鵲(かささぎ)みるより鶴(つる)食う ~流行語は通じるとは限らない~
新製品が続々と生まれ、CMに映る新しい道具が子供心をときめかせていた1980年。
一人の青年と一人の女子高生が出逢いひと夏の恋の物語が始まる。
『今時の女子高生』夢野美夏。一六歳。
彼女には悩みがあった。好きになった人がとんでもない変わり者だったのだ。それを矯正するべく美香は奮闘する。
かくれんぼする者よっといで
早くしないと切っちゃうぞ 早くしないと切っちゃうぞ
切った もうだめよ
高山崩した
ろうそく一本崩した
ねずみのしっぽくずした
夕暮れ時ってウシミツドキって言うんだよね。
こんにちは。知らない人。私は元気。わたしはあなたの事なんて知らないけど。
夕闇の中で子供の遊ぶ声は聞いていてちょっと安心する。
別に妖怪なんて非科学的なモノは信じていないけどね。
そうおもって闇をはらむ光の中で不相応にデカい影に気が付いた。
私は年甲斐もなく赤い着物の幼女と楽しそうに遊ぶオジサンに気が付きげんなり。
なにやっているんだろう。この人。
「浅生さん」「や。美夏ちゃん。元気?」
振り返ったオジサンは筋肉ムキムキの男前さん。変態じゃなければね。
さわやかな笑みとすらりとした長い手足は漫画の主人公みたい。オジサンだけど。
「あ。美夏じゃ」「呼び捨てにしないの。埋名ちゃん」「鵲。お前は美夏ちゃんが好きみたいだな」
この子は相変わらず。まいなちゃんというのだけど礼儀知らず。
自称『ザシキワラシ』なんだって。この年頃の子にはよくあるわよね。
私も布団の中で智子とお姫様ごっこで盛り上がることがあるし……って今はほとんどしないわよ?!
変な事言わせないでよねっ?!
何処まではなしましたっけ。
浅生さんって言うのは三五歳のオジサンの癖に私と紺野さんの仲に割入ろうとするロリコンさんです。
ロリコンというのは変態の事なのです。怖いですよね。
ルパン三世と喧嘩するんです。年甲斐もないですよね。
「また美夏ちゃんが変な事考えている」「変態が何か言っている」
「年上にひどくない?」「浅生さんなら大丈夫だもん!」「これだから新人類は年上への敬意ってものがないんだって言われるんだよ」「尊敬されるオジサンになってくださ~い!」
でも、嫌いじゃないんです。ふふ。
まぁ、紺野さんのほうが百倍は素敵ですけど!
手をつないで歌ったり遊んだり。今度は二人で『はないちもんめ』。
って? 二人で? 「きてきて美夏~。いっしょに遊ぶのじゃ~」もう。まいなちゃん。私は忙しいのですけど?
ひとしきり遊び終わり、私は浅生さんの風呂敷を。浅生さんはまいなちゃんを抱えて紺野さんのお店に向かいます。
浅生さんはよくうちに遊びに来るんです。殆ど何も買っていきませんけど。
「また埋名ちゃんと遊んでいる」「鵲が煩いんだ」
まいなちゃんっていうのは浅生さんといつも一緒にいる赤い着物の女の子です。
笑みが不気味でちょっと変な子だけど私になついてくれているのです。
『不幸になって、困る顔が楽しそうで楽しそうで』少々親の顔がみたいですが。
そうして私が浅生さんをじろじろ見ていると彼はぶうたれたようにこうおっしゃいました。
「ぼくはまだ未婚だよ」「じゃ、小さい子を浚ったんですね」「酷いね」
夜遅く遊んでいたら殺し屋さんや人さらいさんが連れていくって言うけど、浅生さんはそう言うヒトかもしれません。変態だし。
「変態じゃない」「ロリコンって言うんでしたっけ」「違います」
そうやって女子校生相手でもむきになって私に歯を見せて笑いながら告げる彼。
どうみてもオトナじゃないですよね。ちょっとは紺野さんを見習ってほしいけど。
「だから女子高生を狙う変態なんです。浅生さんは」「違います」
浅生さんってこれでも教師なんですよ。女子高生の敵ですよね。
「だから変態じゃないっていってるのに!」「浅生の息子よ。まぁ気にするな」「気にするよ鵲?!」ほんと、私のほうが大人ですよね。
今日の雑学は『ろりこん』っていう新しい言葉です!
こんな大人になっちゃいけませんよ! 約束です!
「だから、ぼくはろりこんじゃないって」「しゃーらっぷ!」
私の名前は夢野美夏。
キャピキャピの一六歳新人類。
「美夏~。お店が見えてきたのじゃ~」「紺野の淹れる珈琲は旨いよな」
私の好きな人は紺野塊山さん。
わたしの『アルバイト』先の店長さん。
「あなたはなんでも知っているのね」
「そうでもないさ。知らないことだってあるよ」
紺野さんはトンデモない変わり者なのです。
だから恋人の私が頑張らないといけないの。
たそがれ時のウシミツドキ×
黄昏時=逢魔が時
草木も眠る丑三つ時○
当時の美夏はちょっと天然入っている。