よく効く薬
心地いいまどろみの中、ふと気が付いた。
ここはどこ?
起き上がって見てみると、マオウの家の私の部屋の中だった。
何があったんだっけ。
そうか、何故か告白をして、本を読んで、薬を飲んで、そうしたら眠くなってきて寝てしまったんだ。
あの薬を飲む意味があったのかと問われれば無かったのだろうけど、今凄く体が軽い。
もやもやしていた気分まで晴れているかのようだ。
ああそうだ、マオウに付き合うの意味を訂正しないと。
盛大な誤解をさせたままになってるはずだし、それはマオウにも申し訳ないし、私も恥ずかしい。
というか、何で人間が落としていった本がよりによってあれなの!?
信じられない!
私は憤りを感じながら髪とメイクを直し、部屋を出た。
リビングへ向かうと、まだ落ち着かない様子のマオウがソファでもぞもぞとしていた。
申し訳ない。
「あのー、マオウさん」
私がマオウに後ろから声をかけると、マオウは体をビクッとさせて振り向いた。
「り、凛。もう体は大丈夫なのか?」
「ええ。おかげさまで体が軽いです。それより」
「か、体が軽くなった!?あの薬の副作用か!?」
マオウは驚いてオロオロしている。
本当に見ていて面白い人(?)だ。
「あ、いや、物理的に軽くなったわけじゃないです。体の調子が良くなったことを”体が軽くなった”って言うんです」
「そ、そうなのか。また良くない物を飲ませてしまったかと思ってな。ああ良かった」
安心しているマオウをさらに安心させてあげないといけない。
「それと、さっきの付き合うって話なんですけど、あの本に書かれていることはフィクションで、あれをやるわけじゃないんです」
「へ?でもさっき……」
困った顔のマオウ。
ああ、もう!
「誤解です!あんなエッチなことしませんから!ただ一緒にご飯食べたりお出かけしたりお酒飲んだりゲームしたりしたいだけです!!」
「ほお……」
慌てて言ってみたがマオウはピンときていない様子。
「あれ、マオウさんがしたくないのってもしかして出かけたりって方ですか?」
恐る恐る聞いてみると、マオウは首を傾げた。
「すまん、それの内容がイマイチわからなくてな。とりあえず子作り方面でないことは安心した」
「同意のない”それ”は犯罪ですから」
「そ、そうか。犯罪になるのか」
マオウがホッとした表情になった。良かった。
「それで、考えてくれますか?」
「何がだ?」
マオウはキョトンとしている。
「付き合うってことです。もう一緒に暮らしているんですから、結婚でもいいですよ」
私がさらっと言うと「ええ!?」とマオウが漏らした。
「凛は人間と繁殖する気はないのか?」
「もう無いですね。男運の悪さが身に染みているので。この世界の男に碌なのいないでしょう」
これを言った時の私の目は死んでいたに違いない。
「ま、まあ血気盛んなのしか見たことはないが、そういう男が好きなのではないのか?人間の女は強い男に惹かれているように見えたが」
「人それぞれです。立場や力の差を利用して好き勝手にする男もいますし、私は穏やかな相手がいいんです」
「そ、そうか」
うーんとまた悩み始めたマオウを横目に、ラブが近づいてきた。
ぶんぶんと尻尾を振っている。
「んー可愛いねラブはー」
頬ずりをしながら頭を撫でると、ラブは嬉しそうにゴロンと横になった。
ラブのお腹をわしゃわしゃしながら私は口を開いた。
「そんなに難しく考えないでくださいよ。ただここでの生活がもっと楽しくなればと思っているだけですから」
「そうか」
マオウは首を傾げながらまだ唸っていた。