モノ言わずに思っただけで
「お婆ちゃん」
鼻水が出る。
涙が止まらないのは別に悲しい事があったからじゃない。
もう悲しいなんて思うのは過ぎた。私が泣いているのは安心したからだ。
「どうしたの? 香?」
私はお婆ちゃんに抱き着いて思いっきり泣いた。
ひとしきり泣き終わると、私の頭に触れる優しい掌に気付いた。
ありがとうお婆ちゃん。私はもう大丈夫です。
私の名前は新香。
ちょっとトボけた内科医のお父さん、病院事務のお母さん。双子の姉の光ちゃんと。
「お婆ちゃんに何でも言ってみなさい」
六十歳という年齢と容姿が一致しないこの妙なお婆ちゃんと一緒に暮らしている。
こういうと凄く普通の家に聞こえますよね?
残念な事にそうじゃないの。
うちの家族は『うちの家族はモノの声が聞こえるという変人揃い』なのだから。
唯一まともなのはお婆ちゃんだけ。
ううん。お婆ちゃんを普通の人と呼ぶのは別の意味でどうかと思うけど。
「今日もダメだったの」「ふうん」気のない返事だけどお婆ちゃんなりの優しさだ。
「うちの家族は変人ばかり」「みんな良い子でしょ。香ちゃんも光ちゃんも澄香も真君も私の誇り」
そう。そうなんです。
家族の中で私とお婆ちゃんだけが『モノの声が聞こえない』普通の人なのです。
私の不安を察して、お婆ちゃんは力強く教えてくれます。
私たちが産まれた日の事。お婆ちゃんの娘であり私のお母さんである澄香の顔。お母さんの旦那さんの真さんのステキな笑顔。今はいないお爺ちゃんも喜んでいるという話を。
でも。
ちょっと疑問なのです。
私はお爺ちゃんが『とってもカッコ良いヒト』としか知らないのです。
どんな人だったのでしょう。お婆ちゃんとおじいちゃんはどうやって出逢ったのでしょう。
「こんな話、香ちゃんに話しても難しくて解らないと思うけど」
お婆ちゃんはちょっと鼻先をずらして戸惑った顔をします。
「じゃ、解らなくても良いから教えて。あとで大人になって解るから」「ふふ」
そうね。
あれは四〇年以上前の話だったかなあ。
当時の私はちょっとグレた子で……。