特殊スキル
久しぶりの更新です
2886年。2月11日。17時56分57秒。
大都市クララベルから活気は完全に失われていた。理由は簡単である。
クエスト攻略に向かった攻略組が帰ってこないのだ。所詮は二日である。だが、モンスターハンターはクエストにどれだけ時間をかけても構わないのだ。だが、攻略組がここまで時間がかかるクエストは聞いたことがない。
このクララベルの活気を奪っている理由は2つである。
1つ・これは最悪の考えである。攻略組の全滅。だが、これは少ないと考えている。攻略組は勝てないことを把握すると撤退組という組を撤退させて街に援軍を求めに来る。その撤退組が帰ってこない。しかし、その撤退組がやられている、という考えは少なからずありだ。
2つ・仮に帰って来てもこれからはこのような難易度のクエストしかないという不安感。それが街に漂っている。
どちらにせよ。攻略組が帰ってこないと何とも言えない。この半年で攻略組の死亡者は0だったというのに。俺は恐らく3人は出ていると予測している。ちなみに現段階の攻略組は255名である。そして、一回のクエストで駆り出される攻略組は50人。(モンスターハンターの最上限度人数)
「攻略組が帰ってきたぞぉおお!!!」
俺はその声を聞くなり野次馬が集まっている地点へ足を向ける。帰ってきたのは1人だけだった。
「援軍を!!援軍を!早く!!全滅してしまう!!」
「おい!何があったんだ!?」
「わからない…だけど、刃が通じない!!」
「はぁ?」
「今までのモンスターとはレベルがまるで違うんだ!!早く援軍を!!」
「落ち着けよ!!んなこと言ってもあのクエストを受けられるのはHR120からだぜ?そんなやついねぇーよもう」
俺はゆっくりと人を避けながらその撤退舞台の前に立った。出ないと決めていたのに。俺はどうやら人を見殺しにできない体質のようだ。
「……なんだあんた」
「俺がクエストを受ける」
「聞いてたのか?HRは120より上じゃないといけないんだぜ?」
「俺のHRは133。あんたらよりはよっぽど強いぜ」
誰もが驚愕の表情を浮かべている。それは個人的主観かもしれない。だけど、周りから視線を浴びせられる俺は少なからずそう感じていた。
「さっさと組んで行こう」
俺はそう言いその場から立ち去りクエストを受注しに行く。宣言してしまったからにはもう戻れない。
勝たなければいけない。
数分で攻略組の面子も用意ができたようだった。俺の体力ゲージの下に仲間が表示される。数えてはいないが49人はいたと思う。
『【天元の下部】をこのメンバーで向かいますか?』
俺はYESのボタンを押す。すると体は青い光の粒に変わった。そして、もう一度視界を開くとそこは火山地帯だった。
「あれか……」
天を羽ばたいている巨大な龍がいた。白く神々しいその龍。その下で武器を取り出して立ち向かっている10人ほどの攻略組。半数以上が死んだのか。
あの龍がどのような攻撃をするかは俺は知らない。龍の体力ゲージはまだ半分も切っていなかった。
「総員突撃!!」
「おい!!あんた何を勝手なことを!!」
さすがに俺も危険な状況だと人見知りの癖がなくなるようだった。
「貴様のような男が指揮をとれると思うなよ。指揮をとるのはこの私エスパンダーこそが相応しいのだ」
そういい、男は突撃部隊の後ろを走って行った。俺だけがその火山地帯に立ち尽くしていた。
俺は様子を伺うことにした。入力スキルを押す。
【隠密】 モンスターに発見されていないことが発動条件である。
モンスターに見つかりにくくなる。
プレイヤーには発動しない。
これは言ってしまえば特殊スキルなのだが取り方は簡単でとあるクエストをクリアするのだ。俺はこの能力を使いモンスターの動きのパターンを計る。
俺は物音を立てずゆっくりと神々しい龍に近づいていく。龍は翼を閉じて地面で武器を取り出して構えているハンターたちと戦っていた。
俺は物陰からその様子を見る。場はかなり乱戦していた。俺は体力ゲージの下の仲間を見ると既に死人が出ていた。あいつの身勝手な行動で死んだプレイヤーだ。攻略組に入るために努力したんだろうな。その努力はここで死ねば無駄になる。
それでも俺は物陰から離れない。ここで俺が死ねば全ての時間が無駄になる。絶対に勝てるように俺はここから離れない。やつの攻撃パターンを。
「あぎゃぁあああ!!!」
「がはっ!!」
「やめろぉおお!!!あぁあああああああ!!」
生きていた人間はデータに殺されていく。なんという滑稽で残虐な絵だろう。人間が作り上げた物に人間自身が殺される。
俺はもう……自分を抑えることができなかった。
走りながら背中の太刀を抜いてやつに向ける。そして、斬りつける。
「なっ!?」
「刃が通ってる!?」
これが俺の特殊スキル。
≪絶斬≫。
俺に斬れない物はない。




