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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
103/109

79.桔梗との再会



 お店の営業を再開する前に、桔梗に逢うために、知巳さんと一緒に大迷宮に入った。

 今日はフレイさんとカイさんが一緒で、4人だけでやってきた。

 コテージは90層に出してあるけれど、知巳さんたちはとても強いので、4人でも何の問題もなかった。

 私も薙刀を持っていたけれど、ほとんど手を出す隙がなかったくらいだ。

 コテージの結界に入ると、『主様~』と、桔梗が突進してきた。

 ひらひらと私の周りを飛びまわり、ご機嫌な笑顔だ。

 可愛すぎて癒される。



「小さい美咲がいる。可愛いな」



 知巳さんは桔梗の事が気に入ったようだ。

 手のひらの上に呼び寄せて、可愛がっている。

 桔梗も私の感情がわかるからか、知巳さんに懐いていた。



「桔梗、知巳さんの従者のフレイさんとカイさんがいるの。結界に入れるように登録してあげてくれる?」



 魔物が沸くと面倒なので、急いで二人を登録してもらった。

 すぐに登録は済んで、フレイさんとカイさんが入ってきた。

 尊君のコテージを見ているはずだけど、私のコテージは、色々と植えてあるし、馬も育てているので、全然違って見えるみたいで、二人とも驚いている。



「美咲が誘拐された時は、世話になった。ありがとう、桔梗」



 手のひらの上に桔梗にお礼を言いながら、知巳さんが指先で桔梗の頭を撫でる。

 桔梗は、はにかむようにもじもじとしながら、『当然なのー』と羽をぱたぱたとさせた。

 あまりにも可愛らしい様子に、和まされてしまう。



「今日は桔梗に、チョコレートを持ってきたの。甘いの好きでしょう? 知巳さんのお土産なのよ」



 特別甘くした生チョコレートを、桔梗の為に作ってきた。

 知巳さん達をコテージに招きいれて、ソファを勧める。

 だけど、知巳さんはコテージの中を見たそうにしている。



「桔梗、知巳さんがロフトに上がれるように許可を出しておいてね。知巳さんは、中を見たいのならご自由にどうぞ」



 知巳さんが中を好きに見られるようにしてから、探索を勧めてみる。

 桔梗に案内を頼みながら、知巳さんは寝室に入っていった。

 その間に、私はお茶を用意することにした。

 お皿に桔梗のサイズで作った生チョコレートやクッキーを並べて、別にしておく。

 フレイさんとカイさんは、女性のコテージを勝手に覗くのも気が咎めたのか、大人しくソファで待機しているようだ。

 本当はお茶の支度を私にさせるのが心苦しいようだけど、知巳さんの屋敷以外では、私に任せることにしてくれたみたいだ。

 茶器やお菓子をトレイにのせて、テーブルに運んだ。

 ダイニングテーブルもあるけれど、今日は暖炉の前のローテーブルにした。



「ミサキ様、今更の気もするのですが、コテージに妖精がいるのはどうしてですか?」



 フレイさんが、何だかちょっと聞きづらそうに聞いてくる。

 もしかしたら、尊君のコテージの妖精の事も、気になっていても極秘事項かと思って、聞くのを遠慮していたのかもしれない。

 知巳さんの従者に隠す事でもないので、コテージにはレベルがあることを話すことにした。



「コテージがレベル8まで育つと、妖精を召喚できるんです。コテージの中に魔石が発生して、それに注がれた魔力を使って、妖精がコテージの管理をしてくれるんですよ。馬も育ててくれます」



 可愛い桔梗の事なので、ちょっと自慢げに言ってしまった。

 フレイさんもカイさんも相当驚いたのか、驚愕の表情のまま硬直している。



「コテージに……」


「レベルですか……?」



 呆然と呟く二人に、うんうんと頷きを返す。

 転生者である私達は、ゲームというものを知っていたから、コテージがレベルアップしても何となく受け入れてしまったけれど、こちらの世界の人にしてみれば、常識が覆されるような大変な事なのかもしれないと、二人の反応を見て思った。

