第2話
「無知の知」と言う言葉をご存知だろうか?
どっかの偉い人が言っていた言葉である。
ものすごく砕いて言うと「知らないと言うことを知っているから人は成長できる」みたいな感じだったと思う。
こういう曖昧な表現になってしまって申し訳ないと思うけど、僕はまだ哲学書を読みあさるほど人生に絶望も達観もしていないんだ。
そう僕はなぜ自分がこんな状況に陥っているのかわからないと言うことを知っているのだ。
しかし知っているだけでは事態は好転しない、行動を起こさなければいけないのだ。
「はい、チクッとしますよー」
他にも先人たちはすばらしい言葉を残している。
「聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥」
そう、この際聞いてしまえばいいのだ「一体何が起こっているんだ?」と。
たった一言ですべてが解決できる、魔法の言葉だ。
もし仮に言っている内容が理解できなかったとしてもそういうものだととりあえずは知ることが出来る。さぁ、聞くぞ。
「あの、」
「えい」
覚悟を決めて切り出した僕の発言は彼女の間の抜けた発声によって奇麗にかき消されてしまった。
と同時に彼女が手をかざしていた僕の胸の辺りがチクッとした。
うん、確かに彼女は何かしらをするからチクッとすると言っていた。それなのに声をかけてしまった僕の方がいけないのだろう。
質問をするならば彼女のしなければいけないことをすべて終わるのを待ってからするのが最善だろう
「うん、できました」
どうやら終わったらしい、先ほどまで体が光っていたような気がしないでもないがそういうことは終わってから聞くと決めたから今は気にしないでおこう。
さて、ついにすべての疑問が氷解する時がやってきた。
といっても目が覚めてからまだ数分程度しか経っていないだろうがそんなことは気にしない。
気にするのはこの後だ。
「ちょっと、」
ガチャ
「せんぱーい、先ほd…」
突然何もない空間からドアが開くような音が聞こえてきたかと思ったら、何もない空間が突然割れてドアのように開いたのだ。
普通ならば驚くところなのだろうが、今の僕にとっては再び質問が阻まれてしまった事の方が重要だった
が、驚かなくても反応に困ると言う事はあるもので、僕は今までの人生経験の中でこのような場合に遭遇した事がないのでどのように反応したらいいのかわからないのだ。
なので硬直してしまってもしょうがないと思う。
しかし扉を開けてきた少女も僕を見つけるなりフリーズしてしまっているのはなぜだろう?
…
はっ!?そうか、先輩と言うのはこの少女の事ではなくて僕を攫ってきたヤツの事なのだろ。
つまり先輩と呼ばれる僕を攫った謎組織の構成員を探していたら僕を救出に来た彼女とばったり鉢合わせてしまい、状況が読めずに硬直してしまったと言う事なんだな!
これはまずい、脱出ゲームに必要なのは戦闘力ではなく隠密性だ。某潜入ゲームでは無駄に敵を殺してしまうと評価が下がったりするので間違いない。
こうなった場合直ちに扉からこちらをのぞいている少女を無力化しなければいけない、しかし残念ながら僕にそんなスキルはない。
この場合僕に出来る事は彼女の邪魔にならないように無駄な身動きをしないと言う事以外にはあり得ない。
何度も言うが僕は一般人なのだ。そして物語で主人公が犯す調子に乗って失敗するというミスも、今の僕には調子に乗れるほどの根拠も実績も能力もないのだ。
いや、能力はあるのかな?まぁ、それも含めて質問しなければいけないのだけれど。先ほども決めたように今の僕は置物だ。彼女の戦闘を邪魔するような事だけはしない。
彼女が振り返って侵入者の存在を視界にとらえる。と同時に視線が一気に険しくなった。
そのまま振り返ってしまったので今の表情は見えないが、先ほどの視線の険しさからするとやはり敵なのだろうか?
能力が関係するはずだから異能者によるハイレベルなバトルに違いない。ハイレベルでなくとも少なくとも僕が今まで見た事もないような光景が広がるはずだ。柄にもなくドキドキしてしまうのもしょうがない。
彼女が相手に向かって指を向ける。今、戦端の火ぶたがきっt…
「あ!終わるまで入っちゃダメって言ってたのに!」
侵入者の存在に気づいた彼女が少女に向かって発したのは攻撃でも何でもないただの注意でした…




