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かふぇ&るんばっ♪1980  作者: 鴉野 兄貴
愛と勇気を教えてくれるヒト

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どんなときもコケない事を ~ローラースケートに関するまめちしき~

 一つ重要なことを言わねばなりません。

尾道の坂は有名です。ええ。他県に知られる程度には。

貴女誰ってあなたこそ誰よ。まぁそれは良いでしょう。


 先ほど述べたその坂を100段も登る私は見知らぬ人々から愚か者と言われても反論の余地がないと思います。はい。

「みかっち。流石にローラースケート履いて登るのは無謀だよ」片手にローラースケートを吊り下げて笑いながら階段の上でお休みしている美少女が元々爆弾パーマの不良だったなんて誰が解るでしょうか。友人の智子です。

「せっかく買ったのだから紺野さんに見せてあげよう」そう思いついた私は母が止めるのも聞かずに外に。

結果、強烈に両手両足に擦り傷を作って頭を打つ羽目になったのですが。


「紺野さんにカッコいい処を見て欲しい」「みかっち。どうみてもダサい。そしてイモい」うう。五月蠅い。

だってスケートを着脱するのって面倒じゃないですか。革靴ならなおさらです。

「あばれはっちゃくの真似を尾道でするのは無謀だよ」「ううう」

 あばれはっちゃくって言うのは。

って当然御存知でしょうね。今大人気のドラマなんですよ。

すっごく強くて乱暴者だけど優しい男の子が知恵を絞って大活躍するんです。

でも女の子に弱いのがとってもかわいいんです。

「みかっち、ああいうの好きそうだよね」「何が?」


 スケートで滑って落ちたら絶対死にます。

恥も外聞もなく階段にしがみつく私にニヤニヤと笑いながら階段の上で水筒を開く友人。

地味に水筒って使いにくいのですよね。水が簡単にこぼれますし、この時期だと凍らせておかないといけませんし重いですし。

「ほら、乱暴者だけどある意味ね」「うっさい」「バカなところも似ているけど妙に機転利いたりするし」何故でしょうか。ほめられている気がしませんが。

「呼ばれたら素直にお返事して喧嘩もしないイジワルもしない」「当然です」

細心の注意を払いながら階段を登る私に告げる親友の一言。「無理すんな」

別に。ミリなんてしていませんが。

少しどきりとして、思わず彼女を殴りつけたくなったのは動揺したからでしょう。


「無理って言ってるんだ。脱ぐときは脱げ。ずぱっと」「卑猥な意味に取られるでしょうがっ?!」そっちなのね。ちょっとだけ気が抜けました。


 あ。

私と智子は同時に悲鳴。

ずるっと滑ったスケート。

妙にゆっくりと迫る石段。

頭に伝わる衝撃と嫌な音と焦げるようなにおいと味。

そのまま激しい音と共に転落していく私の身体。

「みかっち~~~~~~!??」こんな死に方なんて。

最後に紺野さんの腕の中で死にたかった。


 ふわふわとした珈琲の香り。

甘いチョコレートの味わい。鼻を満たす湯気。

心配そうな親友の顔が大写し。変な夢。

「物臭にもほどがあるからね。紺野商店に向かう道はローラースケートで時間短縮なんて出来ないから」帰り道ならできますよ。紺野さん。

「ブレーキできずに壁に一直線でしょう」ごめんなさい。

私は紺野さんに抱き上げられて『紺野商店』に向かう階段を登っていますがこれは死出に向かう私に対しての神様の歯から胃でしょうか。

「計らい。じゃないの?」そうとも言いますね。神様仏様紺野さん。

「しっかりしてよ。みかっち。アレで傷一つないなんてどれだけ凄いのよ」

親友よ。お前もついてきたのか。まさか本当に地獄までついてくるとは。

「アホたれ。私は天国行きだ。地獄に行くのはチキンランで相手の四つ輪に何度も体当たりをかまして崖にもろとも落ちたアンタのほうだ」そんなこともあったっけ。

と、いうか。私頭撃って死んだよね。今間違いなく。

「まったく。ワシらがそばにいなんだらそのまま死んどるところじゃったぞ」悪態をつく幼女に思わずあれ?

「こういう危ないものを履くときは安全な処でやるんだよ。夢野君」変態のろりこんが先生面してるし。

「あれ? 浅生先生今日はなんで天国まで」「天国ってあれか。餃子でも焼いているのかい」意味不明ですから。


「しっかりして。美夏」


 意外と大きくて柔らかい背中ですよね。紺野さんの背中って。

手足の力が抜けて眠いです。甘い夢を見ながら私は逝くのですね。

「ばかたれ」「あほう」智子とまいなちゃんの台詞が同時に響きました。

「生きとるわ。このボケ」「アンタはろくな死に方しないから」自称妖怪と親友の言葉に意識がだんだん明確なものとなっていきます。


 現在状況。

ゆっさゆっさと揺れる私の身体。

それをおぶって階段を登る紺野さん。

彼の首に手をまわして、胸を押し付けるような姿勢の我が身。

心配そうに横から私を見つめる親友と足元から悪態を放つ幼女。

ニコニコと様子見の変態担任教師。

え~っと。えっと。えええぇぇぇっ??????!

