美少女になれたなら~となりのトロロ昆布~
美夏。みかっちったら。
「なぁに。智子」アンタ誰だ。「あなたこそどなた?」「お前の親友だ」
まったく。澄ましたものだ。良く化けたと褒めてやるよ。
腰まである髪は何もつけていないのに女の私をして良い香り。
それを校則にしたがって綺麗に編み込み、ところどころ校則に五月蠅い先公にやられない程度に黒いヘアピン。
靴で踏むくらい長かったスカートは今ではひざ下15センチ。これまた校則通り。
というか、アンタ無駄に手足長くて胸も尻も大きいんだから制服代高くついたんじゃないの?
「智子、スカート長いよ」「ああ。洗濯だしちまったから昔のスカートを」
ん? このスカート。いつ買ったっけ? 確か二人で改造制服を扱うオッサンのところに。
いつも蹴躓いているそのスカートは。
あれ? こんなに短いものだったっけ? これじゃ標準じゃない。
「早くいかないと学校に遅れるよ」「あら。急ごう」へいへい。相変わらず勝手なんだから。
私の名前? 村神智子。16歳。花をも恥じらう乙女ってヤツ?
まぁ実家は花屋だけど。言っておくけど花屋って肉体労働だからね。絶対華やかではないと断言してやるよ。
うちの学校は中高一貫ののんびりした学校だけどそうじゃない奴もいないわけではなく、その最たる存在が私と連れだって歩いているこの女なのだ。
コイツの名前は夢野美夏。同じく16歳だが四つ輪を操って敵対グループの車を煽る。ナナハンを飛ばして自分の家に乗り上げる等々のとんでもない不良娘。だったんだよなぁ。
「どうしたの? 私の顔に何かついている?」「ううん。今日も可愛いよ。みかっち」「やだなぁ。智子。なに変な事言っているの」
なんか。コイツのカマトトに付き合うのも疲れるんだけど。まぁ学校は最近楽しいし。
その原因が私の担任の浅生猛先生。
ちょっとオジサンだけどムキムキで賢くて優しくて強い良い男なんだこれが。
なんかよく分からない不幸を呼ぶ妖怪だかなんかが憑いているらしいんだけどそんなの関係ないよね。
歳の差は実に20歳だけど私16歳だから結婚できるし。うん。
「なにをニヤニヤしているのよ。智子」
しっかし野郎どもがマブいと言うだけの事はあるよな。こいつ。
黙っていたら愛くるしい目と整った鼻の美人だ。関係ないけど胸もデカい。本当にデカい。
そのデカい胸を使って男を落とそうとしないあたりは好感が持てるけどな。
かっちり着こなした制服に黒く輝く足元のローファー。綺麗にのりでくっつけた白い靴下。その物腰はあくまで優雅。
「なぁ。みかっち」「ん?」そういって振り返る奴はちょっと変だ。なんか違和感がある。
「あ。さやか。おはよう!」「おはよう美夏! 今日はよく眠れた?」「うん」
「美夏ちゃん。今日も元気だね。これお母さんに!「わぁ?! トロロ昆布! ありがとう!」
さやかはアレだ。毎回名前覚えてもらってなかったけど。美夏も成長するもんだな。あたしゃ嬉しいよ。
昔はだーれもあいつに近づこうとしなかったしなぁ。それでキレて暴れるし、暴れるたびに誰もいなくなって、悪い友達が増えてその友達が拉致られるたびに大暴れして。
ぶるっと身体が震える。
血にまみれた木刀。泣き出しそうなあいつの顔。
『なんて顔してるのよ。智子』『ひっ?!』
思わず頭をふる。私はみかっちの友達だ。私だけはみかっちの友達なんだ。
「夢野! おはよう」「夢野さん」「夢野君」「夢野ちゃん。部活の件考えてくれた?!」「うん。私でよければ喜んで」
私はみかっちの友達だ。私だけはみかっちの友達なんだ。って。あれ?
少し、あの時の奴の顔に似た顔を私はしていたのかもしれない。
沢山の性別、年齢を問わずに声をかけられ、優しい笑顔が行きかう会話に取り残される嫌な感じ。
あれ。おまえ。バイトどうするんだよ。
「ねぇ。みかっち」「どうしたの?」「アルバイトは?」
私はその時の美夏の顔を忘れることが出来ない。
「なにいっているの。智子。アルバイトはうちの学校は禁止でしょ」
そう。だけど。だけど。お前さ。
「それより、トロロ昆布もらっちゃった! 知ってる? 智子。
トロロ昆布ってダマになりやすいでしょ。でもフライパンでほぐすと粉になるから使いやすいの」ああ。紺野さんがそういってたな。
ねばねばの原因の「あるぎん酸」ってのが水分をすって塊になってしまうからだって。
「ある銀傘?」「ばか。まいなちゃんが言ってたんだろ。人の臓器だって作れるんだって」「あはは。臓器がつくれたら凄いよ」まぁ私も信じていないが。だってまいなちゃんっていうヤツ、いまだ見たことないし。殺気は感じるけど。
「肉にかけてしばらく置いてから焼いたり、魚を締めてもうまかったな」「そんなことしたことあったの?」なにいってるんだ。浅生先生と皆でたべただろうが。
「トロロ昆布ってのはカビを取り除くために削いだのが旨かったのが始まりらしいな。浅生先生が言ってた」
「ねぇ。さっきからずっと変な事いってるけど」
奴は立ち止まり、私に言う。「浅生先生ってだれ?」と。
……バカが遂にそこまで来たか。
きょとんとするヤツ。
いつの間にか私たちは教室に入っていた。
途中、大量のラブレターが奴の靴箱から飛び出す漫画のような光景を見たが気のせいだ。
「私たちの担任って英語の田中先生だよ?」……。
あのな。あのオールドミスは担任じゃねえ。副担任だ。
そういうバカなやり取りをしていると、カツカツと踏み込んできた田中。
田中弥生教諭は浅生先生のように出欠を取り出した。
あれ? 浅生のヤツ休みかよ。つまんねぇ。サボってればよかった。
あれ?
何故か奴は俺に手紙を出してくる。「前の子に渡せ」って意味だが。
こいつ、そんなことするやつだったっけ。
というか、こいつが他の奴と社交辞令以上に仲良くしていたことなんて。
放課後。
私はとんでもないことを奴から聞くことになる。
「優君と映画に行くから、智子、先に帰ってて」は?
私の喉が渇くのがわかる。気持ち手足が震えているのだが。
「お、お前、紺野さんと何かあったのか? そりゃいつもつれないけど別にあの人はさ。お前の事が嫌いなわけじゃないぞ。ちょっとアレだけど」「紺野さん? どなた?」
私の名前は村神智子。
何処にでもいる16歳女子高生。
今日の親友。ちょっとおかしいと思う。
「おかしいのは智子のほうじゃない。何を言っているの」
そういって可愛らしく膨れて見せる彼女の顔は、確かに彼女が夢見た『非の打ち所の無い美少女』だった。




