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かふぇ&るんばっ♪1980  作者: 鴉野 兄貴
不思議な物品に宿るは『ツクモガミ』

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君は書籍を持っているか ~捨てるなんてとんでもない~

「ねえ。紺野さん」「なぁに。美夏ちゃん」


 このお店って埃っぽいよね。ぜんそくになっちゃったらどうしよう。

キレイにしたのにまた汚して。ほんと紺野さんって私がいないとダメだね。

「埃の甘い臭いが良い」「そのために従業員をぜんそくにする気ですか。そうなったら責任を取ってください。結婚してください」「またその話」

かちかちかち。売り物でもある古時計が時を刻み。


ぼーん ぼーん ぼーん


 三時だ。

三時なのだ。今日も三時なのです。

「珈琲入れるね」「うん。頼むよ」

珈琲って言ったらインスタントか缶コーヒーなんだけど、このお店には珍しい珈琲を入れるための器具がある。

ここは古美術商、『紺野商店』。

私はここでバイトに入るまではインスタントコーヒーを珈琲だと思っていました。

ひきたての珈琲ってすごくいい香りがするんです。

アンタは誰だって? アンタこそ誰よ? 私はあなたのことなんて知らないから!


 紺野さん。

紺野さん。何をしていらっしゃるのですか。

紺野さんはただでさえ散らかる部屋を余計散らかして埃だらけにしています。

「本を処分しようと」「捨てるなんてとんでもありません」

「電子化したら不要だし」「デンシカ? デンジマンですか?」

「ああ。この星の人には解らないか」「??? デンジマンのお話ですか? 紺野さんってあんな番組見るんですか」

デンジマンって子供が凄く楽しそうに見ているんですよね。

あんな怖い番組見るなんて男の子ってどうかと。

紺野さんって子供っぽい。オジサンなのに。


 そう思っていると紺野さんは私の顔をじろじろ。

え? 紺野さん私の顔に何かついています? ひょっとして改めて私の可愛さに気付いたとか? ええ? 今日はお母さんのお化粧とかしていないし?!


 しかし紺野さんが口に出したのは私が隠しておきたい過去の事でした。

「え? 『尾道の女大魔神』が怖い? あんなかぶりもの程度が?」

私の口元がひきつるのが自分でも解りました。かつて感じた拳の感触や人を蹴った手ごたえや怖かったり怒ったりした気持ちが一瞬戻りかけて。

「その名前を出さないでくださいっ?!」

そ、それは少々背が高いですけど細いですし、その、今話題の『しぇいぷあっぷ』も頑張っているんですよ? ちょっと胸が大きくて困りますけど。

わ、私は不良は辞めたんです?! もう戻らないんです! 可愛い女の子になるんです! なりたいんです!


 そういってムキになりかけて紺野さんに教わった深呼吸。

すーは~。すーはー。おちつけ私。紺野美夏。

「いや、夢野君でしょ」「うるさいです。紺野さん」


 落ち着いた私は珈琲を飲みながらデンジマンの話をなぜかイイ大人とする羽目に。

「というより、ああいう番組で人形の中の人がどうこう言うのは無粋ですよ」「そうだね。意味なく人が死ぬのは怖いね」「そーです!」


 なんの話をしていたのやら。

本が確かに埃と虫の温床なのは解りますが、

本というモノは大切なモノなので基本捨てるものではないのです。

ページを破ったりラクガキしたりしたらすっごく叱られます。していましたけど。

「悪い子だね」「もうしていません」

でも、紺野さんが教えてくれたけど、昔の人の気持ちが詰まっているんだって。

「自分が覚えていればいいじゃないか。捨てられないのは本が自分の中に入り切っていないからだと思うよ」よくわかんない。

「なりたい自分になるために過去を捨てることだって人間には必要だと思うよ美夏ちゃん」「それだってもったいないですし、紺野さんはやっぱり」


 紺野さんはじーっと私を見つめて一言。

「結婚の意志はありませんが」「死んでイイです。紺野さん。もう将来なんて考えなくていいですよ」

とにかく古本屋に持っていくことが重要ですが、紺野商店にある書籍は貴重な書籍ばかりで東京に行かねば買い取ってくれないそうです。

「行きましょう。東京」目を輝かせて言う私に紺野さんは不思議そう。

「? なんで? 『でぃずにーらんど』に行きたいの?」「なんですかそれ」

あれって外国旅行ですよね。外国に連れて行ってくださるのですか。流石に紺野さんのお財布では。

「ああ。開業するのは三年後だね」「紺野さん。意味わかんない」


「じゃ、こうしましょう。貴重な書籍は東京の知り合いに送ればいいじゃないですか。それより」


 私は大量に転がっている雑誌や漫画(なぜか子供たちが要らないものを持ってきます)を指さして言いました。

「うちは古書店じゃないですから。どうして価値がなくなった本まで買い取るのですか」「申し訳ない。『ツクモガミ』がいる書籍はそれなりに」意味わかんないし。

「じゃ、雑誌買いとり及び販売は珈琲の副産物としましょう。それで珈琲代程度のもうけは出ます」「うちは喫茶店じゃないよ!?」何をおっしゃいます。喫茶店をやったほうが儲かるでしょう。この珈琲はお客さん取れますから!


『しばらく使わないものは要らないもの。売れ。

しばらく見ていないものは要らないもの。売れ。

売れないもの。人に押し付けて恩を売れ』


 って。言葉があるんだ。

紺野さんはそうおっしゃいますが、ものを大事にする教育を受けた私には違和感がありますね。

「でも、最近はなんでも買え買えだよ。そのうち家がパンクしちゃうじゃないかな」そうですね。次々流行ものが出ますし。

「デンジマンのおもちゃの次はまたロボットが出るんじゃないかな」「あっはは」

それって怖いですよね。あれってすごく高いんですよ? うふふ。

「毎年男の子が生まれたら買ってくださいね」「却下」


 私の名前は夢野美夏。

キャピキャピの一六歳新人類。


 私の好きな人は紺野塊山さん。

今日はちょっとラブラブが増しています。良い傾向です。

「あなたはなんでも知っているのね」

「そうでもないさ。知らないことだってあるよ」

でも彼はトンデモない変わり者なのです。

だから私は、彼とずっと一緒にいて、変なところを直してあげないといけないのです。

「なんか怖い」「人を妖怪や幽霊みたいに」

「妖怪は結構気のいい連中なんだけど」ほら。また変なこと言ってるし。

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