攻略の日
モンスターハンターの世界へようこそ
2886年。2月9日。13時22分55秒。
デスゲーム開始時のプレイヤー総数は92万人と5000人辺り。しかし、現在確認されているプレイヤーは60万人。
デスゲームから約半年で30万人辺りの人が死んだ。
この世界は本物だ。俺はそう確信している。これがデスゲーム。二度の惨劇を振り返る。デスゲームで死んでいく人の気持ちはどうなんだろうか?ゲーム世界で死ぬことは本望なのか?と、哲学的になり考えたことがある。
それは絶対にNO。そうだ、簡単に死ぬわけにはいかない。俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。
俺は家族と喧嘩したままこの世界へ来た。だけど、この世界にいてわかった。どれほどまで家族は暖かいか。ここは寒すぎる。俺は謝らないといけない。
ぶっきらぼうな父に。
優しかった母さんに。
いつも不機嫌な妹に。
「うぉおおおおおお!!!!」
俺の目の前には獣型のゴリラのような生き物がいる。しかし、体は俺より遥かに大きい。体毛で包まれた全身。しかし、肉体は鋼のように硬い。
獣王・レドイク
二足歩行の獣型に属する魔物。危険度は10分の7。そして、7以上の魔物の一人狩り(ソロプレイ)は自殺行為と言われている。だが、レドイクは俺の敵ではない。
俺は肩に背負っている太刀を取り出す。黒色に染まっているその剣は数多の魔物を狩ってきた俺の愛刀『黒刀・新月』。人間の首など簡単に切れてしまいそうなその恐ろしい刃。俺はそれをレドイクに向ける。
『うっほっぉおおお!!!』
興奮状態に陥っているレドイクが俺に襲い掛かる。俺はふらつくような足取りでそれを右に受け流す。そして、そのままレドイクの左腕を軸にしながらその黒の刃を振り落しその左腕を切り落とす。レドイクがその痛みに悶絶しながら切り口を右手で抑える。魔物も痛みを感じるようだ。
だが、同情はしない。所詮、こいつはこの世界の作り物。データの一つにすぎない。無心になりながらレドイクの右腕を躊躇せず斬る。そして、両腕がなくなり隙だらけな懐に飛び込む。
「太刀スキル・≪鬼人斬≫」
俺はスキル通りの動きをする。その黒い鉄の太刀を何の重さも感じない剣のように斬りまくる。そこで腕が止まる。
レドイクは後ろに倒れた。そして、俺の視界にはCONGRATULATION!の文字が視界に入る。始めた時は嬉しかったその文字は今では虚しくそして皮肉に思えてくる。
「これで全部か」
俺は改めてその場所を見直す。そこは雨が止むことのない樹海。その奥地である。レドイクの死体が5つある。そして、俺は視界を戻す。
『クエストを完了しますか?』
という運営からの文字がある。そして、YESとNOの選択が下に表記されている。俺がNOを押してもこの死体は時間が経てば光の粒になる。YESを押すとすぐに光の粒に変わる。
俺はゆっくりと指でYESのマークに触れる。5つのレドイクの死体は光の粒へと姿を変えた。
俺は視線をとある大きな塔に変える。クララタワーである。俺はそこに向かい真っ直ぐ歩き出した。道具を使い戻ってもいいが街へ戻る道具はバカ高いので歩いて帰る。この道具は本当にピンチな時に使う道具だ。
俺は自分の体力ゲージを見る。【ARUNA】の表記の下の緑の長いゲージは8割ほど残っている。そして、その下の白いゲージは3割ほどある。
この白いゲージはスタミナである。スタミナというのはお腹のことでこれが0になると体力が減少を始める。性質が悪いことにその減り加減は毒より早い。
俺は腰に装着しているポーチに手を突っ込む。そこで欲しいものの名前を言う。
「肉」
俺の手が何かを強く握る。そして、俺はポーチから骨付きの肉を取り出す。それを口いっぱいに頬張る。このポーチは四次元ポケット的なあれなのだ。取り出したい物をポーチに手を突っ込みながら口に出して言うと自動的にそれがポーチにあるならそれが手で掴むことができるのだ。
俺は骨だけになった肉を投げる。それは地面に落ちると消滅する。耐久値が1しかないのだ。耐久値というのは物に最初から設定されているその名の通りの耐久値。耐久値が1の物は落とすだけで壊れる。ちなみに、デスゲームになる前、俺は超絶レアな道具を落としてしまい、その道具の耐久値が1だったために壊してしまったという苦い経験を持っている。
