清潔な建物
建物に入ると、意外にもシンプルな内装だった。
目立った装飾品もなく、無地の赤いカーペットが敷かれており、シンプルながらに高級そうな家具が並んでいる。
窓は大きく日の光が入ってくるような造りで、天井も高い。
壁や床、天井の色は紫で統一されていて派手な印象だが、掃除が行き届いていて清潔さを感じる。
「すみません、突然お邪魔してしまって」
私はやっと笑いが収まり、顔をあげて声を発した。
「いや、こっちもラブが世話になったみたいだ。気にするな」
「ラブ?」
「ああ、この子だ」
相手はそう言うと、さっきの犬を見せてくれた。なるほど、ラブって名前なのか。
「可愛いですね」
「ありがとう。そこに座って少し待っていてくれ」
相手はソファを指差し、奥へと歩いていった。
私はソファに座り、ホッと息をつく。
やっと休めた安心感からか、どっと疲れが出てきた。
10分ほどで相手は戻ってきた。手には何かを持っている。
「これを飲んでくれ」
手渡されたのはコップ1杯の虹色の液体。
何か見たことがあるような。そうか、昨日の夕食の甘いデザートと同じ見た目だ。
「は、はい。いただきます」
私は恐る恐るそれを手に取ると、口につけた。
甘い。
砂糖を煮詰めてシロップをかけたものを凝縮したような甘さ。
思わず「ゴフッ」とむせた。
「大丈夫か?無理はしなくていいからな」
優しい言葉に流されそうになるが、飲み切らないと失礼かとも思った。
「あ、いえ、だ、大丈夫です」
深呼吸をして、一気に飲もうとした。それが失敗だった。
甘すぎる飲み物を身体が受け付けるはずもなく、盛大にむせた。
それはもう豪快に。
「ゲホッゴホ、ウエッ」
「お、おい一回置け」
コップを取り上げられ、背中をさすってくれた。
横では心配そうな顔のラブがいる。
「お前、人間じゃないのか?」
困ったように見える顔に向かって、私は何とか微笑む。
「人間です”よ。そ”れより、こぼしてし”まってすみません。何か”拭くも”のを貸し”ていただけませんか”」
「そんなこと気にするな。それより、お前について聞かせてほしい。その前に何か欲しいものはあるか?」
「み、水をくださグフッい」
「わかった。すぐ持ってくる。動くなよ」
慌てたように奥へと走っていったその背中に安心感を覚えたのは間違いない。