愛し合うなら話も弾む ~番外 浅生さんと紺野さん~
ねね。みかっち。
きっかけは親友の智子の余計なひと言だった。
「浅生先生と紺野さんって師弟なんでしょ」「親友でもある。だって」
私たちは私と紺野さんの仲を裂こうとする浅生さんの話題をしていました。
なぜって? うちの学校はアルバイト禁止なんです! ふざけていますよね!
てかあなた誰? あなたの事なんて私は知らないから!
「喋り方が物凄く二人とも似ているわよね」
どっちも美形だしと智子。
うげ……。嫌なこと言わないでよ。
思わず脳裏ににこやかに笑う浅生さんと控えめに微笑む紺野さんの両方が。
「ムキムキマッチョと鍛えた空手家くらいの違いはあるわよ」体格で言えば紺野さんのほうが少し背が高い。
というか、一瞬浅生さんは上半身裸だった。
あの人地味に脱ぐ。プールで脱いでたもん。変態だ。
「あの人水泳部顧問じゃなかったっけ」そうだったかしら。
「性格も似ているよね」にてない似てない。全然似ていないわよ。
「そう? 正直同じ声で同じ顔だったら区別つかないと思うよ」「ない」
でも、浅生さんってまいなちゃんといるかどうかだよね。
「そうなのか~。ワシは浅生のまっくしぇいくなのか~」シェイクはつかないと思う。アレってロッテリア?
「浅生の生き写しが紺野なのじゃ~。紺野は若い頃の浅生なのじゃ~」意味わかんない。
「誰と話しているのよみかっち」「誰って」
私は整ったまいなちゃんの顔を見ようとするとまいなちゃんが消えているのに気付いた。
どこ行ったんだろ。あの子。探さないとダメ?
私の鼻先が揺れて視線が動くのに合わせて智子の顔も動く。
その先には私たちにガンを飛ばす男どもが見えた。
慌てて赤い顔を私たちからそらすクラスの男ども。
……あん?
「ちょ。ちょ。……みかっち。大魔神になってる」ひょえ?!
以前まいなちゃんが『ねんしゃ(念写)したのじゃ♪』と言って私に見せた写真。
鼻先が盛り上がって目玉がひん剥かれ、えくぼというにはあまりにもむごい頬の盛り上がりとかみしめた顎。吊り上がった眉とその上の瘤という凄まじ
い顔で木刀を持ってナナハン(※750ccのバイク)を自在に操る私の過去の写真を思い出して必死で顔だちを押さえる努力を開始。
別に暑いわけではないのに冷や汗を流して鼻をひくつかせて唇をうごめかせ眉を押さえる私に。
「うわ。美夏。アンタ今凄いブス顔」まじめぶった智子が五月蠅い。耳が熱い。泣いちゃうわよ。
「というか、アンタだってパーマだったじゃない」
長い爪を赤く染めてパンプスで何度も改造制服のスカート踏んで転んでたし。
「恋する乙女は変わるものだもん!」「教師なんて安月給なんだから。知らないわよ」「でも先生って名家だって言うよ。教頭先生が教えてくれた」
知らないうちに教頭と仲良くなってる。元ヤンキーの癖に侮れない子だ。
というか、何が良くて浅生さんみたいなオッサンと。あの人戦前生まれだよね。
「ピカが落ちた日に生まれたって」「そっか」
なんでも一族は名家だったけど全て焼けて苦労したらしい。
そんなそぶり一切見せない明るい浅生さんを思い出してちょっと変態と呼んでいる自分に自己嫌悪。
変態だけど。
ふと見るとまいなちゃんがニコニコ笑いながら教室の扉を半分開けてこっちを眺めている。またいたずらして。この間浅生さんに黒板消し仕掛けたでしょう。
「二人とも優しくて強くてカッコいいじゃん。別に良いでしょ」
この子ったら16歳なのにオジサン好みってどうかしら。本当に将来心配。
「早死にされて独身になったらどうするのよ」「もちろん再婚」
遺産も貰うと智子。
こういうところって現代人だなぁ。新人類。
「確か奥さんが遺産の半分もらえるんだったっけ」「そうそう」
私の名前は夢野美夏。
彼女の名前は秋山智子。
私の好きな人は紺野塊山さん。
「智子はなんでも知っているのね」
「知らないことだってあるよ。学校の勉強なんて特にそう」
あはは。私もそうだ。昨日も補修を食らって遅刻したもん。
彼女が好きな人はうちの担任でもある変態の浅生さん。
私たちの貴重な午後を奪う変態なのです。
「ええ? 私は補修好きだけど~。むしろアンタが邪魔」「このオッサン好きめ……」
こういうヘンなところがなかったら、良い子なんだけど。智子。
「私は良い子だもーん!」「うっさい。もう黙れ」