「ん?」
樹海の帰路を辿っている時だった。まだ奥地を抜けていないが。4~5人のパーティーがレドイクと戦っている。かなり悪戦苦闘しているようだった。レドイクをクリアするとたまにレアスキルが付与される。斯く言う俺もその付与スキル狙いでこのクエストをしている。付かなかったけど。
ちなみにスキルには三種類ある。
入力スキル。ちなみに、これはセットと言われるものでセットすることができる。セットした入力スキルは歯車の横に表示される。一般的には料理などが有名。
戦闘スキル。これは口で言うだけで発動するスキル。各武器に多様な戦闘スキルが用意されている。どれも強力だが、一度使ってしまえば解除は不可能、さらにローディングにはどの戦闘スキルも30秒かかってしまう、極め付けにシステム的動きになってしまい無防備になるのだ。そのためこの戦闘スキル一本でいけるのは精々HR20辺りなのである。やはり、もっとも重要視するは技術。そして、この戦闘スキルの面白いところは未確認なスキルがあるところである。
通称・特殊スキル。ある一定を満たせば至極稀にそのスキルが使えるようになっているのだ。これは入力スキルも確認されている。ちなみに、レドイクが付与してくれるその特殊スキルは『ラッキー』。LUK(運)を向上させる。スキルである。
そして、常スキル。解除はほとんど不可能なスキル。基本的には能力値上昇がほとんどを占めている。さらにこれにも特殊スキルが存在する。だけど、一体いつついたのか?というスキルが多い。さらに、最初の設定でスキルを2つ選択することが可能なのである。だけど、全てこの常スキルだった時はかなりがっかりした。俺は『STR(筋力)+2』『AGL(敏捷力)+2』を選択した。そして、もう1つ。ランダムスキルが付与されるのだがそれも常スキルだけだと知ったときはがっかりした。ちなみに、付いたのは『ALL(全能力値)+3』これは中々の辺りと聞いたときは晩飯が蟹になったレベルにはしゃいだ。
そして、もう一度言うがこのレドイクを倒すと滅多に『LUK向上』が手に入る。運は俺的に鍛えることもできないため凄く欲しいのだが中々手に入らないのだ。
さらに話を戻す。現在、俺の視界には4~5人のパーティーがレドイクと戦っている。さらにはかなり悪戦苦闘しているようだ。しかし、俺は極端にメンタルが弱いし、人見知りなのでデスゲームが始まった日。誰ともコミュニケーションが取れなくて現在では黙々とソロ狩りをしている。焦っているとそれは大丈夫なのだが冷静な状態な時はそれが極端に目立つ。女の子が俺を見てひそひそ話しているだけで俺は泣きそうになる。オチは実は後ろにいた男の子でした。それにしてもかなり陣形が乱れている。剣士キャラが後衛にいるし。だが、一瞬で俺の表情は一変した。
HPは50m範囲にいれば見ることができるのだ。(名前と状態異常も表示されるがスタミナは見えない)
後ろの剣士のHPは赤色だった。あの剣士を守りながら戦っているんだ。そして、道具も尽きた。レドイクは遠距離攻撃も持っている。そのせいで迂闊に逃げられないし好戦的にもなれないというわけか。一目みてそれを理解し、俺はもう一度その黒い太刀を両腕で握りしめる。そして、瞬きの瞬間に駆け出す。
瞬間でそのパーティーの目の前に俺は仁王立ちする。そして、レドイクと対峙する。さっきまで何体も倒した魔物だ。そう悪戦苦闘せずにデータへ変えた。運営から通知がきていた。
『あなたの受けたクエストではないため。クエスト受理はされません』
つまり、無駄ということであろう。
「た…助かったよ」
一人の好青年が俺に近づいてくる。その体つきは俺とあまり変わらないように見えた。背中には太刀よりも大きな剣が背負われている。きっと、『大剣』使いなのだろうと理解する。
「こ…これ使ってくれ」
俺はなんとか声と勇気を振り絞りその好青年に回復薬の瓶を渡す。好青年はそれを受け取ると何も言わず頭を下げてすぐに後ろで木を背もたれに座り込んでいるレッドゲージのプレイヤーにその回復薬を飲ませる。みるみるうちに体力は上昇し、赤から黄色そして緑となった。
