みんな持ってるカバンの中に~ノートは未来を作るもの~
ノートなんて智子のノートをうつしておけばいいのです。
そうだよね。智子。「あん?!」にらまれました。
あなたは誰だって? アンタこそ誰よ。
私はあなたの事なんて知らないわ。
私は智子の整然とした文字で書かれたノートにため息。
すっごく字がキレイなのです。カッコいいです。
「その割には成績落ちているけどね」満点だったじゃないですか。
「綺麗なノートを浅生先生に見てもらうのを目標にしちゃったからなぁ」あはは。
女の子には多いそうですが綺麗にノートを書くことが目的になって成績が落ちる子は多いそうで。
私ですか? 自分でも何を書いているのか解りません。文字が汚いし詰め詰めだし後で書いた追記は数ページ後など珍しくもなく、意味不明の赤鉛筆の跡とかラクガキの絵とか。
プリントなんてノリでべったべた。さらにプリントを張ったまま次の黒板の板書きをうつす所為でどろどろのびちゃびちゃのくしゃくしゃなんですよね。
「取り敢えず高校生にもなって歴史の偉人の顔が解らないとかダサすぎ」だってラクガキ楽しいじゃないですか。
そんな私たちはあまりにもひどい教科書の現状に業を煮やしたお母さんに大いにお叱りを受け、新しい教科書を大型書店に買いに行く羽目になりました。
「アンタだけだ」「うっさい」悪態をつき合いながらアイスを唇に運ぶ私たち。
冷たい感触が唇を心地よい麻痺に導き、舌に広がる甘さと清涼な香り、胃から広がる冷たさが心地よいです。
「紺野商店に寄るの? 私あそこ苦手なんだけど。なんかいるし」「紺野さんならいますけど。いつも」「ちがう。あそこお化けの匂いがするんだ」あはは。お化けに匂いなんてないし。
そんな私たちに口紅? リップスティックを出してきた紺野さんですが。
「知らないの? 1971年の時点でトンボから出ているよ。元はプリットという外国のノリだけど」
これがノリ? まさかぁ?! その白い『ノリ』は真っ白でどう見てもリップです。
私たちの知っているノリはビンに入っていたりプラスチックのチューブに入っています。
手がべたついて悲惨なことになるんですよね。
「これはそんなことはないし、使いやすいよ。今なら売るけど」「何時から『紺野商店』は文房具屋さんになったのですか?!」
とはいえ、結局お小遣いをはたいて私も智子も買いましたけど。
ものすっごく! 使いやすいのです。後で浅生先生に分けたら大喜びで書類の修正にも使っていらっしゃいましたことを追記しておきます。
「さて、以前約束していたことだけど」ノートの取り方を教えてくれるという事でした。楽しみなのです。
というか。帰れ智子! 帰るのだ?! お前は空気を読め?!
これから私と紺野さんのめくるめく愛の時間が。「始まりません」ちぇ。
まず、紺野さんが出してきたのは100円で買える落書き帳。
紺野さんも落書きが好きなのですねと思ったら違うそうです。
「原爆ドームに卑猥なラクガキしたこともあったっけ」していません。智子。多分。
そしておっきなA4ノート。
「レポート用紙よりこれが安いからね」
らくがき帳はラクガキをするためのものでもなく、
浅生先生の言っていることと黒板の板書きをキッチリメモするのに使うそうです。
それもかいたらすぐに次のページをめくって裏は使わないのがコツだそうです。
というより、板書きを書いた後に改めてノートを作るのですか?!! 時間がいくつあっても足りませんけど?!
「バイト中に宿題しているよね。君たち」ニコニコ笑いながら紺野さん。
すみません。だってお客さんなんて浅生さんしかこないし。
「みかっち。今度板書きを効率よくノートに書き換える方法を教えてやるよ」お願いします。優等生。
落書き帳は安いし、使いやすいのは理解できます。下敷きもちょうどいい大きさのものがありますし。でも。
「両面使わないのですか」「ノートに貼れるでしょ」なるほど。
「一応言っておくけど全部ノートに貼る必要はないんだよ。見苦しいし」
必要項目をハサミで切って貼る使い方だそうです。
そしてA4ノートは何故かといえばプリントを貼ったり追記したりするため大きいほうが便利なのだそうです。
「外国だとルーズリーフといってページごとに穴をあけてバインダーで閉じる形式があるんだよ。専用の穴開け機もある」
普通の閉じ帖なら持っていますが結構破れやすいのですよね。綴りひももほどけやすいし。
「そうなのですか。欲しいです」「使いこなせないし、どうせ重要な項目を君たちは捨ててしまうからダメ。
閉じるのが面倒になって適当に教科ごちゃごちゃにしたり、適当に突っ込んだり無くしたりするでしょ」
平然ときついことをいう紺野さんに。「ひど?!」「うぅ。否定できない」でも本当にあり得るからこわいですね。
法律が日進月歩する関係で法律家が自分の著書を編集しやすいように考えたのが始まりだそうです。
でも。紺野さんがくれたノートですがA4って凄く大きい?!
「というか邪魔です。大きすぎます」「私ら鞄も教科書も持たなかったしね」私たちの鞄には鉛の薄い板が入っていましたし。
ぺったんこに押しつぶして持つのが普通です。地味に押しつぶすのがしんどかったり。
職人さんが三年以上潰れないように作られた革の鞄って頑丈なんですよ。
「でも、重いから型紙で代用していたことも可也ある」何の意味もないし!?
