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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
13/109

11.手紙

いつもの0時更新は、バレンタインの番外編を更新します。



 朝、気持ちよく目を覚まして、大きく背伸びした。

 コテージのベッドは、高級宿であるこまどり亭のベッドよりも寝心地がいい。

 まずは、着替えもせずにコテージの外に出て、魔物を解体してしまう。

 今日も大漁で、数種類の魔物が結界を囲むように事切れていた。

 結界の外だと、倒した魔物が取られてしまうからか、結界の内側に魔物の死体は残されるようだ。

 解体を終わらせてから、中に入って、まずはお風呂に入る。

 解体で手が汚れるわけじゃないけれど、何となくお風呂の後にはやりたくない。

 シャワーはないけれど、お湯が使えて浴槽があるのはありがたいなぁと思いながら、のんびりと入浴する。

 お風呂にも魔道具が使われていて、壁に埋め込まれた魔石に軽く魔力をこめるだけで、お湯が浴槽に溜まる。

 水の出てくる魔石も備え付けてあるので、自分の好みの温度に調節することもできるようになっていた。

 お風呂を出てから、簡単に朝食を作って食べるけれど、一人の食事は味気ない。

 しっかりと朝食を取る習慣ができてるから食べているけれど、食欲はあまりなかった。


 装備を身につけて、身支度を整えてから外に出ると、結界の外側に背が高く体格のいい男の人が立っていた。

 重たそうな鎧をつけて、腰に幅の広い剣を差した冒険者といった雰囲気の人だ。

 剣呑な雰囲気もないし、敵意も感じられないけれど、じーっと見つめてくる視線に気づいて、誰だろう?と首を傾げてしまった。



「お、出てきたな。こんなに街に近い場所でコテージを出して、急病人でもいるのか? 何か困ってるなら、手助けするぞ?」



 割と整った顔をくしゃっと崩して笑う様子は、とても人がよさそうに見える。

 街までそんなに遠くないのに、貴重品であるコテージを出しているのを不思議に思って声をかけてくれたのだろう。



「困っていることはないので、だいじょう……ぶじゃないです。鉈か何か持ってませんか? そこにある竹をたくさん切りたいんです」



 大丈夫と言いかけて、竹を切る刃物が欲しかった事を思い出した。

 簡単に人を信用するのはよくないと思うけど、何となく、この人は大丈夫な気がするから、竹を切るのをお願いしてみた。

 それでも、一応、結界の中からは出ないでおく。



「鉈? 森を歩くなら必需品だから持ってるが、そこの退化竹が欲しいのか? 何に使うんだ?」



 不思議そうに首を傾げながらも、鉈を取り出して、さっそく竹を切ってくれる。

 見慣れた竹よりもずっと立派な竹のどこが退化したのかわからないけれど、この世界では退化竹と呼ばれるらしい。



「料理を売るための器にしたいんです。後は、竹ひごを作れれば、籠が編めますから」



 結界のぎりぎりまで歩み寄って、竹を切る様子を眺める。

 何ていうか、やっぱり、いい人なんじゃないだろうか?

