムボックスのスキルを持ってないと、商家ではまず雇ってもらえない。

 曾爺さんのおかげで、俺もアイテムボックスのスキルを生まれつき持っていた。

 使えば使うほど育つというのは教えられていたので、ガキの頃から、できるだけ使うようにしていたから、(中)までは育っている。

 俺が20代の半ばでSランクになれたのも、アイテムボックスの恩恵が大きい。

 迷宮に荷物を大量に持ち込めるので、長いときは一月以上迷宮に篭って狩りをし続けたことがある。

 冒険者になるときに、曾爺さんから譲られた解体ナイフのおかげで、解体に時間が掛からず、その上、持ちきれなくて素材を無駄にするということもなく、かなり効率よく稼ぎながらレベルも上げられた。



 結論からいうと、カグラは予想以上だった。

 いろんな意味で、予想をはるかに超えていた。

 初めて見たときは、どこの姫さんかと思ったくらい、気品があって綺麗だった。

 リンがくどいくらい、『絶対に手を出すな』って言ってたが、出せるわけがない。

 一介の冒険者が手を出していいような女じゃない。

 普通に話しかけたけど、実はカグラの持つ雰囲気に圧倒されていた。

 それなりの場数を踏んでるSランクの冒険者を圧倒する女なんぞ、そうお目にかかれるもんじゃねぇ。

 圧倒されながらも、わくわくとした気持ちも沸き起こっていた。

 

 最初こそ圧倒されたものの、話すにつれ、普通の少女だとわかり、親しみを感じるようになった。

 無防備かと思えば、そうでもなくて、しっかりしていて隙がない。

 隙がないといっても、頑なな感じはまったくなくて、何というのか、一緒にいて居心地がよかった。

 その上、俺のからかいに恥らうような表情は、鼻血を吹きそうなほどに可愛い。

 普段、隙がなくてきりっとしているから、それが崩れた時は、余計に可愛く見えるんだろう。

 リンが言ってた『キャップモエ』とかいうのは、この事なんだと理解した。


 王都でもまず食べられないような美味い菓子を作る上、茶をいれるのも上手かった。

 クッキーで料理の腕も期待できたから、それを励みに、一日、必死に働いた。

 竹ひご作りは、ガキの頃から頻繁に手伝わされていたので、慣れたものだった。

 曾爺さんが編んだ籠は、丈夫で見た目もいいと評判で、店でも人気商品だ。

 ついでに、ミソもショーユも、曾爺さんが料理人と一緒に開発した調味料で、ミシディアでは高級食材であるものの、普通に食べられている。


 カグラも籠の編み方は知っていたのか、俺が作った竹ひごを使って、器用に籠を編み出した。

 曾爺さんが作るのよりもずっと小さな籠を、たくさん作るらしい。

 手伝ってやりたいが、編む方はさっぱりなので、カグラが材料に困らないように、竹ひごを作り続けた。



 その後、ご褒美とばかりに作ってくれた飯は、とにかく美味かった。

 見たことのない料理ばかりで、米の美味さを引き立ててるし、しゃべる間も惜しんでがっついた。

 ミソやショーユの存在を思い出したのは、腹がいっぱいになってからだ。

 俺がミソやショーユを持っていると知ったときのカグラの表情は、思い出すだけで顔がにやけそうに可愛くて、眼福だった。

 あの顔を見られただけでも、爺さんにぶつぶつ文句を言われながら、ミソやショーユを買い込んだ甲斐があった。

 元々、原価で仕入れたものだから、その値段で全部譲り、また後日、今度はワショクというのを食わせてもらえることになった。

 ミソシルは食べた事があるが、料理上手なカグラの手に掛かると、どう変化するのか、今から楽しみだった。



次はいつもの時間の更新になります。二日ほど留守にするので、予約してあります。

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