「お、おろして?! おろして紺野さん?! いや?! だめだめだめ?! おろしちゃだめ?!」

顔が熱くなるのを感じる暇もなくここが階段の上だということも忘れて暴れる私と意外と優しい腕で甘く拘束する彼。

「人間が死に急ぐのはいったいなぜなのか全く分からない」「紺野よ。彼らは死に急ぐわけではない。生きるのに精いっぱいなのだ」

私を負ぶう彼の表情は見えませんがまいなちゃんの顔は解ります。

その顔がまた馬鹿者を見る顔に歪んで。「心配かけるな」「ごめんなさい」不思議と謝罪の言葉がでました。


「ローラースケートで時間短縮という発想は意外と歴史が古いんだよ」


 珈琲を飲みながら私たちに語る紺野さんと興味深げな浅生先生。

どうでもいいとばかりにお茶を淹れるまいなちゃんとそれを無言で受け取る智子。

「ありがとう。まいなちゃん」「ふん。不味く淹れてやったのだがな。おぬしの舌は甘いの」

あれ? 二人って仲悪かったよね?

見当違いの方向を向いてまいなちゃんに話しかける智子といまいちかみ合っていない会話をするまいなちゃんに違和感。

「別に仲が悪い訳ではないが、奴にはワシが認識できぬ」またまた御冗談を。

「このお店にいる妖怪さんで、浅生さんの守護神と聞けば邪険に出来ないし」智子。お前まで頭を打ったのか。

楽しそうな親友に本気で心配する私ですが、『心配なのはお前の頭だ』と二人がかりでやり込められてげんなり。なにさ。こういうときだけ結託して。

「日本では岡山の製糸工場の女工さんが時間短縮で履かされたりしたみたい」ふうん。

「それよりローラーゲームのほうが僕の若い頃はおもしろかったなぁ」浅生さん。やっぱりオジサン。

なんでもレースっぽいプロレスみたいな競技らしいのですが面白かったそうです。

「東京12チャンネルでやっていたのをたまたま見てね」「大迷惑じゃ。広島で見たいとかわがままを言いおって。雷神や風神まで出ることになったわい」

良く分からないけど面白そうですね。風神とか雷神とかは広島の不良でしょうか。知り合いにいませんけど。

「『テレビくん』がいたから助かった」「うむ。妖怪も新手の存在が次々と現れるからな」???

「あ。あれ面白いですよね。水木しげるですよね」「知ってるのか! うれしいね!」智子。お前は知っているふりが巧いな。私にはまねできない。

というか、怒涛の勢いで水木しげるを語る浅生さんをどなたか止めてください。

あ。まいなちゃんも呆れている。智子泣きそう。頑張れ。

「軍隊で採用されたこともあるよ」「ええ?!」

「射撃するたびに転びまくって実戦には出れなかったそうだけど」「……」


 でも、外国では警察官の移動手段や大きなホールの店員さんの為に用意してたりするんだと続ける紺野さんの隣では。

何故か掛け軸に向かってガンを飛ばす我が親友に殺す勢いでにらみつけるまいなちゃんの姿が。

なにをやっているのだ。智子よ。相手はこっちだ。

「おのれたかが人間め」「ガンつけられてるのは解るんだ! 出てこい卑怯者!」「すでに出ておるわっ!」

見当違いの方向を向いて罵り合う二人。

うん。二人とも暑いからふざけあっているのね。解る解る。本当は仲がいいのね。


 私は再びジャスミン茶というらしい甘い香りの割に。

「にがっ?!」酷い味のお茶を啜ると再び紺野さんのお話に。


 18世紀初頭のオランダで作られているみたい。

1743年のロンドンで演劇に使われたとも言われているそうです。

普及したのは1863年のアメリカ。専用のリンクが設置。

そして私たちが遊んでいるのは1979年。つまり去年アメリカでローラーブレード社っていう会社が作った品なんだそうです。外国のおもちゃで新しいモノだと思っていました。

「紺野さんものしり!」ぱちぱちと手を叩き、恐縮する彼の隣ではバチバチと視線を交し合う我が友と幼女の姿が。

おお。ガンつけは負けていない。流石我が友。

ガンつけだけは強いと言われただけの事はある。

でも、それは市松人形だから。智子。

まいなちゃんはお前の足元だ。

それとも無視を装う戦略なのでしょうか。そうなのでしょうか。

「大正時代も一時期流行ったのじゃよ。先代の浅生も戦地に赴く前に遊んでいったが全国にあったのじゃ」へぇ。

でも、尾道では遊べるところが限られちゃいますよね。残念です。

「坂ばかりだからね」「平たい処もいっぱいありますけど、『紺野商店』に通う道には」

あれ。あれ。あっれ?!!


「紺野さん。『紺野商店』ってどうやって行くのでしたっけ」「毎日来ているじゃないか」にこりと不思議な笑みを浮かべる彼と。

「遂にボケたか貴様」「ワシらしか解らん」とそれぞれ告げる恋敵たち。

そして乙女と幼女が恋のさや当てを演じる浅生さんはわれ関せずを貫いて年甲斐もなくスケートで遊んでいました。


 私の名前は夢野美夏。

キャピキャピの16歳女子高生。

私の好きな人は。

「あなたはなんでも知っているのね」「そうでもないさ。知らないことだってある」

とっても変なヒトなのです。だから私は彼をまともにするために頑張っているのです。

「毎日来ているお手伝い先の住所を知らないとかどんだけ」「し、知っていましたよ?! 先日はがきをちゃんと出しましたし……あれぇ?」

どうも、暑さで最近私まで彼の変なところがうつってきてしまったっぽいですけど。ええ。

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