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かふぇ&るんばっ♪1980  作者: 鴉野 兄貴
美少女

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39/49

朝起きて 屁をこいて 願いは一つ~雑学自体はさほど重要ではない。知ろうと思い続ける事を続けることこそ最も尊い~

※ 長すぎたので分割して前日の分に加筆。

「なんで手をつなぐ」「なんだろう。そうしたいの」


 すっと伸ばしたその掌は所在なさげ。

何をしていると問うと「ここに着物の似合う女の子がいたような」と奴は抜かした。

「行こう」「何処へ? そっちは神社だよ?!」


 私は走る。必死で走る。

尾道の坂を蹴り、石段を跳ね上がって。

汗が飛び散る。自分でも汗だくって解る。喉が痛い。

握る手も汗で滑りそうだ。

「ちょ、ちょ。ともっち。ここには『紺野商店』は無いわ?!」

いちだんめ! にだんめ! さんだんめ!!!

「聞いているの?! 紺野さんも浅生先生もいないのよ?!」

にじゅう! にじゅういち!?

「なに、やめて!?」泣き叫ぶ奴の手を強引に引く。

「私、私、こんな顔を紺野さんに見られるくらいなら」「死んだほうがマシって言ってたよな?!」

ああ。思い出した。俺たちってあの時、あのまま。

「もう、私たち、死んじゃったのよ?!」「うっさい?!」


 三十五、三十六!!

