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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
106/109

81.大迷宮攻略



 レーナとリーサもお店を手伝ってくれる事になり、その間に、みんなは大迷宮の攻略をすることになった。

 ランスのエルヴァスティ家の料理人にも、ちょうどいい機会だからと、手伝いついでにレシピを教えることになり、人手の足りない間、厨房は賑やかになりそうだ。

 いつものメンバーでは、結花さんだけが店に残る事になる。

 私、結花さん、レーナ、リーサ、その他に、手伝いの人をエルヴァスティ家から派遣してもらう。

 新しいレシピを覚えられるということで、喜んで来てもらえたのはとても助かった。

 給仕に関しても、普段から貴族に仕えている侍女なので、何の問題もない。


 みんなは完全攻略を目指して、数日、迷宮に篭るそうなので、知巳さんとその間逢えないのはとても寂しいけれど、迷宮の完全攻略が大事なのは理解していたから、我慢する事にした。

 それでも、出発の日の朝は離れがたくて、出かける知巳さんを引き止めるように抱きついてしまった。

 今まで、みんなが迷宮に行く時に、こんなに離れ難い気持ちになったことはない。

 ほんの数日の事なのにと思っても寂しくて、知巳さんはやっぱり特別なんだなって思う。



「寂しいのか? それとも、心配で不安か?」



 お店の玄関で、抱きついたまま離れない私を、知巳さんがしっかりと抱きしめてくれる。

 逞しい腕に包まれて、伝わってくる温もりを感じながら、頬で擦り寄って甘えた。

 


「ぜんぶ。離れるのが寂しくて心配で不安なの。せめて桔梗が知巳さんと一緒だったらよかったのに」



 私のコテージは、私にしか出せないから、桔梗は知巳さんについていけない。

 その事をとても残念に思う。



「みんな強いから大丈夫だ。それに、俺は、大迷宮を4つも完全攻略しているんだぞ? 戦力で言えば、今回が一番恵まれている。だから、安心して待ってろ」



 私を安心させるように、力強く言い切りながら、頬に添えられた手で顔を上向かされた。

 まっすぐ見つめられ、優しく微笑みかけられる。

 今までずっと離れ離れだったのに、数日が我慢できないなんて子供みたいだ。



「早く、帰ってきてね? 待ってるから」



 ねだるように言うと、優しいキスを唇に落とされる。

 雰囲気に流されて受け入れてしまってから、二人きりじゃなかった事に気づいた。

 私が真っ赤になって慌てると、知巳さんがおかしそうに声を立てて笑い出す。



「ミサキ様、トモミ様は必ずお守りします。安心してお待ちください」



 フレイさんが頬を赤らめたまま、力強く請け負ってくれる。

 


「フレイさんとカイさんもお気をつけて。無事に帰ってきてくださいね」



 誰にも怪我なんてして欲しくない。

 無事に帰ってきて欲しいので、フレイさんとカイさんにも声を掛けると、頷きを返される。



「ミサキ様のオベントウ食べて頑張ってくる。トモミ様は強いから安心していい」



 カイさんも力強く言い切ってくれて、漸く安心して微笑む事ができた。

 迷宮の中でもまともな食事が出来るように、それぞれに、多めに食料を持たせてあった。

 飽きが来ないように、出来るだけ色んな種類の料理を作ってある。



「それじゃ、行ってくる。留守中に何かあったら、すぐにラルス殿に連絡するんだ。決して、一人で出かけたりはしないように」



 知巳さんは知巳さんで、私を残していくのが心配なのだと、その言葉で伝わってきた。

 もう、誘拐なんてことはないはずだけど、私も気をつけなければ。



「遅い、待ち草臥れた」



 知巳さんと一緒に店の外に出ると、亮ちゃんから苦情が飛んでくる。

 みんな知巳さんが出てくるのを待っていたらしい。



「亮二、やっと逢えたばっかりなんだから、離れ難い気持ちもわかってあげなよ」



 みぃちゃんが笑顔で取り成してくれたけど、何だか余計に恥ずかしい。

 からかわれてるような気持ちのなるのって、被害妄想かな?



「仕方ない、行くぞ。美咲、昨日話した通り、6日の予定で完全攻略を目指してくる。留守中、身辺には気をつけろよ?」



 みんなを促しながら、亮ちゃんが振り返って声を掛けてくる。

 亮ちゃんも、留守中に私が危険な目にあわないようにと、気にかけてくれてるみたいだ。



「十分気をつけるわ。いってらっしゃい、亮ちゃん」



 視線を合わせ、頷きながら手を振ると、ちょっと不機嫌顔だった亮ちゃんが笑みを零した。

 そのまま、いってきますも言わずに、背を向けて歩き出す。

 もしかして、私が知巳さんにべったりだから、ちょっと拗ねてたのかな?

