逃げよう
朝日が目に染みて目が覚めた。
「うーん、今何時……」
手探りでスマホを探すが見つからない。今日の仕事はスケジュールに少し余裕があったんだっけ、なんてことを考えつつ、私は身体を起こす。
「え、あっ」
目を開けて飛び込んできた風景は明らかに自分の部屋ではない。昨日、召喚したとか言ってたっけ。
これからどうすればいいんだろうか。
そんなことを考えていたら、ドアがノックされた。
「は、はい」
緊張しながら返事をすると、昨日いた隊長と僧侶が入ってきた。
「あ、ああ。もうお目覚めでしたか。どこか具合が悪かったりは?」
僧侶に聞かれて考えてみるが、特に何もない。
「いえ、特には」
「そーですか、そーですか。そりゃーよかった。ではまた後で」
そんな返事を残し、僧侶は無口なままの隊長を連れて部屋を出ていった。
「何だったの?」
あまりにも怪しくて、そっとドアまで近づいて耳を澄ましてみた。
すると、男性の揉める声が聞こえてきた。
「だから、想定外だって言っとるだろうが」
「盛った毒の量が少なかったんじゃないのか!?」
「あんなの、普通なら1口で死んどるはずの量だ!コックが手を抜いたのか!?」
「はあ!?ならコックを問い詰めないとだな。全く、あの女が苦しんで死ぬところが見られるって言うから提案に乗ったのに」
逃げよう。
ここから今すぐに。
やっぱり殺すつもりだったんだ。失敗したから、今度はもっとわかりやすく殺しにくるかもしれない。
私はささっと着替えると、部屋の窓から外を見た。
建物の1階の部屋だったようで、窓から出ても怪我をしそうにはない。
窓の外は森に続いているのか、木々に囲まれていて遠くまで見えないが、まあここよりはマシだろう。
そーっと窓を開け、音を立てないように外へ出た。
そのまま、出た時と同じくそーっと窓を閉めた。意味はないかもしれないけれど。
足音を立てないよう気をつけつつ、建物を後にする。
少し離れて見た建物は、城と呼ぶのに十分な大きさと煌びやかさだった。
森に足を踏み入れると、後先考えずに走った。
走って走って、遠くを目指した。
どこに繋がっているか、繋がっていないかなんてどうでもいい。
今私が生きるため、とにかく走ったのだった。