 それくらい、酷い驚きようだ。



「美咲、このコテージは凄いな。どうしてこんな風になっているんだ?」



 桔梗には聞かなかったのか、戻ってきた知巳さんが、少し興奮した様子で問いかけてくる。

 その様子が何だかちょっと可愛い。

 また、知らない知巳さんの一面を見れたようで嬉しくなる。



「とりあえず、座ってお茶をどうぞ。桔梗もこっちにきて」



 お茶を勧め、桔梗を呼び寄せた。

 このコテージは、神様にいただいたものだから、それも含め、知巳さんには話さないといけない。



「今、フレイさんとカイさんにも話していたけれど、コテージは経験値が溜まるとレベルアップするんです。一つレベルが上がるごとに、部屋が広くなったり、新しい機能が増えたり、とっても凄いんですよ」



 桔梗にチョコレートを渡しながら説明すると、レベルアップに関しては、知巳さんは割りとすんなり受け入れられたようだった。

 なので、このコテージは神様にもらった事。

 コテージがあったおかげで、とても助かった事。

 今まで、コテージをどんな風に育ててきたか、使ってきたかなどを、お茶を飲みながら説明していく。



「美咲に、コテージがあってよかった。一人は大変だからな、あの神も意外と親切だったんだな」



 私がコテージのおかげであまり苦労しなかった事を知って、知巳さんはホッとした様子だ。

 私を一人で転生させたことを、知巳さんはとても申し訳なく思っていたようだから、少しでも気持ちが楽になればいいなと思った。



「それで、コテージのレベルは10まであって、レベル9になると、馬車に変わる事まではわかっているんです。もう随分長く、大迷宮の中で育てているのだけど、しばらくレベル8で止まってます」



 前に桔梗に、後どれくらいでレベルが上がるかわかるのか聞いてみたけど、わからないと言われた。

 レベルアップできるようになったら、そのときはわかるそうだ。



「今回は、桔梗がいてくれて本当に助かったからな。桔梗がいなくて、美咲がどこにいるのか見当もつかなかったらと思うと、想像するだけで怖い。再会する前に、美咲を失う可能性だってあったわけだから」



 再会できなかった可能性を考えてしまったのか、知巳さんの顔が曇る。

 知巳さんの手を取って、しっかりと握り締めながら、顔を覗き込んだ。



「知巳さんが私を失う事なんてないです。だって、私が心から望むのは、知巳さんだけですから。だから、称号が私を守ってくれたと思うんです」



 ちょっと恥ずかしかったけれど、他の人に抱かれるなんて絶対無理なので、見つめたままそう言い切ると、知巳さんは照れてしまったのか視線を泳がせてる。

 良妻賢母の称号は、過去の転生者も持っていたようで、王族や上位貴族なら、その称号の効果も知っているそうだ。

 もちろん、知巳さんも知っているから、私の言葉の意味を正しく理解してくれたのだと思う。



「キ、キキョウ殿、庭を案内していただいてもよろしいでしょうか?」



 フレイさんが真っ赤になって、桔梗に声を掛ける。



『もちろんよー。桔梗は案内するの。カイ様も一緒に行くのー』



 同じく赤くなっているカイさんも桔梗が誘って、庭に出て行く。

 気をつかってくれたんだろうか?

 知巳さんと二人きりで残されてしまった。



「俺が心から望むのも、美咲だけだ」



 私を腕に抱きこむように抱きしめた知巳さんが、少し赤くなった頬で擦り寄ってくる。

 ドキドキと苦しくなってしまう胸を抑えながら、甘えるように体を預けた。

 知巳さんは、言葉一つで私の心を奪う。

 限りなく溢れてくる愛しさで、胸が詰まる。



「美咲、大事な話があるんだ。聞いてくれるか?」



 私を抱きしめたまま、知巳さんが視線を合わせてくる。

 真剣な目で見つめられて、恥ずかしいけれど視線を合わせたまま頷いた。



「すぐではないんだが、俺はいつか草原の国に帰らなくてはいけない。既に領地を賜っていて、今のところは、それまで治めていた代官が領主代理をしてくれているんだが、いつまでも任せっ切りというわけにはいかないんだ。どんなに延ばしても、数年が限界だと思う。草原の国に帰るときに、俺は美咲についてきて欲しい。ランスに大切な人がたくさんいる美咲に、こんな事を言うのは俺の我侭だとわかっているんだが、離れたくないんだ」



