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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
108/109

83.優しい世界で




 コテージのレベルを10にするという目標が出来てから、知巳さんだけでなく、何故かフレイさんとカイさんも張り切ってしまって、迷宮攻略は順調に進んだ。

 結局、ランスの大迷宮は150層まであったので、攻略に時間はかかってしまったけれど、コテージを育てるという意味では、150層まであったことが幸いした。

 大迷宮の完全攻略が済み、コテージをレベル10にするのに、150層に移してから、1年以上の月日が掛かった。

 それから、更に半年が過ぎて、私が知巳さんと再会してから、2年になろうとしていた。


 その2年の間には、いろんな出来事や再会があった。

 最初の年の夏に王都で、エルヴァスティ家の娘になった私のお披露目があり、その場で、知巳さんとの正式な婚約発表も行った。

 草原の国の王子である知巳さんの第二夫人の座を狙って、貴族の女性が何人も言い寄ってきたけれど、知巳さんはすべてあっさりと断ってくれた。

 知巳さんはとても素敵な人なので、それでもしつこく言い寄ってくる人もいたのだけど、知巳さんがあまりにも私を溺愛していることを隠そうとしないので、諦めてくれたようだ。


 そして、私の知らないところで、いつの間にかアルさんとリンちゃんが結婚することになっていて、とっても驚かされた。

 お披露目の準備でばたばたとしていて、二人の仲が進展した事に、私はまったく気がつかなかった。

 リンちゃんはずっと前からアルさんのことが好きだったらしい。

 初めてアルさんに逢った時に、颯爽と助けてくれたのがかっこよくて、一目惚れだったそうだ。

 それを聞いたとき、リンちゃんの恋が成就して本当によかったと思った。

 話してくれた時のリンちゃんが、真っ赤になっていてとても可愛くて、大切な人達が二人で幸せになるのが、とても嬉しかった。

 アルさんとリンちゃんは、二人でミシディアに報告に行き、成り行きで向こうで結婚式をして帰ってきた。

 一番子供っぽいと言われていたリンちゃんが、先に結婚してしまったのは不思議な感じがしたけれど、アルさんもリンちゃんも、今までの兄妹といった雰囲気はまったくなく、仲が良くてお似合いで、見ているだけで幸せをもらえる感じだ。

 リンちゃんは今では一児の母で、リンちゃんにそっくりな可愛い女の子を育てている。

 アルさんは子煩悩だったみたいで、娘を溺愛するパパに変貌した。

 

 一番最初に結婚したみぃちゃんと結花さんの間にも赤ちゃんが出来て、結花さんは夏に出産予定だ。

 リンちゃんが産んだ赤ちゃんを見ていたら、子供が欲しくなってしまったらしい。

 確かに、その気持ちはとてもよくわかる。

 リンちゃんによく似たキラちゃんは、本当に可愛い。

 赤ちゃんは弟達を育てたようなものだったから、見慣れていると思っていたけれど、弟達のときとは気持ちが全然違う。

 あの頃は、自分で産む事は考えられなかったけれど、今はそうではないからだと思う。

 