 逞しいから、たいした作業でもないのか、次から次に竹を切り倒してくれる。



「料理を売るって、料理人か? どれくらい切ればいい? ここらの竹は、2~3日もすればまた同じくらいまで育つから、欲しいだけ切って大丈夫だぞ」



 いい事を教えてもらった。

 またすぐに育つのなら、たくさん切っても問題なさそうだ。



「あなたが疲れない程度でいいです。あ、私は神楽です。お名前、伺ってもいいですか?」



 多分、20代後半くらいの年齢だろうし、冒険者としても私よりはずっとベテランに見えるから、丁寧に話しかけると、慣れないのか苦笑された。



「そんな馬鹿丁寧なしゃべり方じゃなくていいぞ。俺はアルフレッド。アルフレッド=キサラギだ。アルフでもアルでも好きに呼んでくれ。見ての通り冒険者をしてる」



 なかなか働き者なのか、休むこともせず、疲れた様子も見せずに竹を切りながら、名前を教えてくれる。

 こちらではよく見かける色の濃い茶の髪は、いかにも適当に切りましたといった感じで、適度に短くされている。

 鎧姿は暑いのか、それとも竹を切る作業には邪魔なのか、いつのまにか鎧は外されていて、よく街中でも見かけるようなシャツとズボン姿だ。

 鉈を振るうたびに、筋肉の動きまでわかって、とても鍛えられた体をしているのだとわかる。

 それに、ただ鉈を使うだけなのに、動きに無駄がなくて綺麗だ。

 もしかしたら、ランクの高い冒険者なんじゃないだろうか。



「アルさんですね。キサラギって、こちらでは珍しい苗字ですよね?」



 キサラギと聞くと、同じ世界の人の名前みたいだ。

 と言っても、アルさんの容姿から日本人的なものは感じられないのだけど。

 のんびりと観察しつつ、会話を繋げてみる。



「俺の曾爺さんが転生者だったからな」



 答えながら、アルさんが切った竹を結界の辺りに積んでくれる。

 私が警戒しないように、気をつかってくれてるみたいだ。

 言動に、変な下心みたいなものは感じない。

 転生者という言葉に、ビクッと反応しそうになったけれど、何とか堪えた。



「転生者ってよくいるんですか?」



 平静を装って、世間話のついでのように聞いてみる。

 身内にいるのなら、世間一般の人よりもよほど詳しく色々と知っているだろう。

 あまりにも一生懸命竹を切ってくれるから、段々、アルさんが働いているのに、私は見ているだけというのが申し訳ない気がしてきた。

 アルさんは、そんなことは気にもしない様子で、作業を続けてくれている。



「転生者はめずらしいんだが、転生者の子孫ってのは、そんなに珍しくねぇな。何でかって言うと、神さんの加護のせいで転生者は子供ができやすい。この世界では女が強いから、優秀な男の種だけもらって、一人で産み育てるっていうのも珍しくねぇ。だから、転生者の数と比べると、子孫っていうのは多くなる」



 なるほど。

 子供だけじゃなくて、孫もひ孫もってなると、ただでさえ多くなるのに、そういった事情ならもっと多くなるはずだ。

 先生は見るからに逞しくて強そうだし、あちこちでそういうお誘いがあるかもしれない。

 綺麗な女の人に誘われてるのを想像したら、胸がもやっとする。



「ちなみに、俺のところみたいに家名も伝わってるのは、結婚して子孫を残したときだ。だから、曾爺さんに教わったし、竹ひごも作れるぞ? 編むのはちまちましてて、性に合わないからやったことがねぇけどな」



 さっきから、ちょこちょことアルさんの言葉が引っかかる。

 まるで、私がこの世界の事を知らないことを前提で、話しているみたいだ。

 曾お祖父さんが転生者だからって、この世界で生まれ育ったならば、わざわざ『この世界』なんて言い方をするだろうか?

 アルさんには、私が転生者だってばれてるんじゃないだろうか。

 別に転生者であることがばれても、何の問題もないけれど、アルさんは、私と話して気づいたというよりも、最初から私が転生者であると知っていて近づいてきた、そんな印象がある。