 そう思ったら何だかおかしくて笑ってしまった。

 今までになく長い6日になりそうだけど、留守の間、私は私にできることを頑張ろうと思った。







「一日が長いわね」



 みんなが大迷宮に篭ってから、一日が長く感じる。

 お店もがらんとして広く感じるし、夜は静かで怖かった。

 レーナとリーサだけじゃなくて、エルヴァスティ家の侍女も泊り込んでくれているのに、いつもより静まり返っているように感じる。

 外に、知巳さんが予備で持っていた結界の魔道具を使ったから、夜は誰も入れないようになっているとわかっていても怖い。

 こんなの、初めてだ。

 恋をして、私は弱くなってしまったみたいだ。



「逢えない時間が長く感じるのは仕方がないわ。それだけ好きってことじゃないかな? 反対に、一緒にいる時間は、あっという間に過ぎてしまうでしょ?」



 結花さんも同じような経験をしたことがあるのか、笑み混じりに問いかけられる。

 確かに、知巳さんと過ごす時間はすぐに過ぎてしまうから、頷きを返した。



「一緒にいるのが当たり前になってきたら、こんな気持ちも落ち着くのかな?」



 知巳さんと再会する前の私と、今の私ではまるで別人のように違ってしまっている気がして、怖くなってしまう。

 


「うーん、少しは慣れて落ち着くかな? 離れてると、寂しいのは寂しいんだけど、離れてても繋がってる感じがするの。離れてるときも一緒にいられるような感覚っていったら変なんだけどね。だから、私は、最初の頃ほどは寂しくないかな」



 言葉を選ぶように考えながら話す結花さんからは、みぃちゃんに対する愛情と信頼が伝わってくる。

 私もいつか、そんな風に思えるようになるのかな?

 多分、私が感じているのと同じ寂しさを、知巳さんも感じていてくれると思う。

 けれど、知巳さんを想う気持ちに変わりはないのに、今は繋がっているという気持ちよりも、寂しい気持ちの方が強い。



「美咲さんと先生はまだ始まったばかりだから、そのうち落ち着くわ。せっかくだから、みんなが帰ってきたときに出すメニューでも考えない? たくさんご馳走を作って帰りを待ってたら、寂しいのもまぎれるかも?」



 私を元気付けるように、結花さんが提案してくれる。

 その気持ちが嬉しかったから、笑顔で頷いた。

 


「そうね、何を作るか考えましょう。リンちゃんが喜ぶようにデザートも何か新作を考えてみるわ」



 何を作ろうかと考えていたら、楽しくなってきてしまった。

 メニューを考えて、明日から、少しずつ下準備をしていこう。

 たくさんご馳走を作って、みんなを出迎える計画を立てたら、単純だけど寂しいのは紛れてしまった。



「デザートの新作は、私も楽しみだわ」



 結花さんが嬉しそうに微笑むのを見たら、更にやる気が出てきた。

 二人で何を作るのか相談しながら、長い夜を過ごした。

 みんなが帰ってくる日が、とても楽しみだった。








 みんなが帰ってくる日を、指折り数えて待っていたのだけど、予定より早い4日目の午後には帰ってきたのでホッとした。

 後二日、寂しいのを我慢しなければと思っていたから、予想外の早い帰りが余計に嬉しくて、知巳さんの姿を見た瞬間、人目も気にせずに抱きついてしまった。

 


「ただいま、美咲。熱烈歓迎は嬉しいんだが、仕事中だろう?」



 着物姿の私の背中を宥めるように軽く叩いてから、知巳さんは抱き返してくれた腕を解いた。

 確かにその通りなので、素直に体を離す。



「一度帰って着替えてくる。夕食はこちらで食べるから、また後で来るよ」



 私に顔を見せるためだけに立ち寄ってくれたらしい。

 知巳さんはすぐに帰ってしまった。

 それを寂しいと思うよりも、また後で逢えるのが嬉しくて、顔が勝手に笑ってしまう。

 ご機嫌で仕事をこなしていたら、あっという間に時間は過ぎてしまった。







「大迷宮の攻略、終わらなかったんですか?」



 お店の閉店後、2階のリビングにみんなで集まっていた。

 フレイさんとカイさんも一緒にいて、最初は靴を脱いで寛ぐというのが慣れないようだったけれど、今ではすっかり馴染んでいる。

 


「100層が最下層じゃなかった。となると、多分120層まではあるんじゃないかと思う。下手すると150層の可能性もある」



 知巳さんが少し渋い顔で言う。

 階層が深くなればなるほど、敵は強くなるし、完全攻略は遠のくからやっぱり大変なのだろう。



「幸いなのは、敵が戦えないほど強いってわけじゃないことだな。俺らのパーティならある程度は余裕を持って戦える」



 亮ちゃんが自信ありげに言い切るので、攻略自体は問題なさそうだ。

 亮ちゃんはどちらかというと慎重に事を進めるほうだから、その亮ちゃんが余裕を持って戦えるというのなら、大丈夫だと思う。



『主様~! 桔梗は主様に逢いたいの。明日、逢える? 桔梗に逢いにきてくれる?』



 不意に桔梗の声が飛んできて、びくっと震えてしまった。



「美咲、どうした?」



 隣に座っていた知巳さんは、すぐに気づいて声を掛けてくる。



「桔梗が逢いにきて欲しいって。明日、大迷宮の90層に行きたいんですけど、連れて行ってくれますか?」



 さすがに、90層に一人では行けないのでお願いすると、知巳さんは快く頷いてくれた。

 今日の午後に帰ってきて、疲れているはずなのに、面倒がる様子はまったくない。



『桔梗、明日、知巳さんと一緒に行くわ』



 思念で返事をすると、桔梗が喜んでくれているのが伝わってきた。



『んとねー、鳴様も呼んでほしいのー』



 桔梗からリクエストされて、そのことを鳴君に伝えると、呼び出しが嬉しかったようで笑顔で了承された。

 桔梗が呼んだのは鳴君だけだったけど、亮ちゃんもついていくというので、知巳さん、フレイさん、カイさんも合わせて6人で行く事になる。

 明日、お店が休みでよかった。

 他のみんなはさすがに疲れたそうなので、休養することになった。




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