表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静止領域のフロントライン  作者: ふるーる
5/9

ep1 ③

凪が医療室から歩ける程度に回復したのは、翌日の夕方だった。


まだ頭に鈍い痛みが残り、

世界の輪郭の奥に、ほんの僅かに“停止の残響”が揺れている。


(……まだ、体に残ってる)


歩きながら、凪は自分の能力の恐ろしさを再確認する。

限界を超えた時、世界そのものが自分を引き裂くように崩れた。

あれがもし戦場なら――

自分は、一瞬で仲間を巻き込んでしまうかもしれない。


胸の内に冷たいものが走った。


だが、医療室の扉を開けた瞬間――

その陰りはふっと溶けた。


「来たな、凪」


イオが端末の画面から顔を上げた。

その横でつぐみが安堵の息を漏らし、リオが軽く手を挙げた。


「元気じゃん。まあ、昨日の爆発に比べりゃ、今の顔色はだいぶマシだな」


「……爆発って言わないでください」


凪は苦笑しながらも、胸の奥がゆっくり温かくなるのを感じる。

自分のために、三人がここにいてくれる。

その事実が、昨日の恐怖を確実に押し戻していく。


イオが椅子を引いて凪を座らせた。


「さて――

 今後の“訓練方針”を決める」


端末の画面に、空間構造の波形図が浮かぶ。

凪が昨日展開した静中動領域の記録だ。

青い円が広がり、ひび割れ、最後に崩壊している。


つぐみが画面を指差しながら説明を添えた。


「凪くん、静中動は“空間固定”と“時間遅延”の二つを同時に使ってる。止まって見えるってことは、相当の負荷が来てるはずだよね」


「はい……ただ、昨日は……なんか、いけそうな気がして」


リオが即座に口を挟む。


「“いけそう”で突っ込むやつが一番危ないんだよ。俺の弾が止まったとき、お前テンション上がってただろ」


「……正直、上がりました」


「素直でよろしい」


つぐみが苦笑し、イオが小さく頷く。


「そこでだ。凪、まずは“自己加速”を禁止する。お前の能力は――自分の思考速度が上がるほど負荷が跳ね上がる」


「はい……」


「次に、“停止領域の拡大”は三段階で管理する。

 5m、10m、15m。

 それ以上は俺の許可があるときだけ」


「15m、ですか……」


「お前なら必ずいける。ただし“急ぐな”。急ぐ必要があるのは、本当に戦うときだけだ」


それは、叱責ではなく、

本気で凪の命を守ろうとする声だった。


(……俺は、守られてるんだ)


胸の奥が熱くなり、凪は静かに頷いた。


「……わかりました。これからは、もっと慎重にやります」


イオは満足げに頷いた。


「それでいい」


リオが椅子を蹴るように立ち上がった。


「よし! 回復祝いに飯行くぞ。俺、昨日からずっと腹減ってんだよ」


「昨日も食べてましたよね……?」


「食べたけど腹減ってんだよ!!」


つぐみが笑いながら割って入る。


「凪くんも、食欲は? まだ無理?」


「いや……むしろお腹はすいてます」


「だよな、昨日あんな爆発したらエネルギー切れするよな!」

リオが肩を叩く。


「だから爆発じゃないですって……」


三人の言葉に押されるように、凪の足は自然と医療室から外へ向いた。


訓練棟の廊下はまだ夕焼け色に染まり、窓からの光が細長い影を作っている。


歩きながら、凪はふと気付いた。


――これが、自分の“日常”なんだ。


能力が危険で、限界を超えれば死にかける。

それでも味方がいて、笑い合って、支えてくれる。


そんな当たり前の温かさが、凪の胸を静かに満たしていく。


リオが振り返りながら言った。


「凪、今日から俺が“突っ走り防止係”だ。暴走しそうになったら頭叩くからな!」


「それ普通に痛いんですけど……」


つぐみが柔らかく微笑む。


「私は“体調チェック係”。凪くんが無理してたらすぐ分かるよ」


「……はい、お願いします」


最後にイオが言う。


「俺は“制御係”だ。凪、お前がどれだけ強くなっても――俺が必ず制御する」


その言葉が、凪の胸の底に確かな灯をともした。


(俺は、一人じゃない)


心の奥で静かにそう呟く。


やがて四人は、訓練棟の外に出た。

夕陽を背に、影が長く伸びる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