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かふぇ&るんばっ♪1980  作者: 鴉野 兄貴
愛と勇気を教えてくれるヒト

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31/49

もしかしたらもしかしたら勇気なのかしら ~勇気は恐怖を忘れる事ではない~

 私はお母さんに畳の部屋に星座。正座させられています。

何故だって? 知らないアンタに言う理由はないわよ。あなたどなた?

「恩人の木刀を勝手に捨てて」「もう暴走族じゃないし、要らないと思ったのですごめんなさい総長。指切りは勘弁してください」

「伝統的な日本のヤクザはめったに指なんて切らないわよ。最近の話ね」

ニコニコと穏やかな笑みを浮かべるこのババア。もとい上品な雰囲気の女の人は旧姓菅原亜紀。すなわち私の実の母だ。

彼女は年齢の割にはすらりとした身体を正座の状態から身を起こして華やかに微笑んで見せる。

「まぁ、知らなかったわけだし、あなたが過去を捨てたいって気持ちはよく分かったから許します」

紺野さんは素敵なヒトですしね。そういって微笑む彼女に恐縮する私。

だらだらとたれていた冷や汗が引き、どくどくなっていた心臓も収まっていきます。

乾いた唇に水分を巡らせるために勝手に舌が動きますが干からびた舌はむなしく私の口元をなでるのみに終わりました。


 そう。このババア。

もといお母さんは見た目に反して伝説の総長だったのです。

当時は暴走族という名前ではなく、愚連隊やヤクザ、進駐軍の中でもたちの悪い連中から女の子を守るために暴れまわった女が。

「あらあら。お花を活け替えないと」この、カマトトなのです。ええ。

とはいえ、思い出の品を使い出が無いからと2.5キロもあるのに部屋干しに使う時点で少々、いや可也ボケが激しいのですが。

今では娘ですら走っている処すら見たことが無い上品なババア。もといお母さんです。何故に昔は早朝。もとい総長だったのでしょう。

あれ? 進駐軍と喧嘩したのなら時代が合わないような。

でもうちの母は一度も嘘をついたことありませんし。どうなっているのでしょう。


「この木刀は伝説の木刀なのよ~」

出鱈目を言うのはハッタリの一種ですし、かつての私にも心当たりありますが暴走族はくだらないことを伝説伝説と言うのでどうかと思いますが。

『炎竜の血を吸った木刀なのよ』とか『勇気を力にする伝説の木刀』はないです。絶対。どんな漫画ですか。

「美夏」「はいっ?!」不意に話しかけられて飛び上がる私にケタケタと笑うお母さん。

「そんなビビらないで」「び、び、ビビッてないですから?! おかあさま?!」

ババアといってぶん殴ったり蹴飛ばしたり通帳持ち出したりした過去の悪事が脳裏をよぎります。ああ。私もここまでですね。

『おぬし、本当にワルよの』どこかでまいなちゃんの声が聞こえましたが幻聴です。


「美夏。この木刀を手に取るときはこの言葉を覚えておきなさい」「もう持ちませんし」


 お母さん。もう私は暴走族じゃないのですよ? 可愛い女の子になるのです。

「お母さんが大事なヒトから教わった言葉。勇気を力に変えるおまじない」「はあ」

すっと息を吸い、甘く語り掛けるようにふわりと私の横に座った彼女はそっと耳元にささやきました。


『悲しいことを恐れていい。

恐れを与えられることを憎んでいい。

嫉妬し、悪意に胸を焦がしても構わない。


 憎しみを怒りに。

嫉妬を自らを高める羨望に。

怒りは悲しみに立ち向かう勇気に。


 勇気とはより怖い事。

悲しいことを知ること。

最も恐れるべきことを知ること。

それを避けたいと願い。恐れ続ける事。


 勇気を持って立ち上がれ。

憎しみと怒りを恐怖と悲しみにぶつけよ。それが正義なのだから』


「いま、なんて言ったのです。お母さん。長すぎて覚えられません」「ふふ」


 そういって微笑む彼女に狐に包まれたような顔の私。

彼女は何事もなかったようにかの木刀『朱闘羅怒』を部屋干しに使いだしています。

「美夏もそのうち解るわ。本当の勇気も、人を好きになることの意味も」「??」

人を好きになることなら、もう知っています。要りませんしおせっかいですし。

でも、怖いということが勇気ってどういうことですか。

「わたしはあなたを産むときは流石に死ぬと思ったわねぇ」「そうなのですか」

「アレはホントにキツイのよ」想像を絶しますがそうなのでしょう。


「私はあなたを失うのが一番怖い」「……」


 そういって部屋干しを続ける彼女の小さな背中がぼやけて見えます。

「誰より泣き虫な人は誰より勇気があるの。覚えておきなさい。

そう言うヒトは臆病なわけではないの。ただ、勇気の出し方をいまだ知らないだけ。

一番怖くて、大切なものから目をそらす。それを私はこう呼ぶ。

『臆病者』とね」「はい。覚えておきます」

「この木刀は勇気のある人に代々伝えてきた。私の友達の木刀だったから」

その方はとても勇気のある方だったのですね。「そうかしら? とってもあぶなかっしい困った子だったけどね。智子ちゃんに似ているかも」「アレ、めっちゃ弱いんですけど。口だけだし」

解っていないわねぇと微笑む彼女はお茶菓子を作り出します。


 最も怖いことを知る。

それを避けたいと思うことが勇気。

最も大事な怖い事から目をそらす者は臆病者。

よくわからないけど、よくわかったことがあります。

「お母さん。今まで心配かけてごめんなさい」「あら。少し怖いことを知ったかしら」

あでやかに微笑む元総長はやっぱり『怖かった』です。


 私の名前は夢野美夏。

イケイケの元暴走族総長。16歳。でした。

今では可愛い女子高生を目指しています。

何か忘れているなと思ったら今回は浅生さんもまいなちゃんも出ていません。

そういう日だってありますよね! ではまたねっ♪

恐れてはいけない 恐怖は心を殺すもの

恐怖は全面的な忘却をもたらす小さな死

ぼくは自分の恐怖を直視しよう

それがぼくの上にも中にも通過してゆくことを許してやろう

そして通りすぎていってしまったあと ぼくは内なる目をまわして

そいつの通った跡を見るんだ 恐怖が去ってしまえば そこにはなにもない

ぼくだけが残っていることになるんだ

フランク・ハーバート作 矢野 轍 翻訳

『デューン 砂の惑星』より魔女集団ベネ・ゲセリットたちに伝わる恐怖に身がすくんでしまいそうになったとき念じる祈り。

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