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かふぇ&るんばっ♪1980  作者: 鴉野 兄貴
愛と勇気を教えてくれるヒト

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33/49

傘ささず歌えば強く~雨の中で歌う自由を~

『雨に歌おう 傘もささずに

貴方の微笑み 空に浮かんでいる

雨に笑おう 水を蹴飛ばして

涙を暖かい風で洗い流して


 雨の日に 笑おう

貴方と踊ろう 明るい未来を信じて


 雨に踊ろう 傘なんていらない

冷たく暖かな 空の恵みを受けて

雨と踊ろう 不安なんてない

もう笑って胸を焦がすのさ


 雨と共に あなたと共に

土砂降りの道を蹴飛ばして


 雨の日に笑おう 踊ろう 

手をつないで空を見上げれば

明るい青空 花を這うカタツムリ

さわやかな風が 二人を包む』


 こんにちは。知らないヒト。

アンタだれってアンタこそ誰よ。

私はあんたの事なんて知らないから。

今日は最悪です。学校を出たら突如大雨。

『紺野商店』についた瞬間カンカン照り。

これは私と紺野さんの恋路を天まで邪魔するつもりとみなしてよいのでしょうか。

良かろう。ならば天を倒すまでだ! シュッシュと傘を思わず降りそうになって赤面。

ばかじゃないんだから。私。

お蔭で幾分か暖かくなった頬を押さえ、重くなった傘を強く降り、お店に向かいます。

ううう。せっかく紺野さんに直してもらった靴とカバンがびしょ濡れ。


 処で、先ほどの綺麗な歌はどなたが歌っていたのでしょうね。

心なしかまいなちゃんに似ている声でしたが。

そう思いながら紺野商店の中に入り、誰もいないことを確認して制服の水気を拭き、靴に新聞紙を突っ込んで扇風機の前に。

これで少し乾いてくれるといいなぁ。

夏服を着ていなくて良かった。とても酷いことになるところでした。

流石にあれは下に何枚もシャツを着ていても透けますから。

確か奥に私も着れる服があったはず。着替えないと。


 京都の町屋のように内部にある庭。

この小さな庭も先ほどのにわか雨というには生易しい豪雨の所為ですっかり雨の甘い香りに包まれています。

焦げたアスファルトが雨にあたってふわりと広がるあの香りです。

最近アスファルトの道路が増えてきました。お蔭で今日はあまり靴が汚れずに済みました。

もっとも紺野商店に向かう道は石段が多いのであまり汚れずに済みますが。


 濡れた葉と笹、豪雨で少し壊れた鹿威しの先に動く影。

すらりとした体つきに赤い着物。ぽっくりを履いて少し胸のところをはだけて綺麗な鎖骨を見せているお姉さんは。

「あ」「なんじゃ。美夏か」まいなちゃんのお姉さんですよね。奇遇です。

頭をぺこりと下げる私に彼女は一言。「紺野は不在じゃぞ。浅生もな」つまんない。

というか、この女実は紺野さんの恋人とか。私が居乍ら浮気?!

「心配いらん。あいつはそういう男ではない。そもそもおぬしに指一本触っとらんではないか」「どうしてお姉さんがそのようなことを御存知なのでしょうか」

びしょ濡れでしかもコケがたっぷりのった岩にちょこんと座る彼女ですがお召し物が濡れてしまいますよ。

「別に構わん。不自由かもしれんがそれを選ぶのも自由のうちだろう。人間よ」「はぁ」


 自由。ですか。

現役の時代は自由だと思っていましたが。


 おびえた大人の目や同級生の怒りや子供の憎しみの目。

暴れて暴れてふと血だらけの手を見てなぜか寂しくなる気持ち。

がたがた震えながら虚勢を張ってついてくる智子に呆れて。少し嬉しくて。

「自由。って好き勝手しててもなぜか何も出来なくなりますよね」「概ねその通りだな」

今なら少し、解るのです。

ぼたぼたと雨の残滓が残る小さな庭で彼女は歌いだします。

あ。さっきの歌はこのお姉さんの歌だったのですね。


「こういう気持ちの良い空に降るにわか雨は意外と快適だったりするの」「否定はしませんが」


 上等なお召し物が酷いことになっていますよ。

そう告げて番傘を持ってきた私ににこりと微笑む彼女は不思議な話をしてくれました。

人を不幸にすることを喜びとする妖怪の話を。

類稀なる剛運の持ち主の一族があえてその妖怪を一族の守護神とし、

人々に累が及ばないようにした話を。

その一族を不幸にしながらも見守り続けたお話を。

愛する人のお母さんを殺してしまったその妖怪の苦悩を。

「一番怖いのは憎まれることではない。愛されることなのだと私は思う」そうなのですか。

その人は妖怪を許して、いまだ一緒にいてくれるそうです。

「その好意を喜んでしまう己が浅ましくて惨めでな」「まるでお姉さんがその妖怪さんみたいじゃないですか」


 そう言うと彼女は「まったくだな」と一言告げて微笑みます。

ぴょんと大きな石から飛び降り、例の歌をまた歌う彼女と私を優しい雨のメロディが包んでいきます。

確かに。不自由を楽しめるって『自由』ですよね。

お母さんはこういっていました。『正義が重荷になったら、それを捨てることが出来るのが自由』だと。その自由を捨てないのもまた。

自由って責任と責任がぶつかり合った狭間の不自由の中にあるのでしょうか。

私たちは雨の中、蛙たちと共にずっと歌っていました。


 私の名前は夢野美夏。

ピチピチからずぶ濡れの16歳女子高生。

私の好きな人は。

「あなたって何でもご存じなのね」「そうでもないさ。知らないことだってある」

とても変なヒトなのです。だから私は彼をまともにするために頑張っているのです。


 ちょっと風邪をひいて、紺野さんにストーブを出してもらったけど。

暖かな珈琲を胸に抱いて、毛布をかぶって彼の説教を聞くのも。

きっと私の自由なのだと。そう思うのです。

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