 私のコテージで転移が出来るようになったので、転移先を確保する為に、みんなで旅にも出た。

 長期の休みを取っての旅は、結婚前のとてもいい思い出になった。

 リンちゃんは、アルさんの曾お祖父さんととても仲がいいので、簡単にミシディアに帰れるようになる事を、とても喜んでいた。

 ミシディアと草原の国、そして森の国を転移先にして、それぞれの場所に異世界料理を出す店も作った。

 ミシディアはアルさんの実家がある王都、草原の国は知巳さんの領地の中の一番大きな街、そして、森の国も迷宮のある王都に店を作った。

 それぞれのお店の一室を転移用の部屋にして、コテージがレベル10になった時に、桔梗に渡された魔石を部屋の扉に埋め込んだ。

 コテージの扉に、埋め込んだ魔石の分、行き先を示す表示が増えたので、行き先を指定して扉を開けるだけで転移できる。

 実験してみたけれど、転移先に選ばれている時は、扉を開けるとそのままコテージの中に繋がっていて、選ばれていない時は元の部屋のままになっていた。

 転移のおかげで、食材の仕入れがとても楽になったし、森の国では知巳さんは佐々木君達といつでも逢えるようになった。

 みぃちゃんは魔道具作りにも興味があるみたいで、比良坂君に弟子入りして、新しい魔道具の開発を始めたりもしている。

 今は、魔道具を使って、こちらにはない娯楽施設を作る計画を立てているみたいだ。

 亮ちゃんも鳴君も、その手の計画を立てて実行するのは得意なので、男子だけで集まって楽しそうに話し合いをしていたりする。


 もう一ヶ所、転移先を決める事ができるけれど、時間がなかったのもあって、どこにするのかは保留にしてあった。

 この2年の間に、料理人も菓子職人も積極的に育てて、できるだけレシピも広めた。

 人に教えるという行為がよかったのか、私の料理人のレベルは4になり、スキルも増えたので、更に再現できる料理のレシピも増えた。

 店を経営するための人材の確保や、従業員の教育、資金提供や経営など、知巳さんはできる限りの協力をしてくれた。

 ミシディアのお店は、アルさんとリンちゃん、それから優美さんも一緒に見てくれているし、ランスのお店は、尊君と鳴君が見てくれている。

 そして、森の国のお店は、魔道具師の修行を始めたみぃちゃんと、結花さんが見てくれることになった。

 亮ちゃんは、私が結婚後、いつお店を休む事になってもいいように、草原の国に来てくれた。

 ランスを拠点に活動するようになった阿久井君は、転移を使って、それぞれのお店を定期的に回ることになった。

 それぞれ、担当のお店は決まっているけれど、ランスにいることも多くて、ランスのお店から自分の担当のお店に転移して、出勤している感じだ。

 この世界には時差はないようなので、担当するお店同士は遠く離れていても、日付や時間の感覚は同じなので助かっていた。

 転移の回数が限定されているので、朝出勤して夜に帰るというわけにはいかないけれど、事前に話し合って効率よく転移できるようにしてある。

 お店の2階のリビングに今も置いてある、みんなの行動予定を書いたノートが大活躍していた。

 そのうち、みんなのコテージがレベル10になったら、もっと行動の幅も広がるのだろうけれど、そちらは先が長そうだ。

 どうやら、私のコテージと比べると成長が遅いようで、ずっと迷宮で育てているけれど、まだ馬車になれるレベル9にも到達していない。

 けれど、焦らなくても時間はあるのだからと、みんな気楽に構えている。






 

 