「少し待っていてもらえますか?」



 言葉少なに言い置いて、コテージの中に入った。

 アルさんから、悪意みたいなものはまったく感じない。

 だから、警戒なんてする必要はないかもしれないけれど、今なら一番いい選別法がある。

 結界に入れるように登録しても、アルさんに何らかの悪意があれば、中には入れないはずだ。

 テーブルの上に、コテージの設定画面を呼び出して、アルさんが結界に入れるように登録する。

 ついでに、悪意があった場合は、防御でなく捕獲に変えておいた。

 私のカンが違っていた時、防御だけだと、アルさんがいなくなるまでコテージを片付けられなくなってしまう。



「お待たせしました。入れるようにしましたから、竹ひごを作ってくれるなら、中で作業してください。結界の外だと、魔物が来たときが面倒でしょう?」



 アルさんが、本当に善意だけの人ならば、お茶くらいは振舞いたいし、ちゃんとお礼もしたい。

 少しどきどきとしてしまいながらアルさんを見ていると、普通に結界内に入ってきた。

 心のどこかでアルさんを信じたいと思っていたのだろう。何の問題もなく入ってきてくれたことを嬉しいと思った。

 アルさんは結界に入ってきた後、じっと確かめるように私を見据えて、しばらく躊躇ってから口を開いた。



「なぁ、一つ聞いてもいいか? カグラは、リンとカンナを知ってるか?」



 思いがけない名前が出てきて、驚きのあまり固まってしまった。

 リンちゃんもカンナさんも数少ない私の友人だ。

 隣のクラスだったから、二人ともこの世界に来ているのは間違いない。



「やっぱり、知ってるみたいだな。二人から手紙を預かってる。もし、カグラミサキっていう黒髪黒目の美人を見つけたら、渡してくれって。ついでに、絶対手を出すなって」



 言葉にしなくても、私の反応で二人を知っていることは伝わってしまったらしい。

 最後の一言は、茶目っ気のある表情で笑いながら告げられる。

 旅先なのにレターセットを持っていたのか、それとも旅先で買ったものなのか、リンちゃんの好きな兎のキャラクターの柄の封筒を差し出されて、震える手で受け取った。

 誰かいればいいとは思ったけれど、まさか、友達が近くにいて、しかも私を探してくれているとは思わなかった。



「ありがとう、アルさん。聞きたいこともあるし、よかったらお茶をいれるので、ゆっくりお話しませんか?」



 手紙を手にしたまま、アルさんをコテージの中に誘った。

 腰を落ち着けて、ゆっくり手紙を読みたいし、アルさんに聞きたいこともいくつかある。



「こう言っちゃ何だが、俺のことをそんなに信用していいのか? 護衛がいるわけじゃなし、俺が襲い掛かってきたらどうするんだ?」



 困ったようにこめかみの辺りを掻きながら、ため息混じりに問いかけられる。

 本当に襲い掛かる人なら、こんなことは聞かないと思う。



「まず、この世界でこのレターセットの偽造は無理です。それに、私が名乗っていない名前もアルさんはご存知でした。この世界の住人で私のフルネームを知っているのは、冒険者ギルドのシェリーさんとこまどり亭の女将さんくらいです。だから、アルさんの言葉は信じるに値すると思いました。それと、ここの結界、私に悪意がある人が中に入ると、捕縛されるんです。だから、アルさんは安全な人です」



