ああ突然苺をあんこに包み夢見る気持ちに~いちご大福がシュワシュワする理由~
しゅわしゅわ。つーん。甘い甘い。
甘くてしゅわしゅわしていてとっても美味しい。
私はまいなちゃんに頼み込み、以前紺野さんに食べさせていただいた大福の再現を試みていました。
「人間は色々考え付くのう」「鵲。これは本当に美味しいよ」
もぐもぐと口に大福を運ぶ浅生先生。隣でおなかを押さえてダウンしているのは我が友、村神智子。食べ過ぎです。
「まいなちゃん炭酸入れたの?! ツーンとして美味しい!」「入れておらん。こういう味なのじゃ」何故かぶつぶつと文句を言うまいなちゃん。
炭酸入りのイチゴがとってもとっても美味しいのです。酸味があってイチゴの甘みがあんこと絶妙にからまって、汁気を大福の御餅が吸い上げてくれて。
じゅわっと酸味と共に広がる甘い唾液を惜しみながら飲み干し、もう一つ。
すーっと鼻を通る涼しい感触が夏日の暑さを和らげてくれて。
「喰い過ぎじゃぞ。美夏」「もっとください。もっともっと」「太るぞ」
しぇいぷあっぷ? でしたっけ。鍛えるだけなら得意ですよ。
「『朱闘羅怒』をぶん回す程度には腕力あるからのう」無視です。そんな過去はなかったのです。
処でどうしてこんなにツーンとするのでしょう。
逆に刺激的で美味しさの元になっているけどまいなちゃん的には気に食わない模様。
「発酵しておるのじゃ」「鵲。御餅が発光するのかい」ボケたことをいう浅生先生。
学校の家庭科室では幼女と食べ過ぎでダウンした娘と私と浅生先生が揃って午後のティータイム。
何故か教頭先生や校長先生、英語のオールドミスまでもがまいなちゃんの大福を絶賛している件。
「浅生君?! これはうまい?! お金取れるよ?!」「浅生君。まさか教師から転職したりはしないだろうね? 君は若いとはあえて言わんが将来溢れる教師なんだ。頼むから学校を去ったりは」「若くないは余計です。教頭」くす。
口元を不機嫌そうに歪ませてお盆を頭にのせてぴょんぴょんはね、足に履いたぽっくりを鳴らすまいなちゃん。
「こいつらに振る舞うために作り過ぎたのだ。浅生よ。村神の娘の分まではまぁ許せるが、この世にまだ生まれていない食べ物を不特定多数に食べさせるのは良くないぞ」「だって村神くんが」「「女の所為にする男は最低じゃ(です)」」最後の台詞は私とまいなちゃん同時。
「ましてや村神の娘はおぬしを慕っておるのじゃ。それは男としてどうかと思うぞ」「その通りなのです。まいなちゃんの言う通り!」「……」
意気投合する私と幼女、ため息をついて『子供には勝てない』とぼやく浅生さん。
「アレですよね。浅生先生はろりこんの変態だし」「違います」「良いではないか。私はかまわんぞ」あれ? ここにきてアピールですかまいなちゃん?
思わず口元がほころんで足元の彼女を眺めるといやそうに頬を赤らめています。
「なんだ。その見透かした表情は。小娘め」「いえいえ。何もありませんよ。ほほほ」
なんだかんだいって智子の事意識しているのですね。小さい子だけど可愛いです。
普段はすっごく生意気ですけど。
「処で、重曹を入れたりするのですか。しゅわしゅわのコツ」「違う」
まいなちゃんは出来立ての御餅をすっと出してきます。
「食べてみろ」もう食べられ……いやぁあ?! これ以上食べたら吐いちゃう?! 太っちゃう?!
「吐いたら太らん。歯はボロボロになるうえ身体も壊すが」「余計悪いじゃないか」「こんな美味しいものを吐くなんてありえません」
実際、不思議なことにシュワシュワしません。変なの。
なんでも、まいなちゃんが言うにはイチゴの果実の表面にある小さな菌があんこと反応して発酵を始めるそうです。
「発酵と言うべきか、腐るというべきかは人間の主観で決まっているから一概に言えんが、浅生にこんなものを食わせるのはどうかと思う」「鵲。凄く美味しいよ? こうしゅわしゅわしているのも良いし、出来立ての甘いのも」
もぐもぐと口に運ぶ浅生先生に私たちは視線で会話。男は解っていない?!
はぁとため息を足元でするまいなちゃん。浅生さんからイチゴ大福を奪いとります。
「浅生よ。今後の為に言っておこう。女は旨いものを食べてもらおうと考えるのは当たり前なのだ」「知ってる」「わかっとらんわ。ボケ」うん。男の人は残念ですね。
「実力の限り、美味しいと言ってもらえる努力をする。その努力を少しは見て欲しいと思うのだが浅生。言うことはないか?」「……新鮮な御餅を古くしてごめんなさい」宜しい。
でも、しゅわしゅわのほうが私は好きだったりするので、浅生さんの言うことも理解できるのですよね。
どうしてシュワシュワするのか。
果実表面にはワインを作るときに使う酵母? があって、それとあんこが密閉されたおもちの中で急速に反応してお酒と同じような反応を見せるそうです。
反応としてはリンゴジュースに酵母を混ぜるとお酒になるような。
特にあんこの糖分が決め手で凄く早く反応するとかなんとか。
結果的に炭酸ガスが大量に発生してシュワシュワになるんだそうです。
自己代謝もあるとかなんとか。もうよくわかりません。
「それってお酒屋さんじゃないと捕まってしまうとか」「ない」「ない」あれ?
こんな小さな御餅の中の小さな命たちがたくさんたくさん。
わたしは掌の上の大福を口に運び、あまった半分のイチゴを眺めて呟きます。
「命って不思議ですよね」「その通りじゃ」「命の尊さに気付くのもまた教育だね」
いつの間にか陽光が差してきた家庭科室で、きらきらとした光を受けてしゅわしゅわと輝くイチゴの上で頑張っている小さな菌。そのイチゴの入った大福を口にしてはしゃいでいる大人たちを眺めながら私は命って素敵だなと思うのでした。
私の名前は夢野美夏。
キャピキャピの16歳女子高生。
私の好きな人は。
今回出ていませんね! とっても変で素敵なヒトなんですよ!
そして、そんな『変』なところをちょっと書き足して「愛』に出来るよう私は頑張る所存でございます。
「恋と愛を間違えておるな」「夢野君。漢字の書き取りも必要だね」
外野が煩いのですが。今日はここまで! またねっ!