「ミサキ様、お時間です」



 私に付き添っていたレーナとリーサが、手をとって立ち上がらせてくれる。

 長いドレスの裾を引き摺らないようにしながら、開けられた扉から外へ出ると、お義父様が私を待っていてくれた。



「異世界風の衣装もとてもいいものだね。眩いばかりに綺麗な花嫁姿だ。ミサキが娘であることが誇らしいよ」



 私の手を取ったお義父様が、目を細めて褒めてくれた。

 ドレスは、みんなでデザインを考えて、素材を集めたりして、ディアナさんが作ってくれたものだ。

 内緒でプレゼントされたので、もらった時は嬉しくて、恥ずかしいくらい泣いてしまった。

 お義父様の娘になって2年、今日、私は知巳さんと結婚する。

 結婚式は話し合いの結果、草原の国の王都で執り行われる事になったので、転移を使って、お義父様達は草原の国に来てくれた。

 教会の中で、お義母様やお義兄様達も待っている。

 レイラお義姉様だけは、出産直後なので不参加だ。

 無事、男の子が生まれたので、お義兄様もお義姉様もとても喜んでいた。

 初孫ということで、お義父様は予想通り溺愛している。

 式の手順は元の世界とほぼ同じで、この後、お義父様に手を取られて、一緒に教会に入ることになっていた。



「お義父様、今までお世話になりました。そして、これからもよろしくお願いします」



 手を取られたまま挨拶をすると、感極まった様子のお義父様に何度も頷かれた。

 何とも不思議な縁だと思う。

 ランスに一人で辿り着いた時は、領主の養女になるなんて、思いもしなかった。

 貴族とはずっと縁がないまま、料理人として生きて行くのだと思っていた。

 今日、お義父様の娘として嫁ぐのだと思うと、とても感慨深い。

 そして、とても幸せだと思う。

 草原の国とランスは、本来ならばとても遠いけれど、コテージのおかげで一瞬で移動できる。

 だから、結婚しても、今までと変わりなくお義父様達に逢える。

 そのことが、とても心強い。

 私達は家族になってまだ2年なのだし、これからもっと絆を深めていけることが嬉しい。

 いつか、子供が出来たときには、子育てのベテランであるお義母様に色々教えを請いたい。

 転移ができるおかげで、結婚とは、新しい家族が増える喜ばしいことだと受け止められる。

 何度か逢う機会を作ってくださった草原の国の王も、第1王子のアクセル様も、とてもいい方だった。

 草原の国で、知巳さんはとても好かれていて尊敬されているので、その婚約者である私に、みんな最初からとても親切にしてくれた。

 これからは、知巳さんの領地が、暮らしやすい、いい領地になるように、手伝っていきたいと思っている。


 お義父様に手を取られて、歩いていく。

 あまり大げさな式にしたくないということで、今日の参列者は家族や友人が主だ。

 それでも、扉が開き、教会の中に足を踏み入れたときには、緊張で少し震えてしまった。

 ベールが降りているから、周りはあまりよく見えない。

 ただ、鳴君の弾くピアノの音が聴こえる。

 こちらの教会にパイプオルガンはないから、店のピアノを運び込んで、鳴君が弾いてくれていた。

 しっかりと握ってくれるお義父様の手が、とても頼もしかった。

 顔を上げると、祭壇の前に知巳さんが立っている。

 草原の国の様式に則った、純白の軍服のような花婿の衣装は、知巳さんにとても良く似合っていた。

 黙って立っているだけでもとても素敵なのに、今は輝くような笑みまで浮かんでいるので、ベール越しでも直視できないほど眩い。

 

 転移できるようになってからの半年、各地のお店の開店準備と合わせて、結婚式の準備もしなければいけなかったので、とても忙しかった。

 けれど、知巳さんが、もうこれ以上は待てないと、張り切って頑張ってくれたので、準備は滞りなく進んだ。

 再会して2年経つけれど、知巳さんは素晴らしい自制心を発揮してくれていた。

 さすがに健全な男の人だし、まったく何もなかったわけではないけれど、最後の一線だけは越えずにいた。

 私は、結婚まで清い関係でいたいと思っていたわけではないので、知巳さんがどうして我慢するのかわからなくて、悩んだ事もあった。

 でも、亮ちゃんが『大事だからこそ、手が出せないときもある』と言ってくれたので、知巳さんの気持ちを私も大事にすることにした。

 この数ヶ月の間、知巳さんに、早く結婚したい、もうこれ以上待てないと、焦れたように求められるのはとても嬉しかった。

 あまりにも焦れた様子から、我慢しているのは私のためなんだと伝わってきたから。

 

 多分、やっと結婚できることを喜んで、あの笑顔なんだろうと思うと、とても嬉しくなってしまって、自然に笑みが零れてしまう。

 知巳さんに手を差し伸べられ、お義父様に取られていた手を渡された。

 知巳さんと手が重なった瞬間、しっかりと握り合わされる。

 もう絶対に離さないと伝えるかのように、手を握られ、ベール越しに見つめられた。



「今の俺より幸せな男は、世界中探したってどこにもいない」



 蕩けそうな甘い声音で囁かれて、頬が熱くなった。

 知巳さんの甘い言葉にも仕草にも、随分慣らされたのに、今日の知巳さんは素敵過ぎるから、自然にドキドキとさせられてしまう。



「美咲、これからもずっと一緒だ。一生愛して幸せにすると、約束する」



 熱っぽく私を見つめたまま、知巳さんが誓いを立てるように囁く。

 知巳さんの約束が嬉しくて、幸せ過ぎて涙が溢れそうになった。

 約束を絶対に守ってくれる人だと、2年前よりも今はもっと信じられる。



「知巳さんの約束なら、間違いないですね」



 微笑みながらそう言うと、感極まったように抱きしめられた。

 ベール越しとはいえ、フライングでキスをする花婿に、笑い混じりの野次が飛ぶ。

 とても王族の結婚式とは思えない雰囲気だ。

 

 その後、厳かでありながらも温かで和やかに式は執り行われた。




 離れ離れになった長い時間が、一緒にいられることの幸せを教えてくれたから、この先、私達が離れる事はもうない。

 一生、共に生きていくんだ。

 大好きな人と、不思議な物で満ち溢れた、優しい世界で。





これにて、本編完結とさせていただきます。

今後は、機会がありましたら番外編を投稿できたらと思っています。

リンちゃんの話だけ、既に書いてあるので、そこまでは投稿予定です。

思いがけず長い話になりましたが、お付き合いいただきましてありがとうございました。

初投稿にもかかわらず、たくさんの感想や評価をいただけて、とても有難かったです。

お礼は改めて、活動報告にあげさせていただきたいと思っています。

完結まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。

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