森の奥へ
マオウについて歩を進めると、見たことのない木がたくさん並んでいた。
凄い。
板チョコが木に刺さっているように生っている。
「マオウさん、これ食べてもいいですか」
「えっこれをか」
マオウは板チョコをしげしげと眺めてから手に取った。
そしてひとかじりした。
「ちょっとこれは苦いな。甘味はあるが、癖があるぞ」
眉をひそめつつ、マオウは私に板チョコを少し割って手渡してくれた。
「いただきます」
カカオが多めのチョコレートのような味がするのかな?と思いながらかじったそれは、なんとも美味しいチョコレートだった。
普通のミルクチョコレートの味。ビターですらない。
この世界の生き物ってもしかして苦味にも弱いのだろうか。
「マオウさん、これ美味しいです。私がよくおやつに食べていたものと同じ味がします」
「これがか?珍しいものを食べていたのだな。凛が気に入ったのならお土産にいくつか持って帰ろう」
マオウは手際よくパキパキと板チョコを回収している。
そしてどこから出したのかわからないが、エコバックのようなものを広げて中へ入れている。
「んっふ」
思わず漏れ出す声を抑えるのが大変だ。
ピンクに白色のハートマーク柄なんて可愛らしいエコバックを使うマオウが悪い。
でもここで吹き出したらチョコレートのせいで具合が悪くなったと誤解されて、チョコレートは没収だろう。
それはどうしても避けたい。
何とか笑いを殺した私は、改めて周りを見渡した。
見渡す限りのチョコレート畑とでも言えばいいのだろうか。
先程の光景とは一変、美味しそうな場所だ。
「凛、先へ進もうか」
「はい」
マオウはまた森の奥へと進んでいく。
この森は凄い。
真っ直ぐに進んでいるだけなのに面白い。
まだまだ広い森だ。どんな様相を見せてくれるのだろうか。
もう少し進んだところだった。
シャラシャラと聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「もう少しだ。歩けるか?」
「はい、大丈夫です。楽しみです」
木にはチョコレートが刺さらなくなり、足元にネギが生えているのを見届けた先だった。
先程見たものよりも2回りほど大きな宝石が木に生っていて、それらが風に揺られて音を立てていた。
「綺麗」
端的な言葉しか出てこない。
手のひらほどの大きさの、色とりどりの宝石が揺れて音を立てている光景は、まるでオーケストラの演奏でも聴いているかのような幻想を抱かせた。
「ああ、綺麗だろう」
何だか満足そうな顔をしたマオウも宝石をずっと眺めている。
ああ、何だか本当にデートをしているような気分だ。
屁理屈をこねて連れてきてもらってよかった。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
しばらくうっとりと眺めていた私たちだったが、マオウのお腹の音で現実へと引き戻された。
「はは、腹が減った」
「戻ってご飯にしましょうか」
「ああ、そうしよう」
マオウは頭をぽりぽりと掻いていた。
恥ずかしいのか痒いのか、どっちだ。
そんなことを考えつつ、帰路についた。