くちづけするため禁煙 ~口臭対策と初期虫歯には重曹うがい~
『たばこの臭いがする』
私は落ち込み中。
確かに煙草をやめるにやめられなかったのは事実だけど。
というかあんた誰よ。私はあなたの事なんて知らないから!
「みかっち。みかっち」ぽんぽんと肩を叩かれる。
「浅生先生が心配してたよ。問題当ててもぼうっとしてたって」へ?
鼻先をあげて友人の智子を見あげる私はさぞ間抜けな顔をしていたのだろう。
「寝てたわけではないのね。目やにがついているわけでもよだれも出てないし」そんなことしないし。
ここだけの話。
浅生さんはぷらいべーとだかぷらいばしー侵害な世界では紺野さんのお友達だけど実は私の通う学校の先生だったみたいで、しかも担任だったそうで。
「なんで浅生さんがうちの学校にいるのよ」髪をかき上げて悪態をつく私にともっちは苦笑い。
「だって授業に出るようになったの最近じゃない。浅生先生と知り合いなの? ちょっと興味あるなぁ」変態ですから。幼女連れ歩いてるし。
授業中でもちょこちょこと浅生さんの後ろについて入ってきたのはびっくりしたもの。
そう指摘すると「なんの冗談?」とか言われた。意味わかんない。
あと、ヤンキーやってたときはお互い怖い顔だったけどともっちだって結構美人さん。
キツイパーマをしていたから髪をバッサリ切らなければいけなかったらしいけど前はすごかったんだから。
「あと、黒のヘアピンだけど校則違反だよ。愛しの彼になんか言われないかな」ううう。その件で落ち込んでいるのに。
『タバコが辞められない』
今週で禁煙三週間目になる。
誰も見ていないと思うとすかさずコンクリート壁に八つ当たりしたり、
まいなちゃんに呆れられたり、『吸いたければ吸えばいいのに』と紺野さんに言われてかたくなになったり。
「普通『吸え』なんて言わないよね。紺野さんイケているのに変わっているよね」「だから私が頑張っているじゃない」全然。というか糠に腕押しですけど。
「みかっち。それ糠に釘。美味しい漬物つくってどうするのよ。暖簾に腕押しの間違い」「どうでもいいし!」
煙草をやめるとご飯がおいしい。絶対太ると思う。
「……」「何見ているのよ。ともっち」「これ以上デカくなる気なんだ」
ともっちの視線の先には私の胸がある。気にしているのに。
彼女の口元がニヤニヤ。私の頬がまっかっか。
「84でしたっけ」「言ッ?! うッ?! なぁ?!」
必死で彼女の口をふさぐ。男子に聞かれていないよね。
「まだまだどんどん大きくなるんじゃ」「あんた変態だったの」色々危機感を感じる。
取り敢えず広島にはこれ以上大きな下着はなさそうだ。このままだと体育の時間が怖い。
「夏でもジャージ着れないかな」「倒れるよ」尾道の坂の昇り降りは大変である。
あのお尻と股にどんどん食い込んでくるピッチピッチの赤いブルマーといい、体の線が出る体操服と言いどうかと思うの。
「スケバン辞めたらモテモテ」「別にそんなつもりはない」
それに付き合ってヤンキー辞めちゃったともっちには感謝しているが。
「だってヤンキーやってたら」「あの坂を登れない」みんな自転車で登っているし。
ともっちは椅子を持ってきて私の机の体面に座る。べったりと抱き着いた机とお互いの額が冷たくて気持ちいい。
「わたしは煙草もアンパンもやってなかったから楽だった」「歩いて通学している私は自転車で登る連中の考えが解らない」
「腐っとるなぁ。美夏~」うっさい。まいなちゃん。
たばこ臭いと言われて口に布をつけて仕事するようになって三週間たつ。
愛日毎日必死で歯磨きしているのにキレイになった気がしないし。
そんな私たちを机の下から見上げて嗤うのは赤い服を着た幼女。
また学校にはいってきているし?!
彼女は机の下から首を伸ばして飛び出ると小さな手をのばしひょいっと私たちがくさってもたれかかる机の上に座る。
「良いことを教えてやるのじゃ」また『赤点はわしの仕業じゃ』とかどうでもいい冗談言うんでしょ。
「重曹というのがあるじゃろ。料理や掃除で使うあれじゃ。
一キログラムで買えて非常に安い。あれをスプーン一杯コップに入れて水で溶いて口をゆすいでうがい後、歯磨きで歯を磨いてまた重曹水で口をゆすいでうがいしてコップに残った重曹水でもう一度歯を磨いて口をゆすいでうがいしてみるのじゃ」はぁ。
「こーんな真っ白な歯になるのじゃ」そういってまいなちゃんはイーと意地悪な笑みを浮かべる。
「鵲。こんなところにいた」そういって後ろからまいなちゃんを捕縛する浅生さん。改め浅生先生。
「むー。今日は悪いことはしてないのじゃ」「これからする気でしょう」
じたばたしながら退場するまいなちゃん。
というか高校に幼女連れてきちゃだめですよ。浅生先生。
「口臭も取れるし、歯のつるつるも持続するし、初期虫歯にも効くのじゃぞ。お前のような高校生の小遣いでも可能じゃ」それはいいかも。
「カツアゲしなくていいしね」「浅生さんっ?! そんなことしていませんっ?!」
思わず叫んでしまってクラス中に注目されてしまいました。
ああ。あらぬ疑いがかかってしまった。
変な事言わないでください。まったく。
でも、まいなちゃんから教わった重曹水のうがいは試してみようっと。
そうおもって家にある重曹の袋を開けて。うわ。まずっ。
「美夏?! それは鍋を洗うものよ?! 食べたらダメッ?!」「え?! ババア……もといお母さんッ?! そういうことは早く言ってよ?!」
「浅生先生と紺野さんのおかげで良くなったと思ったらまだまだねぇ」呆れる母の声に。
『ああ。食用を兼ねる重曹を買うのじゃよ~』
まいなちゃんの声が聞こえた気がしました。
私の名前は夢野美夏。
キャピキャピの一六歳新人類。
私の好きな人は紺野塊山さん。
「あなたはなんでも知っているのね」
「そうでもないさ。知らないことだってあるよ」
彼はトンデモない変わり者なのです。
だから私が頑張らないといけないの。