身体ごと厨弐展開 ~これまでのおさらいと超展開ごめんなさいと~
ああ、本当に強くなったなぁ。
血の味に気付く。あの最後の光景は夢じゃなかったんだな。
あの妙に甘ったるい世界は、最後のたむけのつもりだったのだろうけど。
「だから、私を見て!! 私から目をそらさないで!!」
世界なんて誰にだって滅ぼさせない。未来はきっと輝いている。
世界が覆されたって。
私たちはきっと。誰かに恋をする。
その相手が既にいるなら。もうそれだけでいい。
奴は転がっていた赤い木刀を手に取る。
一度は投げ捨てたそれを力強く。
優しい口調なのに人間味のない違和感。
問いかける声に。
「アンタ誰よ?! 私はあんたの事なんて知らないんだから!」と叫ぶ美夏っち。
「どうしてだ? 君のなりたい未来になったのに」
ツバサもないのに浮遊するその赤い物体に。
私の知っているあの人の声じゃない。
「紺野。もうやめろ」「なぜ? 僕はそのために生まれたんだ」
浅生先生が『あまりにも不幸過るから』降り注いでくる隕石。
その猛攻撃を受け乍らその赤い物体は明るく笑う。
まっかな麦わら帽子に似た変な飛行体。
機械なのか生物なのかも解らない。
ごちゃごちゃと光るそれの中央には、確かに私たちの知る男の人の姿があったんだ。
「私は、『ゴミの山』。文明を破壊し、吸収し、自己進化する存在」「はぁ?! 聞いていないんですけど?! だっさ?! イモっ?! 笑っちゃうわ?!」
「私の知っている紺野さんはアンタなんかじゃない」
ぎりりと言う歯ぎしりの音がこっちにまで聞こえてきた。
「返せっ?! 紺野さんを返せっ 返してよ?! アンタなんて知らないんだから?!
私の知っている紺野さんは、とぼけていて、おバカで。優しくて。
いつだって私を見守ってくれた!!!」
大上段に赤く燃える木刀を構える美夏っち。
その顔は憤怒と涙に染まっている。
『あの顔。大魔神の顔を紺野さんにを見られるくらいなら死んだほうがマシ』っていって相争うみかっちと私はあの変な光に焼かれて。
「私は、嫌われたっていい。あなたを失うくらいなら」
髪を振り乱し、大股で大地を踏みしめる。
石畳が砕けて暴風が飛び散る。
彼女の腕がゆっくりと上がる。まるで泣いているかのように。
「お前なんて大嫌いだと言ったら?」
びくりとなるその体。
彼女が小さく、悲しく見えたのは一度目ではない。
でも、今のみかっちなら。大丈夫だよね。総長の木刀。託しても良いよね。
ゆっくりと上がった腕が髪に絡まり、鬼の表情があらわになる。
私は知っている。その顔は彼女の涙なのだと。
「紺野さんが。紺野さんはそんなこと言わないわ」
獲物をいたぶる笑みを浮かべながらその声は不気味に暖かい。
『尾道の大魔神』の本領発揮である。
はっは。やっちゃえ。
「モノ言わずに思っただけで通じて欲しい心を教えてくれた。
人が生きていること。出逢う事のステキさをしらせてくれた。
見つめるだけでドキドキすること。
どんなことにも負けない心を。松竹梅の本当の意味を教えてくれた」
何を言っている。
その不気味な声に彼女は音がするほど強く木刀を握りしめる。
「流行語は通じるとは限らないよね。人の気持ちは変わるかもしれない。
『新聞は世界中で一番便利なものだ。読むことは出来ないが、他のことなら何にでも使える』だもんね。
マニュキア落としでテープ跡落としが出来るって教えてくれたよね。
重曹が口の臭いを消してくれるとか。本を一緒に片付けたり。
浅生さんと紺野さんと皆で騒ぎ合って。
風呂敷を持つかリュックを持つかで喧嘩したりさ。
妙な夢を見たりもした。
妖怪なんて信じていなかったけど。認める。認めちゃうよ。
不幸せがあっても私は逃げない。幸せが待っているんだから」
「飽きた。滅べ」
あの光がまた私たちを包もうとするも、美夏っっちは木刀を構え、それを迎え撃つ。
うそ?! レーザー斬ったぞ?!
浅生先生がそう言うけど、先生なのに知らない事ってあるんだねぇ。
「ばかたれ。浅生。この世の絶対の真理を知らんのか」
悪態をつく妖怪の声。澄ました鼻面をつまんでやりたいがこの身体じゃねぇ。
悪態もつけずに蹲る血まみれの私に彼女は歩み寄るとこういった。
「わしの身体を貸してやる。だから」うん。ありがとう。
「恋する女は。無敵なのじゃ」
不幸なんて。運命だって覆す。
だって私たちは。『新人類』だもん。
「血液型診断はでたらめだって教えてくれた。
どうでもいいお米のことまで。プランタ栽培、やるって言ってくれたじゃない?!」
乱れ飛ぶ光を避け、あるいは正面から『どっせい?!』と言って打ち砕き。
莫迦じゃない? みかっち。あんた最高にカッコ悪くて……イケてるよ。
「レモンの香りは実じゃなくてって、トイレの恨みいまだ忘れていないんだからっ?!」
その話は死ぬほど聞いた。マジで。
「香がやってきたり、光がやってきても今なら受け入れる!」誰?!
強く駈ける彼女の後から石畳が砕けていく。
完全にみかっちのほうが動きが早い。
「人間にこの速さは追いつけない」「ざけんな! 見切ってるんだよ!」お前は漫画かよ。
土煙が月夜に。
夏なのに咲き乱れる桜の景色の中に。
何処からか朝顔の朝露の香り。
「茹で卵は水の中で剥こうとか玉ねぎ炒めとか料理の話もしたよね」
朝起きたらガチムキだった夢の話も聞いたな。あれは笑った。
「悪筆を直してくれた。苺大福をまた食べたい!」
木刀が何度も何度も振り下ろされる。
当たり前だけど木刀でUFOなんて砕けないから。
そんなことは、やってみなければわからないじゃないか。
「ノートは未来を作るものだって言ったよね?! 手帳とかメモの使い方まだ聞いていないよ?!」だって好きな人の名前だって解ってなかったしな。コイツ。
雨の中でも歌って笑う心。
余裕を持つこと。知ろうとする喜びを知ること。
「みんな、教えてくれたじゃない!」
アンタなんて、アンタなんて知らない。知らないんだから。
叫ぶ彼女に私は告げた。
「いけ。みかっち」「うん!!!」
彼女の名前は夢野美夏。
後に紺野美夏と名乗ることになり、私の娘の名前の元になった。
そんな。私にとって唯一無二の。大親友だ。




