私の部屋
「今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ。また明日、凛の話を聞かせてくれないか」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
夕食後、マオウは私を部屋の前に連れてくると、入るように言って去っていった。
ラブを少し撫でた後、私は部屋の中へ入った。
「わあ」
思わず声が漏れた。
他の部屋と同じく紫色の部屋だが、とても寝室とは思えない広さだ。
大きなソファにテーブル、鏡台、ガラスでできた木が置かれている。
ベッドはキングサイズで天蓋がついている。
奥に行くと広い浴槽がついた風呂場があり、窓が大きくて開放感がある。
タンスを開けるとたくさんの洋服が並んでいる。着てもいいのだろうか。
とりあえずソファに座ると、テーブルの上に紙が置かれているのに気がついた。
「この部屋にあるものは自由に使ってくれ」
マオウは何て大盤振る舞いなのだろうか。
紙の横に添えられたお菓子を食べながら、窮屈だった靴とストッキングを脱いだ。
鏡台に行ってどんな化粧品があるのか探していると、ふと自分の顔が目に映った。
「ひっどい顔」
目の下にはクマができており、全体的にむくんでいた。
化粧もできていないので、こんな状態を常にマオウに晒していたことになる。恥ずかしい。
明日はちゃんと化粧をしてみっともない顔を隠さないとね。
その前にお風呂に入って顔のむくみもとっておきたい。
寝るのが遅くなるとクマが深くなるし、早く入ってしまおう。
キョロキョロと周りを見渡すが、どこにも時計がない。
そういえばこの世界に来てからというもの、時計を見ていない。時間という概念はあるのだろうか。
面倒だ。考えるのはやめよう。
私は思考を放棄し、風呂場へ向かった。
お風呂は広く、浴槽にはすでに湯がはってあった。
湯船には犬のおもちゃが浮いている。
「マオウの趣味かな」
マオウが犬のおもちゃで遊んでいる姿を想像してブッと吹き出した。
「ンフ、ンフフフ」
笑いながら体を洗い、湯船に浸かる。
足を伸ばしても十分な広さ。
窓は曇ることもなく、暗くなった外の風景を写している。
ここは何階だろうか。そこそこ高いようだ。
誰かに見られる恐れもなさそうだ。
中から見た外の様子は、やっぱりまだ信じられない。
不思議としか言いようのない森のような場所で、見たこともない植物が生えていて、ところどころが光っている。
光っているのは木に生っていた宝石のようなものだろうか。
幻想的とも不気味とも言えそうな光景に頭がついていかない。
「まあ、生きてりゃ何とでもなるよね」
そんなことを呟きながら、犬のおもちゃをムニムニと触っていた。
お風呂から上がると、ベッドに置いてあったパジャマだと思われるものを着てみた。
軽い生地で作られたドレスのようだ。
ゆったりとしていて着心地が良い。
「あー疲れたー」
私はベッドにボフッと横になった。
寝て起きたら元の世界に帰っているかもしれない。
そんなことを考えながら、私はゆっくりと眠りにつくのだった。