 自分なりの理論を並べ、にっこりと笑顔で〆ると、アルさんが何故か、恨めしそうに私を見た。



「あのなぁ、そこまで言われたら、下手に口説けなくなるだろ? 隙がなさすぎだ」



 隙がないは私には褒め言葉だ。

 嬉しくてつい笑みが零れてしまった。



「まぁ、いいか。うまい茶を頼む……」



 一人で納得したアルさんにお茶を頼まれたので、再度招き入れて、暖炉前のソファを勧めてから、キッチンでお湯を沸かした。

 男の人だから、甘いものが好きかわからないけど、昨日焼いたクッキーを試食してもらういいチャンスだ。

 クッキーを出すならと、飲み物は紅茶にして、手早くお茶をいれる。

 クッキーを2種類お皿に盛って、紅茶と一緒にテーブルに運んだ。



「これ、コテージだよな? 俺の知ってるのと違うんだが……」



 珍しそうに室内を見渡しながら、違いを思い出しているのか、アルさんが首を傾げている。

 普通のコテージを見たことがないから、どう違うのか私にはわからない。



「紛れもなくコテージですよ? それより、お茶をどうぞ。昨日、クッキーも焼いたので、甘いものが苦手じゃなかったら食べてみてください」



 初めて見るもののようにクッキーをつまみ、アルさんが恐る恐るといった様子で口に運ぶ。

 少し強ばっていた顔は、クッキーを咀嚼した瞬間、笑み崩れた。



「うまいな、これっ……リンが作ったのとは大違いだ」



 やけにびくついていると思えば、リンちゃんの手料理を食べた事があったからだったらしい。

 リンちゃんは料理をする時に、すぐに隠し味といって、色んなものを入れたがるので、出来上がりが悲惨になることが多い。

 たまに、奇跡的に食べられるものができた時は、物凄く美味しいから、隠し味を入れる癖は治りそうにない。

 多分、アルさんはハズレを食べてしまったのだろう。



「私の職業は料理人ですから。手紙を読むので、食べていてくださいね」



 まずは手紙の封を切り、ハート型に折りたたまれた手紙を開いた。

 クッキーをつまみながら、目を通していく。

 手紙には、リンちゃんとカンナさんの状況と、アルさんと知り合ったきっかけ等が書いてあった。

 一緒にしばらく過ごしてみて、信用できる人だとわかったので、もしもアルさんが私と遭遇した時に備えて、手紙を預ける事にしたらしい。

 私が一人きりでいる事を心配していて、もしもリンちゃん達よりも先にアルさんに会う事があれば、何か困った時にはアルさんに相談できるように、アルさんに私のことをお願いしてあるからとも書いてあった。

『一人で頑張り過ぎないように』と、一際大きな赤文字で書いてあって、笑ってしまう。

 一つ残念なことは、これから、二人は東のミシディアから北のゼファードという国に移動するということだ。

 アルさんが、ランスに戻るので、反対方向に探しに行くことにしたらしい。

 その内きっと逢えるとわかっても、まだ再会には時間が掛かりそうで、少しだけがっかりとした。

 でも、パーティの人と別れてまで、私のことを探してくれているのはとても嬉しい。

 3度、手紙を読み直して、丁寧に封筒にしまった。

 


「アルさん、手紙を届けてくれて、本当にありがとう。私、この世界にきてから、初めて友達の消息が知れました」



 わざわざ届けてくれたアルさんに、改めてしっかりとお礼を言い、頭を下げた。

 アルさんがいなかったら、二人が私を探してくれている事さえ知らずにいた。

 まともな通信手段がない世界で、こうやって手紙を受け取れたことは、奇跡に近いと思う。



「うまい菓子を食えたから、それで十分だ。それに、リンもカンナも懸命にカグラを探してたからな。カンナは、ミシディアの次期公爵に求婚されてたみたいだが、カグラを探すからってあっさりと袖にしてたぞ」



 カンナさんこと、神流優美さんは、いかにも育ちのよさそうなお嬢様っぽい人で、実際にいくつも系列店を持つ大きなペットショップの一人娘だった。

 見た目と違い毒舌だけれど、気性はさっぱりとしていて付き合いやすかった。

 元々は、私とリンちゃんが仲良くなって、その縁で親しくなった。

 高位の貴族に求婚されたと聞いても、驚く要素がないほどに素敵な子なのだ。



「一人きりで心細かったから、探してもらえてるってわかっただけで、嬉しいです。何とか二人に、私がランスにいることを伝える手段があればいいんですけど……。アルさんは、何か方法を知りませんか?」



 見当違いの場所をいつまでも探し続けるのはかわいそうだ。

 だから、それを何とか阻止できる方法があればと、アルさんに尋ねてみる。

 美味しそうにクッキーを味わっていたアルさんは、幸せそうに蕩けた表情で私を見た。

 アルさん、甘党なのか。

 手紙のお礼に、違うお菓子も作ってあげよう。



「ミシディアからゼファードに行くとしたら、通る街は決まっているから、確実に通る街のギルドに手紙を預けりゃいい。あいつらもカグラを探しながらだから、街を素通りはしないだろうし、ギルドには絶対顔を出すはずだ。ミシディア経由でゼファードまで行商してる商人に心当たりがあるから、紹介してやる。一つの街に最低でも10日はいるって話だったから、行商人ならその内に追いつくだろ」



