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人間が落とした本

 困った顔で歩いているマオウに私は声をかけてみる。

 ”あれ”が気になったのだ。

「マオウさん」

「な、何だ」

 心なしかマオウがキョドッている。

「その、人間が落とした本って持っていますか」

「ああ、持っている。持ってこようか」

「ええ、お願いします」

 どんな本なのだろうか。私にこの世界の文字は読めるのだろうか。

 そんなことを考えていると、マオウは2階へと上がっていった。

 マオウが恐れる人間の実態とは何かが気になる。


 そもそも今の状態は付き合っているに等しいのでは、とも思える。

 一緒に住んで、一緒に食事をして。

 むしろ結婚生活に近いのだろうか。

 一生をここで暮らすことになるのなら、結婚している状態とくらいは言えるような関係になりたい。

 愛が無くてもいいからさ。

 だって寂しいじゃない。世界で2人と1匹だけの関係なのにご近所さん的な関係しかないだなんて。

 お互いを知って、色々話せる関係性になって、心配し合って助け合ってさ、楽しい暮らしがしたいじゃない。

 どうせ元の世界になんて帰れないんでしょう?

 帰っても大した暮らしは待っていないし、この間にも無断欠勤している状態だから周りから何を言われるかわかったものじゃないし。

 ここでの生活が楽しく思えたらさ、私にも居場所ができたと言えると思うのよね。

 あー、くよくよしてるのは性に合わないのに。

 1人だと余計なこと考えちゃうのはよくない。

 ラブ帰ってこないかな。

 思いっきりわしゃわしゃしたい。

 抱きしめたい。


 そんな独り言を考えていると、マオウが階段から降りてきた。

「あったぞ」

 そう言って差し出された本には”勇者物語”と大きく書かれていた。

「ありがとうございます」

 差し出された本を受け取ると、パラパラとめくってみた。

 読める、読めるぞ。

 何というか、海外の人が必死で書いた日本語みたいな文章だ。

 パッと見ただけで迷惑メールだってわかるあれ。

 シーツをツーシって書いてある感じの書き方。

 読みにくいけど読めないよりマシかな。


 適当に読んでみたのだけれど、マオウが困っている理由も何となくわかった。

 これ、官能小説だ多分。

 この本の内容を忠実に実行するとなるとかなり勇気が必要になる。

 この世界の人間が本当にこんなことをしているのか、この本だけがおかしいのかはわからないが、オモッテタノトチガウ。

 マオウには悪いことをしたと思った。

「凛、大丈夫か?」

 心配そうな顔でマオウが私の顔を覗き込んだ。

「へっ、な、何が、デスカ」

「顔が真っ赤だ。体調が悪いのか」

 言うなり、マオウは部屋の奥へ行ったと思ったら何か液体を持って帰ってきた。

「これは万能薬だ。何にでも効く。飲んでおけ」

「ありがとうございます……」

 あああ恥ずかしい。

 渡された万能薬を一気飲みして自分の顔を触ってみた。

 熱い。

 告白した相手の前で官能小説を読むなんて何て罰ゲームだ。


「ワンッ」

 気が付いたら隣にラブがいた。

「ラブ、おかえり」

「ワッフ」

 ラブが頭を足に擦り付けてくる。

 愛らしい。

「こら、凛は今体調が悪いんだ。ほら、凛。部屋へ戻りなさい。食事の時は呼ぶ」

「は、ハイ。ありがとうございます……」

 何だか恥ずかしくて、顔を隠しながら部屋へと足早に帰った。


「あっ」

 大事なことを忘れていた。

「付き合うの意味ちがーう!」

 部屋で枕に顔を埋めて叫んでいた。

 まあ、食事の時にでも訂正しよう。

 何だかすごく疲れて、ベッドに横になった。




全年齢対象です。大丈夫です。

ギャグ寄りなので色々と安心してください。

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