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かふぇ&るんばっ♪1980  作者: 鴉野 兄貴
妖怪『お気に入り外し』

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21/49

番外:香がやってきたり 光がやってきても

 ぐずっ。

「うえええん。かおるちゃん。個々何処? お父さん。お母さん。お婆ちゃん~」「ひかるちゃん泣かないで。うう。私もわかんない」


 ここ、何処?

何というかいつもいつも変な家族の所為でろくな目に遭っていないけど今回はその極みだわ!


 私? 私はあらたかおる

一応言っておくけど今日日は防犯ブザーも進化していて、GPSつきで場所も逃げる犯人も特定できるし、撮影や音声記録も出来るんですからね。

「香ちゃん」「ん? なに光ちゃん」「あのね。通信が圏外」「あれ?」

本当だ。GPSが働かない。ここ何処だろう。なんか古い街並みだね。

『地図表示』もWebも通じないし。お父さんやお母さんに電話も出来ないみたい。

「どうしよう。怖いよ」この子はひかるちゃん。私の双子のお姉ちゃんだ。

引っ込み思案で泣き虫。私以外の人間には家族相手でも声を喋ることはほとんどない。

あと、私たちをシンコウちゃんとか、男の子たちみたいに酷い言い方したら怒るからね。


 というか。私の腕の産毛をじりじりと焼く不快な感触。

服の体温調整機能どうなっているんだろう。

「暑い。暑い。どうなってるのよ。この辺」クーラー壊れているのかな。

私たちは商店の周りを歩く。「アイス買って」「もう。光ちゃんったら」

光ちゃんの端末、完全に壊れたのかな? 私のなら大丈夫だと思う。

 しかし。私たちが携帯端末をおじさんに差し出すと。

「お金持っていないの? ないならダメだよ」不思議そうな顔をされた。

むしろなぜ今時お金を持ち歩けと言われるのか解らない。

『30円』と書かれたアイスを恨めし気に見る私たちを見かねてか近くにいたお姉ちゃんが払ってくれたけど。


 ぱくっと口に入れてみる。すっと鼻に入ってくる涼気。

さわやかな甘みはちょっとべたつくしつこさもある。

どろどろとあっさり溶けるアイスに辟易。

でも三十円なのに大きくて美味しい。態度は最悪だけど良心的なお店だったなぁ。

あれ? このアイス『三十円』って印刷されている。どういうこと?

「お姉ちゃんありがとう」珍しいな。光ちゃんが家族以外に話をするなんて。

その年上のお姉さんは中学生から高校生くらいの綺麗なヒトなんだけど、なんか黒くて地味で不細工な制服が前時代的。

あと、胸がお婆ちゃん並に大きい。

あまりにも胸が大きくて制服の裾からすっごく括れたお腹が時々見える。

腰が細すぎるんだろうけどスカートや靴下を何度も直している姿は鬱陶しい。

ゴムが緩んでいるのかな。というかファスナーじゃなくてボタンじゃ着辛そう。


「私は新香って言います。こっちはお姉ちゃんの光ちゃん」


 怯えながらぺこりとするのがいつもの光ちゃんなんだけどなぜかお姉ちゃんの裾を握って離さない。

結局、なぜか光ちゃんががっちりお姉さんの足に抱き着くのでお姉さんと一緒に歩くことになったんだけど。

「暑い~。熱い~」エアコンは無いのかな。

「えあこん?」お姉ちゃんはは不思議そう。

「暑いでしょ。節電なんて今時ナンセンスだし」「せつでん?」

何言ってるんだろうこのお姉さん。中学生か高校生くらいに見えるけどひょっとしたらバカなのかもしれない。


「クーラー! 何故みんなつけないの?」「ああ。この間智子のおじさんが買ったって言ってたっけ」


 木でできていてむしろ寒いけど良いよねと言われて「は?」な私。

木でできていて寒くてって言われても。

「すっごく気持ちいいんだよね。学校にもつけて欲しいよねえ」「おねえちゃんの学校にないんだ」いや、空調設備は常識だと思うけど。

『昔』の学校はいっぱいお休みがあったらしい。何でも寒すぎたり暑すぎたり学年変更の手間暇が人力だったりだったからってお婆ちゃんが言ってたっけ。

「あとちょっと耐えたら1カ月ちょっとの間お休み」と呟くお姉ちゃん。

彼女は大きな植木鉢を抱えて歩く。朝顔がくるくると棒にからまっているんだけど。重いだろうに何故抱えているんだろう。

「輸送機使わないの?」「ん? よくわからないけどクロネコヤマト?」

イライラする。何この人。


「まいなちゃん。でたらめ言わない」


 なんか。時々独り言言ってて気持ち悪いし。

ひょっとしてワルイヒトなのかも知れないけどワルイヒトに光ちゃんがなつく事はないしなぁ。

たまにうちに遊びに来る順子お姉ちゃんが『光ちゃんがカズちゃんにしか懐かない』って時々泣いているし。

いや、順子お姉ちゃんがワルイヒトかどうかさておき。私は好きだけど。

『おしめを替えてあげていたのに脅えられる』と嘆く順子お姉ちゃんだけど光ちゃんだって順子お姉ちゃんが嫌いなわけでもないのだ。光ちゃんはいつも泣く。むしろ本人も気にしているみたいだし本当はもっと順子お姉ちゃんに甘えたいらしい。でも人を見ると怯えてしまうのだ。