 早速、アルさんがとても頼もしい。

 リンちゃんとカンナさんにも感謝だ。

 二人のおかげで、アルさんに色々と教えてもらえる。



「ありがとう、アルさん。手紙はいつまでに用意すればいい?」



 行商人なら、決まった間隔で旅に出るのではないかと思う。

 お米の商人さんがそんな感じだったから。



「2週後の早朝に出るはずだから、その前まででいい。今頃、ミシディアからの帰り道のはずだ。4~5日後には帰ってくるだろ」



 よほど親しい相手なのか、予定も詳しく知ってるみたいで、説明が淀みない。

 お茶のおかわりをアルさんのカップに注ぎ足しながら、頭の中で予定を組み立てる。



「そういえば、どうしてアルさんは知ってたの?」



 考えながらだったから、わかり辛い質問になってしまった。

 何を?と、アルさんが首を傾げてる。



「えっと、アルさん、私に声をかける前から、ここに転生者がいるって知ってたでしょ? だから、どうしてかな?って思ったの」



 私が質問を重ねると、ようやく意味がわかったのか、アルさんが少し驚いている。



「何の警戒もしてなさそうだったのに、きづいていたとはな……。少し前から、冒険者の間では、転生者がたくさん現れたって噂になってたんだ。俺はリンとカンナに逢ったことで、それが噂じゃなくて事実だって知ってた。知らない貴族は、いち早く転生者を確保して、身内にしようって躍起になってるみたいだが、今回は人数が多いだけあって、転生者は転生者でもピンキリだよな。カンナみたいに王家に近しい貴族の伴侶の座より、友人を選ぶのもいれば、下級貴族の愛人にあっさり収まってるのもいるし。後は、転生者目当てで寄って来る女を、複数侍らせてるパーティの話も聞いたな」



 何だか話がずれてるみたいな気がするけど、アルさんがカンナさんにいい印象を持っているのは口調でわかった。。

 それに、アルさんは私達以外の転生者の話も知ってるみたいだ。

 そんなに噂になってしまうほど、奇異な事をしている人が多いんだろうか。



「俺はミシディア生まれだから、曾爺さんの顔を見に行ってたんだ。転生者が現れたって聞いて、爺さんのことを思い出したからな。で、故郷の近くでリンとカンナと知り合って、カグラのことを聞いた。まさか本当にランスにいるとは思わなかったが、逢えればいいなって程度で手紙を預かった。で、帰ってみれば、街まで鐘一つ分も離れてない場所で、野営ならともかく、馬鹿高いコテージを出してる奴がいるのに気づいて、そんなもったいないことをするのは、よほど切羽詰った事情がある奴か、転生者じゃないかと思ったんだよ」



 コテージというのは、こんなに街に近い場所で安易に使えるような安いものではないみたいだ。

 これだけ街に近ければ、コテージを出すよりは街に入って宿に泊まるほうが遥かに安い。

 知らずに、私も随分奇異な行為をしてしまっていたらしい。



「それで、コテージから人が出てくるのを待っていたの? すぐに当たりを引き当てるなんて、アルさんは運がいいのね」



 しみじみと言うと、いい笑顔で頷かれた。

 運には自信があるようだ。



「まさか、竹を切ってくれと頼まれるとは思わなかったけどな」



 からかうように言われて、確かに、初対面の人にお願いするにはあんまりだったかと、恥ずかしくなってしまう。

 頬が熱くなってしまって、隠すように頬をおさえて目を伏せた。



「あー、その、なんだ。今更恥らうな。口説くぞ」



 何故か困惑した様子で、変な言葉で脅されて、意味がわからず首を傾げてしまう。

 恥ずかしかったのも忘れ、意味を推し量るようにジーっと見つめたら、思いっきり目を逸らされた。



「た、竹っ! もっと切ってくる。後で竹ひごも作ってやるから、かわりに飯食わせてくれ」



 紅茶を一気に飲み干して、アルさんは外に出て行った。

 何を動揺していたのかわからないけど、竹ひごを作ってもらえるのはありがたい。

 ミシディア出身で、どう考えても日本人の転生者のひ孫なら、お米も食べなれているだろう。

 ご飯にあうおかずを、お礼代わりに色々作ってみよう。

 まずは、いつ手紙を要求されてもいいように、先に書いてしまうことにした。



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