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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
107/109

82.幸せの象徴

 



 大迷宮90層の奥に出したコテージまで辿り着くと、何だかうずうずぱたぱたとしている桔梗に移動する事を告げてから、一度コテージを片付けて、みんなが攻略した100層にコテージを出しなおすことにした。

 100層は草原のエリアだったので、コテージを放置しておくにはちょうどよかった。

 牛の魔物の上位種が出るらしいので、手に入る素材も魅力的だ。

 特に、手に入る肉の種類が、かなり上質な物に変わっているので、昨日はお土産の素材を早速料理したら、みんな大喜びだった。

 一度大迷宮の外に出て、100層に入り直す。

 そして、100層のボスを倒した後に入れるようになる安全エリアから、100層の戦闘エリアに移動した。

 


「希望は、牛がたくさん倒せるところだったな?」



 先頭の知巳さんが確認するので、頷きを返すと、迷いもなく、案内するようにカイさんが歩き出す。

 カイさんは魔物を探すのが得意で、魔物の分布などもよく覚えているらしい。



「ミサキ様、牛の魔物を集中して狩りたいのなら、この辺りがいいと思う」



 カイさんが足を止めて、ちょうどいい場所を教えてくれたので、急いでコテージを出した。

 ここに来るまでに、数度戦闘になっていて、危なげなく魔物を倒すのを見ていたから、危険はないとわかっていたけど、昨日までみんな大迷宮にいて疲れているのだから、少しでも休んで欲しかった。



『主様~! レベルアップなのー』



 コテージの結界に入ると、桔梗が突進してきた。

 さっきはこれを言いたくて、落ち着きがなかったらしい。

 レベルアップと聞いて、鳴君が目を輝かせる。



「桔梗、頑張りましたね。とても偉いです」



 まずは桔梗を褒めて、鳴君は指先で頭を撫でた。

 桔梗は嬉しそうに、ふわふわと飛び回っている。



「本当に頑張ったわね、桔梗。でも、無理はしていない?」



 少し心配になって、そう問いかけると、桔梗は私の肩に止まりながら、『大丈夫なのー』と、いつものように明るく返事をした。

 


『でもね、魔力は欲しいの。魔石に魔力をくれる?』



 桔梗におねだりされたので、みんなで寝室の魔石に魔力を注ぎに行った。

 今やっておけば、コテージに滞在している間に回復した魔力を、帰りにもう一度注げる。

 見てみると、魔石は白っぽい緑色だったので、60%近くまで魔力が減っていたみたいだ。

 桔梗の話では、迷宮の中というのは、空気中から取り入れられる魔力も多いので、意外と自然回復するらしい。

 今までは、満タンの青に近い緑色のことが多かったので、常に95%くらいは保っていたようだったから、やっぱり無理をして狩りをしていたのだと思う。


 魔力を注いだ後、お茶の用意をしてリビングに集まった。

 レベルアップしたことで、寝室だけでなく、リビングも少し広くなっている。

 寝室はベッドの数が8に増えて、室内に衝立のようなものが増えていた。

 左右に4ずつ、右と左の壁にそれぞれベッドヘッドをくっつけるようにベッドが置いてあるのだけど、ベッドとベッドの間に、衝立で道が出来ているような感じだ。

 螺旋階段はそのままで、ロフトに繋がっていたけれど、ロフトはまだ見ていないので、どう変化しているのかわからない。

 リビングは、暖炉前が広くなって、ソファの数が増えていた。

 ダイニングのテーブルは大きくなっていて、椅子の数も10に増えている。

 


「ますます快適になりましたね。桔梗、馬車になった時は、どうなるんですか?」



 早速、好奇心に駆られた鳴君が質問を始める。

 桔梗はこれを見越して、鳴君を呼ぶように言ったのだろうか。

 桔梗の話すことをノートに書き取りながら、鳴君は思いつくままに質問をしていく。

 

 桔梗の話を纏めると、馬車形態になった時は、見た目は箱型の馬車で、中は今いるコテージと同じらしい。

 桔梗が育てた馬が2頭で馬車を引いてくれて、御者も桔梗がしてくれるので、昼夜関係なしに走れるそうだ。

 速度も、普通の馬車よりも速いらしく、これなら、ミシディアに行ける日も近いかもしれない。

 桔梗の話は興味深いのか、知巳さん達も真剣に聞いていた。

 話し疲れた桔梗が食べられるように、お菓子を用意しながら、私はのんびりとお茶を飲む。

 自分のコテージのことではあるけれど、桔梗がいることで満足してしまっているので、正直なところ、これ以上育たなくてもいいかなと思っていたりもする。

 それよりも、大迷宮からコテージを出して、桔梗と暮らせたらいいなと思う。



「それで、肝心な事を聞きますけれど、レベル10になったらどうなるんですか?」



 鳴君は、コテージの最終形態がとても楽しみだったのか、好奇心を隠せないまま問いかけた。

 見てみれば、他のみんなもわくわくとした様子だ。

 最大レベルでどう変化するのか、興味津々なのだろう。



『10になったら、転移なのよ。だから、主様、知巳様と結婚しても、転移すればいいの。1日5回しか転移できないけど、知巳様の国に転移すれば、結婚してもみんなと一緒なの!』



