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かふぇ&るんばっ♪1980  作者: 鴉野 兄貴
妖怪『お気に入り外し』

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地球の男に呆れたところよ ~不幸は幸せへのパスポート~

 こんなところにいた。

こんにちは。知らない人。

私は本当のところあなたの事を知っています。でもあなたは知らないというのでしょうね。

「まいなちゃん。浅生さんが探していたよ」夕暮れの中、赤い着物を着た市松人形を思わせるその姿はとても愛らしく、普段の憎たらしさも感じないほど儚げな表情を浮かべていました。


 私はしゃがみこんで首筋を下げ、その鼻先を彼女の泣き腫らした鼻に近づけます。

「ね。帰ろう」「……美夏か。つまらん」呼び捨てってどうかと思いますが私だってつい最近までお母さんのことをババアと呼んでいたし。

「浅生が迎えに来たのかと思ったのじゃが」「浅生さんも探している」

私は背を彼女に向け、掌をぶらぶら。「まさかおんぶとか言うのではないじゃろうな」「歩くの? 100段あるよ。この階段」「問題ない。ワシは飛べる。瞬間移動もできる」また冗談を。この科学万能の時代に超能力……はあるのかなぁ?

山田ミネコとかどう思う? まいなちゃん。

「知らん。面白いのか」そういえばこの子字が読めたっけ。今度漫画もっていこう。

「『地球へ』も面白いよ」「ふむ。今度浅生に買ってもらうのじゃ」

「魔法は知らないけど、超能力はあるのかな」「手品師には興味はない」


 私の背中に少女の体温がずっしり。

お。重い?! ええ?! すっごくこの子重いよ?!

「だらしないの。浅生は顔色一つ変えないぞ」ぐ、ギギッギッギ?!!

「おうおう。顔が大魔神なのじゃ~♪」殺すぞクソガキ。


 私が悪態をつきかけた途端、

まいなちゃんの唇から洩れた甘いため息に少し手が止まりました。

いい香り。どうなってるのかな。花の香りがする。

「わしの色香に惑わされるのは良くないぞ。不幸になる」その歳で何言ってるのですか。

「ワシの歳? ……500ちょっとじゃな。

浅生家の当主たち全員の顔を覚えている」

バカ言ってるし。

「何度も何度もお前には説明しておるが、ワシは座敷童なのじゃ」

人を幸せにする半面、ある日泣きながら出て行ったらその家に不幸が訪れる妖怪ですよね。妖怪なんてこの世にいるわけないでしょう。

そういうと莫迦にしたように鼻をならすまいなちゃん。

「竜をみたじゃろうに」「あれは幻覚で夢です。確信しました。紺野さんは私の事なんて見ていないのです。古物にしか興味のない変人なんです。こんな美女が隣にいてもちっとも指先一つ触れませんし」

男の子はオオカミだから気をつけろと母は言いますが紺野さんと浅生さんには当てはまりません。オッサンだからかもですが。


「だが、ワシは人とちょっと違っていてな。浅生家の人間を不幸にする座敷童なのじゃ」


 意味わかんないし。

だいたい、浅生さんとまいなちゃんの仲の良さは私も紺野さんも良く解っている。

何時もバカなやり取りをしているけどどう見ても親子だし最初は親子だと思っていたし。

「美夏よ。前々から言わねばならぬと思っていたのだが」

階段を昇り降りしているときに話しかけないで。まいなちゃん。

「まいなちゃん。あのさ。浅生さんの事なんだけど」「なんじゃ」

「幸せってテストに書いたつもりだったのよ」「うむ」

「『辛い』って書いてしまって落第」「ぶぶぶ」

ケタケタと背中で笑う彼女。こちら鉛の鞄なんて目じゃないほど重い幼女に足がガクガクしているというのに。歯を食いしばって重さと屈辱に耐えます。

「重いじゃろう。人は生まれながらに因業の重さを抱えておるからなぁ。浅生家500年の重みじゃ~。お前が耐えられるのが不思議じゃが」ギギギギ。本当に重いし!?

因業とか、家の何とかとか関係ないし。浅生さんは浅生さん。

紺野さんは紺野さん。私は私でまいなちゃんはまいなちゃんだ。


「じゃが、少し嬉しかった。礼を言う」


 階段を昇り降りしてやっと浅生さんのもとに彼女を届けた時には日はとっぷりと暮れていました。

「不幸は、幸運の入り口じゃ。確かにそうじゃな。

浅生は確実に死ぬが、それは浅生の娘にとっての幸せの始まりになる」はぁ?

変なことを言う子に鼻白む私を浅生さんは苦笑いして押さえます。

「浅生。ワシはお前と一緒にいていいのかの」「当たり前だろう。かささぎ」意味わかんないけど喧嘩でもしたのかな。


 二人と別れ際に、ぼそりとまいなちゃんが告げました。

「先ほどは言い忘れたが。美夏。お前に言っておくべきことがある。

お前はことあるごとに浅生の。紺野の奇行に触れては『私が頑張らなければいけない』と二人を矯正しようと考える。

お前が思い込みが激しく、しかも一途で良い子なのを知っているからあえて言う。

普通、好きな人がいて、その人が変わりものだとしたら

『私が合わせなくちゃ』と奮闘するものじゃが、

『私に合わせなくちゃ』と強制するのは侵略者の考え方じゃ~♪」

私の足が一瞬止まった。


 胸がどきどきと早鐘のようになり、

息が荒くなる。止どめなく流れる涙を抑えきれず、鼻水を飲み込んで鞄を握りしめた。


 私の名前は夢野美夏。私の好きな人は。

「あなたはなんでも知っているのね」

「そうでもない。知らないことだってあるよ」

とんでもない変わり者です。

私は、彼の為に。彼を取り戻さなければならないのです。

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