紙飛行機に描かれたもの
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
僕が小学校教諭になって、まだ間もない頃
ようやくクラスの子の名前を、呼ぶのに慣れた一方、早すぎる暑さの到来に、ゲンナリとしながら天気予報を見るのが習慣になりつつあった、あの日
5時間目は国語のテストだった
早く終わった子は、テストを提出して、漢字練習のプリントをすることになっている
クラスの中でも成績トップで、いつも1番にテストを終わらせるその子は、この日もいつものように、開始7分でテストを提出し、プリントを持って席に戻った
着席するなり鉛筆を忙しく動かす様子を見て、感心しつつも違和感に気づく
文字を書いているような動きではない
絵を描いているようだった
ダイナミックに鉛筆を走らせては塗りつぶし、細かく動かしては全体のバランスを見るように、少しプリントから視線を遠ざける
様子を見に行こうと思ったが、問題を解くのを断念した子が、他の子の集中力を削ぎにかかったので、そちらへの対応を優先した
その後、続々とテストが提出され始め、僕はすっかり機会を失ってしまった
その子に目をやると、やはり一心不乱に何かを描き続けていた
チャイムが鳴る
帰りの会が終わっても、その子は鉛筆を動かし続けていた
クラスの子たちは、さよならの挨拶とともに、蜘蛛の子を散らしたようにいなくなり、気がつくと教室には、その子と2人きり
鉛筆の動きが止まる
その子は折り紙のようにプリントを折り始め、流れるように、完成した紙飛行機を飛ばした
自分の方に向かってくる紙飛行機を、呆然としながら眺める
昔、そんな歌があったよな
どうでも良いことが頭に浮かぶ
ふわり、と目の前に紙飛行機が舞い降りた
ハッとして顔を上げる
その子の姿は、もうなかった
ため息が漏れる
こうやってふざけたくもなることもあるのだろう
紙飛行機を開く
漢字練習用のマスが印字された面が、表にくるように折ってあった
全てのマスに、整然と漢字が埋められている
少し驚きながら、プリントを裏返す
何も印刷されていない裏面
絵が描かれていた
思わず笑みが溢れる
しかし、次の瞬間、首筋から全身に向かって怖気が走った
この暑さにも関わらず、急速に血が冷えていく
そこに描かれているものを、理解してしまったから
生活感漂う一室
布団を外したこたつテーブルにクッション
本棚
テレビにゲーム機
カーテンのかかった窓
小さなキッチン
テーブルの位置から本棚やテレビの大きさ
カーテンの柄に至るまで
僕のアパートの部屋、そのものだった