 桔梗が一生懸命言い募る。

 前に、知巳さんを桔梗に紹介した時、知巳さんはいつか草原の国に帰るという話をしていた。

 確か、桔梗がパワーレベリングをすると言い出して、張り切ったのはあの後だ。

 思い出したら、私のために桔梗が頑張ってくれたのだとわかって、感激のあまり涙が溢れそうになる。

 あの時、知巳さんに絶対についていくと強く思いながらも、大切な人達と離れ離れになる寂しさも感じていた。

 どちらか選ばないといけないのならば、知巳さんを選ぶけれど、それでも、選ばないで済むのならその方がいいという気持ちもあった。

 いくつもの別離を想像して、哀しく思っていた。

 それを感じ取って、桔梗は頑張ってくれたのだと思う。

 これは推測だけど、契約か何かで話せないだけで、桔梗はコテージがレベル10になった時、どう進化するかは知っていたんじゃないだろうか。

 だから、急いでレベルを上げて、みんなと離れ離れにならずに、知巳さんと結婚する方法もあるのだと、示してくれたのだと思う。



「桔梗、ありがとう。私が寂しくならないように、辛くならないようにしてくれたのね」



 手のひらを上にして差し出すと、桔梗がちょこんと乗ってくる。

 抱きしめられたらいいのに出来ないから、指先で頭を撫でた。



『主様の幸せは、桔梗の幸せなのー。だから、桔梗は当然の事をしただけなのよ。んと、転移先はコテージを出した場所とは別に、4つだけ指定できるの。詳しい事は、レベル10になった時に説明するの』



 胸を張って誇らしげに幸せと言い切る桔梗が可愛くて、桔梗と契約できて、本当によかったと思った。

 桔梗は私にとって、幸せの象徴みたいだ。

 誘拐された時も一生懸命に助けてくれたし、今後、私が迷わずに進めるように、道も示してくれた。

 コテージのレベルを10にするのに、どれくらい時間がかかるのかわからないけれど、知巳さんが草原の国に帰るまでには、間に合うのではないかと思う。

 知巳さんが優しく私の肩を抱き寄せてくれた。

 知巳さんだって、私を慣れ親しんだランスから連れ去ることを気に病んでいたから、それが解決してホッとしたのではないかと思う。

 それに、転移で行き来できるとなれば、結婚するための障害はなくなるに等しい。

 お店の経営を人に委ねなくても、知巳さんの妻として、草原の国で暮らす事もできるのだから。

 ただ、やっぱり、お店にかかりきりというわけには行かなくなるから、料理人の育成は必要だ。

 どうせなら、転移先すべてにお店を作ってもいい。

 異世界料理を広めたいならば、世界中のあちこちに店があるのは、とてもいいことだと思うから。



「桔梗、俺からも礼を言わせてくれ。本当にありがとう。おかげで、安心して美咲と結婚できる」



 知巳さんが眩しいような笑顔でお礼を言うと、笑顔の直撃を受けた桔梗は照れてしまって、もじもじと恥らいながら、顔を隠した。

 その様子がおかしくて、そして可愛くて、笑みが零れる。

 


「それにしても、次は転移ですか。コテージを育てる楽しみが更に増えました」



 鳴君は、転移がとても嬉しいようで、ご機嫌な笑顔だ。

 多分、頭の中ではより効率よくコテージを利用する方法を模索しているに違いない。



「他の国の迷宮にも行きやすくなるな。いっそ、商会でも立ち上げるか? 各地の迷宮で手に入った素材を販売してもいいし、後は手紙や荷物の配達もできそうだ。船旅は時間がかかるから、大陸同士を転移できるというのは、大きいよな」



 亮ちゃんは、コテージを利用した事業計画を立て始める。

 遠方に手紙や荷物を届けたりするサービスがあれば、それぞれの国同士のやり取りが増えるだろうか。

 山の国のドワーフが作った武器や防具、森の国のエルフの薬や魔道具、それに草原の国の馬は、こちらの大陸でも需要があるから、転移する事で運べれば、とても便利だと思う。

 


「手紙や荷物の配達は、国内のやり取りの方が多そうだけどな。その場合は、馬車で移動すればよさそうだ。何にしてもコテージを育てないといけないな。後は、コテージを効率よく育てるためにも、迷宮の攻略を頑張って進めよう」



 知巳さんもやる気に満ち溢れている。

 この分だと、早目に大迷宮の攻略も済んでしまうかもしれない。


 いつか、コテージの変形馬車で手紙や荷物が簡単に運べるようになって、遠方に嫁いだレイラ義姉様のような人も、気安く実家とやり取りができるようになればいいのになと思う。

 そしたら、知らない土地に一人で嫁ぐ寂しさも、かなり紛れると思うから。


 いつか、みんなそれぞれの道を見つけて、ばらばらになってしまうかもしれない。

 けれど、私の店を拠点に集まる事ができたら、きっと寂しくない。

 例え、世界中に散らばる事になったとしても、ランスの私のお店が、気軽に帰ることができる実家のような場所になればいいと思う。



「桔梗、まだしばらく一人で頑張らせてしまうけれど、頼りにしているからよろしくね」



 レベル9になるまでの時間を考えれば、10にするのはもっと大変だと思う。

 その間、桔梗をずっと大迷宮に閉じ込めるようで申し訳ないけれど、できる限り、桔梗に逢いにくるようにしよう。



『桔梗におまかせなのー。桔梗が頑張ると、主様が幸せになるから、いっぱい頑張るのよ』



 明るく可愛く言い切られる。

 やっぱり、妖精はとても優しい生き物だと思う。

 できる限り恩を返せるように、私も頑張ろう。

 

 その日は、夕方まで桔梗と一緒に過ごした。

 桔梗に預けた子馬も見せてもらったけれど、すっかり大きくなっていて、いつでも馬車を引けるそうだ。

 いつか、桔梗も一緒に旅に出られる日が楽しみだ。

 その時も、みんな一緒だったらいいのになと思った。




漸く、コテージがレベル9になりました。

次回で本編完結になります。

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