 そんな光ちゃんなんだけどなぜか今日だけはすっごく楽しそうにお姉ちゃんにキラキラした目を向けて何か変なことを喋っている。

うちのお姉ちゃん。ちょっと変な子で『モノの声が聞こえる』と言って男の子にいつも苛められるの。

というか、うちの家族はお婆ちゃん以外はそんな人ばかり。


「お姉ちゃんってなんてお名前?」


 端末が無いから聞かないと解らないと知って今更聞く私。

にこりと笑ったお姉さんは運転免許証を出してきたけど。


 なにこれ? ふざけているの? 子供相手だからって?!

何故か鉢巻をした可愛い猫の写真。『矢沢猫吉』と書かれている。

有効期限は『死ぬまで有効』『舐めたら無効』で埼タマ県がどうとか書いていて。『シッポで運転しないこと』『マタタビ食べたら乗らない』なにこれ?


「あ。これは警察に捕まった時に出す奴だった」


 にこりと笑うお姉ちゃん。

「『なめんなよ』可愛いよね。やっと手に入れたんだ」とはしゃぐ。

警察? このお姉ちゃんワルイヒト?

「ううん。無免許で昔はナナハンや四つ輪回してたし」「ななはん? 四つ輪?」

なんだかわかんないけどワルイヒト確定。

逃げようと光ちゃんの裾を引くけど泣きながら首を振られて断念。


「悪いことしていないよ。今は!」「道路交通法違反と騒音は悪いことだと思います」「無銭飲食しようとしたキミたちに言われたくありません」


 なんかむかつく。お婆ちゃんみたいだし。

急に泣き顔だった光ちゃんが真顔になってその鼻先を私に向ける。

双子なんだから同じ顔の筈なんだけど光ちゃんのほうが男の子に好かれる美人さんなのでちょっといいなあって思ってしまう。

「お婆ちゃんだよ。香ちゃん」「私はキャピキャピの16歳なんだけど」

光ちゃん。高校生をお婆ちゃんって言ったら叱られるよ。


「だから、お婆ちゃんだって。こっちの女の子もそう言ってるもん」「また『モノの声が聞こえる』わけ?」「ちがう。この子は妖怪」


 普段泣いているのにこういうことを平然と真面目に言ってのけるから光ちゃんは苛められるのだ。

私が子供っぽくない子供なのは家族の所為だと思う。

お姉ちゃんと一緒に私は呟く。『妖怪なんているわけがないじゃない』と。

「この科学万能の1980年に妖怪なんているわけが」「はい?!」


 コロコロ笑うお姉ちゃんの正気を疑う私だが。

時代がかった木製のテレビ。それは前時代的な薄型でも巻物状でもない。

そもそも分厚い箱型で、全て平面映像。それも厳密に言えば平面じゃない。丸い画面に映っている。

『目指せモスクワ』と書かれているけど。なにこれ。

「これ。なに?」「カラーテレビだけど」からー? てれび? なにそれ。色なんてついていて当たり前じゃないかな。

『電機屋』と書かれた『家』に私は驚いている。商売になるのかな。


 うちに電話すると『現在使われておりません』だった。

またお母さんやらかしたな。私がついていないと頼りないんだから。

結局今はお姉ちゃんのアルバイト先のお兄さんの御好意で警察の人がくるまで待つことに。

オンボロな家でアイスを舐めながら蚊取り線香の臭いに辟易しつつ異様に多い蚊をはらって。

「モスクワ五輪は日本参加しないみたいだね」「残念だね。紺野さん」

「もすくわ? ごりん?」

私たちはあまりの暑さとわけのわからなさに眠ってしまったみたい。

これは夢だ。夢なんだ。うん。夢に違いない。

すやすや……。むにゅむにゅ……。



 気が付くと家にいた。

いつも通り空調が効いた部屋。

階下のカフェではお母さんが接客しているみたい。

心地よい日陰から少しさす太陽の明かりが私の意識をハッキリさせていく。


 私の名前はあらたかおる

『モノの声が解る』とか言い出す双子のひかるちゃんは私のお姉ちゃんだったりする。

私が大人びていて生意気なのは多分家族の所為なのだ。

どさんこGOGO!氏より『未来の人が来たらどうなるか』。

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