食卓の魔法
翌日の朝、私は笑いを必死で堪えていた。
やはりというか、マオウは服装のチョイスが面白すぎる。
今日は子どものイラストのような車の絵柄のついたグレーのパーカーに、緑を基調としたサルエルパンツを履いていた。
「どうした?」
マオウが心配そうな声で話しかけてくる。
マオウのせいですけど!
そう叫びたい気持ちをぐっと抑える。
ファッションセンスにツッコみたい気持ちと、次の服装に期待する気持ちが混在している。
まあ、笑いを堪えるのに必死で声が出せないのでツッコめないんだけどね。
「い、いえ、ふふ、何でも、ングッ、ないです、んふっ」
私の様子を不思議そうに見ていたが、そのうち朝ごはんのために下の階へと降りていってくれた。
どうにか笑いを殺した後で、私も朝ごはんへと向かう。
ラブが尻尾をブンブンと振って駆けよってきた。
「おはよう、ラブ」
頭を撫でであげると嬉しそうな顔をする。
ラブはふわふわで触っていて気持ちいい。
「食事の用意ができたぞ」
マオウの声で食卓につく。
やっぱり見た目ではわからないが、匂いは和食系だ。
「いただきます」
朝ごはんのメニューは、秋刀魚の塩焼き、菜の花の辛子和え、味噌田楽。
美味しいけど、白米が食べたい!
ご飯が進むメニューだが、そのまま食べられるくらいの薄味にはなっている。
それでも白米が食べたい。
「マオウさん、白米ってありますか?」
思わず聞いてみた。
「はくまいとは何だ」
ですよね。知ってた。
「いや、大丈夫です。やっぱりいいです」
「いや、良くない。はくまいとは何だ」
食いついてきてしまった。
マオウって意外と好奇心旺盛だよね。
「ええと、こういう和食……ご飯に合う……ええと、つまり、元の世界でよく食べていたものです」
「ふむ、料理なのか。どんな味だ?」
「そうですね。何て言ったら良いんでしょうね。温かくて柔らかくて、他の料理と一緒に食べるとすごく美味しいものなんですよ。あんまり単体では食べないというか。でも白米だけを噛みしめているとだんだんほんのり甘く感じてくるというか。難しいですね」
白米の食レポってどうやるのが正解なの?
まるでわからない。
説明するのがこんなに難しいものだったなんて。
主食の文化のある世界でなら”主食です”の一言で終わりそうなのに、主食という概念のなさそうなこの世界で白米を表現するのは私には高難易度すぎる。
うーんと唸っている私とは反対に、マオウはふむふむと何か考えているようだ。
「はくまいという料理は、それ単体で食べるものではなく、他の料理と一緒に食べると他の料理の味をより美味しく感じることができる、というのか!?」
「え?ええ」
何か食いついた。
え?今の説明で食いつく要素あった?
首を捻っていると、マオウは目を光らせて言った。
「はくまいは他の料理の味にバフをかける能力を持っている料理なのだな。凄いことを聞いた。凛、ありがとう。この世界にはくまいがあるのかどうかはわからないが、探してみようか。是非私もその魔法を目にしてみたい」
なるほど、と思った。
そういう見方があるのか。
そういえば魔法とか使えるのよね、ここ。見たことないけど。
「ええ。白米があれば私も嬉しいですし、是非マオウさんにも食べてもらいたいです」
実際に白米を食べたらマオウはどんな反応をするのだろうか。
美味しいと思うのか、イマイチと思うのか。
あったらいいなあ、白米。
更新がかなり遅くなりまして申し訳ないです。
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