「あと、潰すのに隣の工場のプレス機を使った」「このモノグサ?!」無駄に大がかりで逆に手間暇かかってるのではないかな。智子。
潰すには色々コツがあるのですが、後々に教科書が入らなくなって凄く苦労していたり。
「ふうん。今度潰し方を教えてくれるかい?」「喜んで! でも新しいのを買ってください!?」
「いや、再生させるから簡単」「紺野さんの言う事ってちょっと解らないよね。みかっち」まぁ紺野さんですし。
閑話休題。紺野さんに教えたカバンの潰し方については機会があればお教えしますが、今となっては少し後悔していますので多分ないでしょうね。
だってお母さんが買ってくれた新品の鞄だったのですから。当時の私はそういうことを全く考えられない女の子でした。
「コツはスペースをしっかりとること。追記しやすい」なるほどです。
でも落書き帳だと罫線が無いからぐちゃぐちゃになってしまいますよね。
「だからこの間綺麗に字を書く練習に付き合ったでしょ? 浅生が進学出来ないのじゃないかって心配していたぞ」
私の重要度は浅生さん以下ですか?! あの日のときめきをかえしてください!?
は。
隣を見るとにーやにーやとしている親友の顔。
「ほう。ほう。その話を詳しく聞こうか。みかっちが自慢しないという時点で可也の進展と見た」何を想像しているのですか。
頬を染めて否定に入る私といまひとつ事態を理解していない紺野さんの間で智子は刑事のような事情聴取術を見せます。
というか、最近事情聴取なんてされていないから懐かしいですよね。経験ないほうが良いですけど。
「お前らは逃げないだろうからな。扉は開けておくよ」「なんか懐かしいわね。あの刑事さん元気かな」六人ほど全治3か月にしちゃったのに優しかったなぁ。
「それ、あえて逃げ道を用意して精神的逃げ場を断つ基本的な交渉術だと思うのだけど。まぁいいや」はい。続きをお願いします。
字が汚いならなおの事広いスペースを取り、思考をまとめて書いていくことが必要だそうです。
そういえば智子のノートは可愛い漫画の登場人物も書いていますよね。「自分の言葉で書くのが大事だからね。最悪断定形の文にする」
「三世(賛成)の繁体(反対)なのだ」「お前はバカボンか」呆れる智子。違うのかな。
「刑事の取り調べじゃないけど、整然と整っているより隙が多いように見えて追記しやすい。『書きやすく、見やすく、書き加えやすい』ほうが良いだろ」
つまり、かつての私たちは刑事さんの思うままに行動して返答していたという事らしいです。なんか悔しいし。
「板書きを必死で書き写すだけだとダメだよ。受動的に目に映った事を書いて満足しちゃうだろ?」確かに。
「浅生が文で書いていたら箇条書きに書き換える。単語を連ねたら表にまとめる。自分で考える。その思考過程の結果がノートになるんだ」
「予習復習をちゃんとお店でやっておきます」「宜しい。でも帳簿もちゃんとつけてね」はい!
用語や英文のスペルの意味などはキッチリ意識して書かないといけません。理解できていないのにアレンジなんて出来ないということだそうです。
「浅生先生の話面白いからそれと絡めて仰る学業の事は全部ノートしているよ」お前は別の理由がないか?! 智子?!
「浅生のその『無駄話』は教科の記憶を強めるためのものだから智子ちゃんが正解」おおう?!
えへへと微笑む智子だけど、元は爆弾パーマだ。恐るべし女は化ける。
「本当は罫線なしで綺麗に書けるのが一番いいのだけどね」はい。一言一句落書き帳にメモしています。
「能動的に書き写すより、自分で作っていくほうが授業は楽しいでしょ」「ですね! 私は浅生先生の授業が楽しみで楽しみで!」うーん。寝ていました。
変態の浅生先生の授業なんて話半分だったけど確かに聞いていると面白かったりする。今度からやってみようっと。
まとめると。
ノートは思考を作るモノ。
移すのではなく理解したうえで板書きや教科書をまとめて書く。
図やグラフを積極的に書いて、先生の話した教科に関係のあるエピソードはメモ。
まとめて覚えるべき単語や現象や事件の因果関係は空白部分に矢印などを用いてまとめる。
行間は贅沢に開けて読みやすさと追記しやすさを重視する。
「ノートをゼロから作っていく。そうすると自分の人生も作っていけると思うよ」ははは。ないですよ。紺野さんは不思議なヒトですね。
「でも、無地は便利だぞ。数学の証明問題とか図形が上達しやすくなる」本当かな。
「でも、書くのが早くないと落ちこぼれますよね」「大丈夫。そのための浅生先生だから!」
浅生先生の苦労が少し理解できた気がします。
私の名前は夢野美夏。
キャピキャピの16歳女子高生。私の好きな人は。
「あなたはなんでも知っているのね」「そうでもないさ。知らないこともある」
とっても変で、とっても物知りで、とってもかわいい人だったりします。
そういうわけで私はバカボンの絵をかいていて、教室の外でバケツを持っている羽目になっていますが。不可抗力です。
これではノートが取れないじゃないですか~~~~~~~~! 浅生先生のばかああああああああああああっ?!
「自業自得なのじゃ」私の背によじ登ってはしゃぐ幼女は澄ました声で告げました。
※ノートについての詳細はなろうなら『バカの為の勉強法』(作者:緒尾雄大 様)、
NHKオンラインのEテレ『テストの花道』公式サイトの2013年4月22日(月)放送「成績を伸ばすカギ! ノート術」などを見てください。