「すまない、感謝する」
さっきまで危険にさらされていた男が立ち上がる。好青年といえばそうなのだが体型も声も断然たくましかった。すると、先ほどの好青年が俺に手を出す。これは握手でいいよな?俺も好青年と同じ手を出す。
「君には救われた。是非ともお礼をしたい」
「い…いや…恩を着せたくてや……やったわけじゃないし…。ただ」
「ただ?」
「見殺しにはできなかった」
「正直、回復薬も尽きて危なかった。俺はギルドのリーダーとしてみんなを危険に晒してしまった」
「気にするな」
「そうよ、リーダーはよくやってるわ」
「誰も死ななかったしいいじゃねぇーか」
「リーダーはいつもみんなのことに気配ってくれてるし。いいリーダーだよ」
晴れ晴れするほどみんながリーダーを信用していた。少数ギルドのいいところはこの結託である。誰もがみんなを助け合う。俺にはそれが少し眩しすぎて直視できなかった。
「あの…報酬を全部受け取ってくれませんか?」
「それは悪いよ」
「せめて半分を!!」
ものすごい形相で頼まれる。周りのパーティーメンバーからも。断る対人スキルを持ち合わせていない俺は「はい」と、答えることしかできなかった。
気が付けば、彼らと同行しクララベールに到着していた。そのまま俺は彼らから報酬を受け取りおさらばするつもりだったが。
「是非ともギルドハウスに来てほしい」
とも言われてしまった。またも断るに断り切れない俺の対人スキルが発動した。
ギルドハウスはギルドを作ることに必要な家である。そのギルドハウスの大きさによりギルドの規模が決まる。ギルドハウスは拡張が可能なので人気なギルドは家がでかい。ギルドの利点は安全な狩りができること。だが、デメリットは報酬の分配と経験値の量。
HRを上げるために必要な経験値が分散してしまうのだ。上がるスピードは断然ソロのほうが早い。そして、報酬が減る。報酬は道具であったり武器であったりレアな道具であったりレアな武器であったりする。それが各々に自動的に分配される。ここでパーティーとギルドの違いを言っておく。
パーティーの場合は分配されたアイテムがわからない。しかし、ギルドの場合はギルドリーダーのみがそれぞれ分配されているアイテムを見ることができるのだ。そのためリーダーとメンバーの喧嘩は幾度となく見てきた。
とりあえず俺はそのギルドリーダーとフレンドとなってその場を離れた。かなり体が重い。とりあえず頑張った。
フレンドを交換する際に言われた言葉を思い出す。
「えっ!?HR……」
「ごめん。それは開示しないでくれ」
「わかった。約束しよう」
リーダーの男はソウタという名前だった。爽やかな心を持った仲間想いな少年。あんな男がギルドを作っていけばいいのに。
俺のHRは133
恐らく、この世界の5本指に入るHRの高さである自身がある。だけど、俺のことを知っている人間は数少ない。ソウタのHRは79であった。それは決して低い数字ではない。ただ、俺が高すぎるだけだ。
「邪魔なんだけど」
突然誰かに声をかけられる。今日はよく対人する日だな。対人スキルが2くらい上がってるんじゃないか?
「邪魔なんだけど」
さっきよりも強調されて言われる。
「す…すいません」
俺はすぐに右に逸れる。そして、その声の主の方へ顔を上げる。大きく目を見開いて瞬きを何度かする。
「なによ」
あまりにも、その少女が美しかった。
「私たち、今から鍵クエストにいくんだけど?」
「えっ?」
そこで、その美しい少女の後ろに何十人という男と女がいた。そうか、今日だったか。
『鍵クエスト攻略』
鍵クエストとは新たなるクエストを出すためにクリアしなければいけないクエスト。『楽園の龍』はHR199までに出現する9割をクリアしなければいけない。その9割の中の1つを出すためにこの鍵クエストをクリアしなければいけないのだ。
「早くどいてくれるかしら?二流ハンターさん」
俺は路地のほうへ足を向ける。その少女のロングストレートな金髪はとても美しく、琥珀色のその瞳はとても儚げで。
「まぁいいや。帰って寝よ」
俺が攻略に参加するのは『楽園の龍』だけだ。俺は心にそう誓っていた。
読了ありがとうございます