 私の心を思いやって、知巳さんは苦しんでいたのかもしれない。

 知巳さんのこういう優しいところが、やっぱり好きだなぁと改めて思ってしまいながら、微笑みかけた。



「前に、頑張り過ぎて熱を出した事があったんです。その時に、亮ちゃんが将来のことも考えて、私がいなくても店を営業できるようにすることも、考えた方がいいって言ってくれて。その時に私、考えたんです。私に大切な人がいるように、知巳さんにだって旅の間に大切な人ができる可能性もあるって。もし、知巳さんについてきて欲しいと言われたら、ついて行ってしまうって」



 あの時は、再会できるかどうかさえもわからなかった。

 毎日を過ごすのに精一杯で、未来の事なんて考える余裕はほとんどなかった。

 あの時、知巳さんと離れた事を、後悔しながら生きるのはもう嫌だって思った。



「知巳さんと離れ離れになるのは嫌だって思いました。離れた事を後悔しながら生きていくなんて、もう絶対に嫌です。あの時よりも、再会した今の方が、強くそう思うんです。こんな風に一緒にいる幸せを知ってしまったのに、離れるなんて絶対無理です」



 心のままに、ぎゅっと強く知巳さんに抱きついた。

 離れたくないし、離さないで欲しい。

 ずっと一緒にいたい。

 例え、知巳さん以外誰一人知る人のいない場所でも、知巳さんがいれば、それだけでいい。

 みんなと離れ離れになるのは寂しいけれど、2度と逢えないというわけではないから、我慢するしかない。

 知巳さんが何よりも私を選んでくれたように、私も誰よりも何よりも知巳さんを選ぶ。



「やっぱり、美咲は情熱的なんだな。俺が今、どれだけ嬉しくて幸せか、全部伝える事ができたらいいのに。――夏の、美咲のお披露目のパーティーの時は、俺にエスコートさせてくれるか? 美咲の婚約者として。いつか、草原の国に帰るときは、俺と結婚して、ついてきて欲しい」



 額をこつんとあわせて、近い距離で見つめたまま請われる。

 今までも婚約者とか言われた事もあるし、結婚を口に出された事もあるけど、結婚してほしいと、はっきりと請われたのは初めてだ。

 

 夏の社交シーズンに、王都でエルヴァスティ家の娘としてのお披露目パーティーの予定があった。

 パートナーは最初から、知巳さんしか考えていなかった。

 パーティーも、それ以外も。

 こちらの世界の結婚の意味は重いのだから、もっと時間を掛けて考えるべきなのかもしれないけれど、どんなに考えても答えは変わらない。

 むしろ、知巳さんでなければダメだと、確信が強まるばかりだ。



「連れて行って。いつも、そばにいて。どこにでもついていくから、もう絶対に離さないで」



 胸がきゅぅっと引き絞られるように、甘く疼く。

 私をこんな風にしてしまうのは、知巳さんだけだ。



「俺はもう二度と、美咲を一人にしない。約束する」



 熱っぽく告げられ、誓うように厳かに口づけられた。

 知巳さんは隙を見ては私にキスをするけれど、唇にはしない。

 名前を呼ばれたときと今と、まだ2回だけだ。

 そんな事にすら、私がどれだけ大切にされているのかを、感じさせられる。

 この約束が、口づけが、どれだけ大切な意味を持つものなのか、強く伝わってくる。



「知巳さんの約束なら、絶対に守ってくれるから、間違いないですね」


 

 慣れないキスに照れてしまいながら微笑んだ。

 心からそう思う。

 知巳さんが約束と口にしたならば、絶対守ってくれるって信じてる。

 まだ、お互いに知らない部分もたくさんあると思うけれど、一番大切な事は知っている。

 私は私の知っている知巳さんを信じてる。


 その後、ぱたぱたっと飛び回りながら戻ってきた桔梗が、『パワーレベリングなのー』と騒いで、90層のレアボスが出てくる位置までコテージを移動する事になった。

 よくわからないけれど、桔梗が戦闘モードらしい。

『魔力を注いでー』とおねだりされたので、みんなで魔力を注いでから、大迷宮を後にした。

 



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