変わりゆく美夏ちゃん。誰が変えたの?~寝ぐせ直し~
美夏。みかっちったら。
「なぁに。智子」アンタ誰だ。「あなたこそどなた?」「お前の親友だ」
まったく。澄ましたものだ。良く化けたと褒めてやるよ。
「ともっち」「あん?」「なによ。不良みたい」
そういって可愛らしく笑う彼女。曖昧に笑い返す私。
どうにもこうにもあれから何日か経ってわかったのだが夢ではないらしい。
ということは今までのアレが夢? にしては鮮明過ぎるしなぁ。
私の名前? 村神智子。16歳。花をも恥じらう乙女ってヤツ?
まぁ実家は花屋だけど。言っておくけど花屋って肉体労働だからね。絶対華やかではないと断言してやるよ。
うちの学校は中高一貫ののんびりした学校だけどそうじゃない奴もいないわけではなく、その最たる存在が私と連れだって歩いているこの女なのだ。
コイツの名前は夢野美夏。同じく16歳だが四つ輪を操って敵対グループの車を煽る。ナナハンを飛ばして自分の家に乗り上げる等々のとんでもない不良娘。だったんだよなぁ。
「すっごい爆弾パーマだね。ともっち」「否定はしないわ」
普段の私は聖子ちゃんカットなのだが、昔はコイツに合わせて爆弾パーマにしていた筈だったんだが。
「写真が悉く違う」「ん?」小学校卒業までは同じ写真だったのだけどその後が違う。
他の生徒と話してみたところもちょっと違う。
夢野美夏16歳。学級委員。成績優秀。素行極めて良好。そんなばかな。
「えっと、みかっち」「なによ」妙にイライラした表情を見せるこやつ。
前はこんな顔は絶対見せなかったけどなぁ。そりゃムカつくって顔はしたけど。
「おはよう。美夏っち。今日も大変だね」「ん。大丈夫。さやか」
追記。なんか女子の間では俺の評価が変わっているらしい。
「友達がいないから学級委員の美夏っちにからむ女」らしい。マジ受けるんですけど。
しかし女どもって根性最悪だね。自分も女だけどさ。
こういう意地の悪い台詞を普通に言い合っているんだしさ。
『どうしても寝ぐせが治らない』
何気なく放った台詞に奴は妙な反応を示した。
「ともっち。寝ぐせって言うのは治るというより、乾かす過程で起きるものなのよ」へぇ。お前そんな博学だったっけ?
何も知らないのねみたいな顔をして見せる奴だが俺からすればついこの間のお前がそうだったのだが。
「知らなかったわ。ありがとうみかっち」「どういたしまして」
華やかに微笑むヤツの鼻を思わずつまんでやりたい衝動を押さえ乍ら微笑んで見せる。
一応、言っておくが俺は完璧にぶりっ子ちゃん出来るからな。
酒に酔ってプール壊したバカみたいに容易に表に本性出したりはしないぞ。
まぁこいつはそういう性格じゃない。なかったはずなんだけど。
「『昔みたいに』爆弾パーマで出てきたのかと思った」「あれ、頭痒いんだ。俺皮膚弱いらしい。染めたのは無謀だった」
「ばかだね。智子」「成績ではお前より上だ」
そう言いかけてあれ? そうだったっけ? 首をひねる。この間欠点取った気がする。
そりゃ族時代はこいつが学業に遅れないように集会終わった後も徹夜明けで勉強したけど。
「話戻していいかな?」
思いのほか顔が近い。笑っているけどこいつは女の顔だなぁ。つまり真意は違う。
あでやかに微笑む奴は挨拶して通り過ぎる男どもに控えめな反応。
「『くそったれども、俺に近づくんじゃねぇ。彼氏いるし』」「ふふ。不良みたいなこと言うのね。智子」
図星だったかな? まぁ解りやすい奴だったし。
一瞬図星をつかれたような顔をした奴はすばやく澄ました表情に戻った。
こいつ、こんな女女した嫌な奴だったっけ?
「そんな乱暴な台詞、俊一君が聞いたら目をむくわよ」へ?
俊一? しゅんいち……。わたりしゅんいち。だったっけ?
あれ? なんかおかしいんだけど。あっそうだったっけ。あっそう。浅生……ううん?
「あっそう。先生」「あはは」
何がおかしいんだっていうけど、女ってすぐ笑うよなぁ。
「なんか寝ぐせの話してたっけ?」話を変えておこう。
「あっそうそう。寝ぐせはね。髪の毛をしっかり乾かさなかったら起きるのよ」
ああ。確かにいつも濡れタオルを絞って拭いているけど。
「ドライヤーって良いらしいよ」そういって可愛らしく笑うヤツ。
それ、高いというかなんというか、お父さんのアレを使うのはなあ。
「使っているヤツいるのかな」「川本君は使っているらしいわ」へぇ。
まぁ、不良時代は使っていたけど。『今の家には』なぜかないんだよなぁ。
あれ? 前からなかった気もする。
「そっか。こんどからしっかり乾かしてみる」「女の子って短くできないものねぇ」それ、俺も思った。
でも、男でも長髪の奴けっこういるからなぁ。先生に叱られるけど。
テレビで流行った長髪は尾道でもちらほら。
「どうしてそうなるかというと、髪の毛の中の水素結合が乾いた状態で固着されるかららしいわ。
つまり、寝ぐせは乾かしていない髪が寝相でくちゃくちゃになっちゃったり、枕で潰れて起きるらしいの。あるいは寝汗ね」なるほどねぇ。
「寝汗ってすごいのよ。冬でもおきるんだから」そうなの?
奴はさっそうと脚を動かし、俺の前でにこり。女の私から見ても魅力的。
「そうよ。だって寝ていると身体が動かないから、体温を下げるために自律神経が汗を出させるんだそうよ」へえ。俺は寝相悪いしなぁ。
「寝相を直す方法ってあるか」「そうね。後で教えてあげる」それより。
奴はいう。寝ぐせを何とかしないと不良みたいだと。
「簡単に言うと濡らすと治せるんだけど」「治せなかった。ごめん」謝らなくてもと笑うヤツ。
「あのね。はねているところを濡らすんじゃなくて髪の毛の根元を濡らすの」
へえ。「智子、カーラーでぐるぐる巻きにするじゃない」「俺。『やったことないぞ』」「そうだったっけ」明らかに戸惑った顔を見せるヤツ。
要するに、一回風呂の湯で暖かくした絞りタオルなんかがイイ感じで寝ぐせを治せるらしいんだけど。
「電子レンジで蒸しタオルを作る方法もあるのよ」「へぇ」
食い物を作るモノでそんな汚い事は出来ないよ。あはは。なんか紺野さんみたいな……。
「あれか。カーラー使うときの鷹揚だな」「応用でしょ」うん。
こんの……。あそう……。
あくつゆう……。わたりしゅんいち……。
「あの?! ちょっとまった!?!」
脚を止める。背筋を走る悪寒に震え、乾いた舌に息を飲み込む。
耳に力が入る。震える足から力が抜けていく。
「誰だったっけ? 渡とか阿久津とか」
「渡君に告白されたって言ってなかったっけ。智子」阿久津君は優君だよ?
そう続ける奴の顔。おれの悪夢は覚めていないみたいだ。
私の名前は村神智子。
何処にでもいる16歳女子高生。
今日の親友。ちょっとおかしいと思う。
「おかしいのは智子のほうじゃない。何を言っているの」
そういって可愛らしく膨れて見せる彼女の顔は、確かに彼女が夢見た『非の打ち所の無い美少女』だった。