階段を蹴り、登る俺。

五十段目を超えようとしたとき、渡と阿久津が見えた。

「行け。美夏」「ありがとう。好きになることを僕は知ることが出来た」

微笑む男二人に泣き笑いに似た笑みを返す間も無く、全力でその横を通る。

私も。私たちも。お前たちみたいな男なら惚れても良かったと思う。

「ありがとう。阿久津君」「ありがとう」


 ざらっと砂が崩れる音がした。

俺が知っている渡くんと阿久津くんは。


「いこう。ともっち」うん。振り返ったら。あの二人に悪すぎる。

「愛することを教えてくれた」「別れることに勇気を持てた」

最後の渡と阿久津の声は幻聴だったのだろうか。


『モスリンは壊滅寸前だけど。この肌触りと独自の柄はね。

きっと未来では、見直されて凄く斬新で素敵なものになっていると思う』


 聞こえる。聴こえる。

感じる。確かにいる。この着物の主が。

私が生涯をかけて戦わなければいけない相手が。

「きゅうじゅうきゅう?!」

しかし階段はそこで途切れた。


 人のいない不気味な神社は夏場なのに閑散とした感じ。

私たちは淑女ぶることもぶりっこになることもなく、千代の富士もびっくりの勢いで大股で足を開いて。

一気に神社の鳥居の前の石の通路のど真ん中。本来は神様が通る道を全力で踏みしめる。

「どすこーい!?」おい。ばかだろ。「ひゃっく?!」


 足元が光る。

優しい光。暖かい光。

あのかつて感じていた。珈琲の匂い。

舌に広がる不思議な苦みを。優しい笑みを思い出すあの味を。

私たちの脚は光り輝く『百段目』をしっかりと踏みしめる。

「九十九段目しか。なかったじゃない」「百段あるって言ったよ」

ふとあの会話を思い出す。


「お前ら。何をしておるのじゃ」


 憎々しげに舌打ちする女はすごい美人だ。

美人過ぎてひるむけど、私だって負けるわけにはいかない。

「あんたがまいなちゃんね」「如何にも」


 私は。解りました。

「浅生の嫁は早死にする運命だぞ」「覆します」

「誰も運命は変えられないのじゃ?!」「だからどうした?! この性悪妖怪?! 浅生さんをとられたくないだけだろう?!」

「ああ。否定はしない。自分の母を奪った私を奴はそれでも好きと言ってくれた!」「私のほうが好きです! アンタみたいに運命なんて覆す!」

「座敷童の呪いは絶対なのだ?!」「あ? 絶対なんて無いって……浅生さんは教えてくれた! だからあなたを好きと言った。違う?!」


 唾を飛ばし合う私たちにぼけーとしている約一名。

うん。お前ははっきりいって邪魔だから。うん。

「妖怪の私では、浅生の愛には応えられな」「何言ってるんだこの阿呆?!」

「何代も何代も浅生の男は私に?!」「じゃ、その思いにいつも応えず自己弁護してたって認めるのか?! ああ。聞いてやるよ。あんたの醜い話を?!」

だから。だから。

「浅生先生に。紺野さんに逢わせて。私、決めたの」

着物の美女は赤いモスリンの柄の似合う幼女の姿に形を変えていく。悔しいが可愛い。

「後悔するぞ」「後悔する以上に後悔するわ。いつかの私のように」

私も。絶対あきらめない。たとえ外に出ただけで隕石が落ちてくるような一族の男性ひとが相手でも私は。

「幸せになってやるわ。させてみせる」「……わかった。認めよう」

あきらめたような笑みを浮かべる幼女は泣いているかのよう。実際泣いているのだろう。

「浅生を。僅かでも良い。幸せにしてやってくれ。私は見守るしか出来ない。私は浅生の人間を不幸にするしか出来ない座敷童なのだから」「どんと任せな!」


 ぐっと親指をつきだしてみせると彼女は初めて笑みを浮かべ、ゆっくりと消えていく。

夏場なのに桜の花びらが満開。変なの。


 ぼうっと石畳に座り込んだ相方に気付き、手を伸ばしてやる。

なんか暗い。おかしいだろ。まだ昼だった……昼だったっけ。

あのとき、あの時私たちは。


「ねえ」


美夏っちの顔はここでは解らない。

多分知ってほしくないだろう。親友だって知らないほうが良い事がある。


「紺野さん。聴こえているでしょ?!」


 座り込んだまま彼女は叫んだ。力強く叫んだ。

「私、逃げていた。理想の女の子になったら好きでいてくれると思い込んでいた!」


 石畳で膝が擦り切れるのも構わず、ずれた靴下も直さずに彼女は叫ぶ。

編み込んだ髪を振り乱し、猿のように真っ赤な顔で涙を流し、陸に上がった魚のようにのたうって。

「違っていた! あなたはいつだって私を受け入れてくれたじゃない?!」


 そう。

意味がない。

意味がないんだ。


 知りたいと思っていた。

変わりたいと願っていた。

変わりたくないと呪っていた。

向き合うことを恐れていた。

沢山いろんなことを教えてもらったけど、本当に大事なことは。

「美少女になっても、年相応の素敵な男の子が好きになってくれても幸せじゃない!!」

絶叫するヤツを俺はどういう表情で見ていたのか、実のところ覚えていないんだ。ごめん。

「どんなことを知っていても、貴方が居なければ意味がないの」


 知らなかったことを魔法だかなんかで頭に詰め込まれるなんてされたくはない。

知りたいと願ったがそれは違う。知りたいのはもっと根本的なことで。


「どうして私から目をそらすの? どうして私から逃げるの?!」


 私逃げないよ。もう逃げない。

貴方が何『物』でも恐れない。

怖れていたけど。目をそらしていたけど。

受け入れるよ。妖怪がいても。

貴方がたとえ宇宙人でも。

いや、宇宙人でも何でもない。『なのましん』だとしても。



『悲しいことを怖れて良い

恐れを与えられることを憎んで良い


 憎しみを怒りに。

怒りは悲しみに立ち向かう勇気に。


 勇気とはより怖い事。

悲しいことを知ろうとする事。

それを避けたいと願い。怖がり続ける事。


 勇気を持って立ち上がれ。


それが』



 あ。みかっちのお母さんの声が聞こえたかも。

みかっちのお母さん。いつぞや異世界から来たって言ってたけどほらだよね。

ううん。信じる。なんだって信じちゃう。

だって、信じたいじゃない。未来を。

私だって信じちゃう。だって隕石が自分に降ってくるのを武器にしちゃう生命力のある男の人を好きになっちゃったんだよ? それくらい強くならないと。


『正義だ!!!』


正義は勝つんだ。そうだよね。


 私たちは怖れない。くじけない。

たまに涙したり苦しんだりはするかもしれない。

でも、もっと辛くて悲しい事がわかったから。

 勝手に理想の自分にされるのは。良い気がしない。

私たちは理想じゃない。未来を掴むために走っている。

その歩みは無様で、カッコ悪くてダサくてイモくてどうしようもないかもしれないけど。

「紺野さん! 返事をしてよ! 私はあなたを怖れない。

『宇宙人だって』『モノだった』としても恐れない!」


私たちは。走っている。未来は明るいと信じて。

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