ラブの日課
食事を終え、ラブのいる部屋へと入る。
ラブは待ってましたとばかりに尻尾をブンブンと振り回しながら近寄ってきた。
私はラブをこれでもかというほど撫でまわす。
「本当に可愛いんだから」
言葉に反応してか、ラブは微笑んだように見せた後、床にごろんと寝転がってお腹を見せてくれた。
私はラブのお腹を撫で、お腹に顔をうずめて息を吸った。
どことなくスパイシーな香りがする。
何の匂いかと言われるとわからないけれど、どちらかというと唐辛子的な香りのような気がする。
しばらく遊んでいると、ハッと我に返ったかのようにラブが立ち上がり、ドアを開けてくれとせがんできた。
「どうしたの?」
勝手に開けてもいいのだろうかと悩んでいると、マオウがドアを開けた。
「見回りか」
「ワン」
マオウの言葉に返事をしたラブは、そのまま外へと繰り出した。
「勝手に出歩かせて大丈夫なんですか?」
「ああ、いつもだからな。縄張りみたいな感覚がこの辺りにあるのだろう。一周はしないと家に帰ってこない」
へえ、と頷いた。
マオウは少し首を傾げた後、口を開いた。
「この土地には私とラブしかいないから安心してほしい。人間が勝手に入るにしては刺激が強すぎる場所だしな。だから凛が来た時は驚いた。命がけで私を倒しにきたというのには軽装すぎたし、何が起こったのかわからなかったからな」
「そうなんですね。って、え?マオウさんとラブしか住んでいないんですか!?」
驚く私を見てマオウはきょとんとしている。
「ああ。魔王は魔物の王だからな。人間だけでなく魔物からも怖がられる存在だ。そんな魔王に認定された者は住む場所と潤沢な資源を与えられる代わりに隔離されるのだ。まあ当然だろう。絶対に勝てない相手が近くにいる恐怖は何事にも変えがたい」
「じゃあラブはどうしてここにいるのですか?」
「ああ、元は供物として捧げられたものだったのだ。瀕死だったから治癒をして今は側にいてもらっている」
供物だなんて。そんな。
あんなに可愛い生き物になんてことを!
憤ると同時に、寂しさを覚えた。
「マオウさんは寂しくないのですか」
「寂しい?」
マオウは首を傾げている。
「考えたこともなかった」
「家族からも切り離されたのでしょう?友人とかもいたんじゃないですか?」
「魔物に家族や友人は存在しない。人間にはそういうものがあるらしいな。そうか、凛は寂しいか?」
マオウの言葉に少し詰まった。
前の世界に全く未練がないかと問われればノーではあるが、絶対に帰りたくなるほど帰りたい思いがない。
上京してから連絡を取っていない家族、就職して疎遠気味の友人達、表面上だけ仲良くしている同僚。
………怒鳴る上司に積み上がった仕事、長時間労働で悲鳴を上げる体と心、いない恋人。
帰らなくてもいい気がしてきた。
「全く寂しくないと言えば嘘になりますが、今の生活も気に入っているんですよ」
嘘ではない。
仕事をしなくても衣食住が保証されていて、夜は仕事を気にせずゆっくり眠れる。
これがどれだけ幸せなことなのか、きっと説明してもわからないだろう。
「そうか。無理はしなくていいからな。何かあったらすぐに言ってほしい」
マオウが少し眉を下げている。眉?で合っているかはわからないがそう見える。
元の生活で未練があったとすれば食生活だろうか。
あとはそうだな、男運が悪すぎたことだろうか。そうだ。
「マオウさん。少しお願いを聞いてくれませんか」
「ああ、何だ」
「私と付き合ってください」
マオウは少し固まった後、聞き返してきた。
「何と言った?」
「付き合ってください」
「正気か?」
「ええ、正気です」
ニコリと笑みを浮かべてみせると、マオウは頭を抱えていた。
すみません、更新遅くなりました。今後も不定期更新になりそうなので、ゆっくり待ってくれると幸いです。