ゆったりした時間
部屋を出ると、ドアの前にマオウがいた。
「おはようございまッッ、す。マオ、ブフッ、ウさん」
「ああ、おはよう。よく眠れたか?というか大丈夫か?」
「い、いえ何でもないです。ちょっとむせただけで。よく眠れました」
マオウを見るなり吹き出してしまった。
マオウはTシャツにハーフパンツを着ているだろうと思っていたし、昨日見慣れたので大丈夫だと思っていた。甘かった。
アロハシャツにダメージジーンズは無しだろう。そんなの反則だ。
「まだ疲れが残っているのだろう。料理でも食べながらゆっくりとしよう」
「あ、ありがとうございます」
マオウが手招きするとラブはマオウに着いていき、下の階へと降りていく。
私もそれにならって下の階へと降りていった。
テーブルの上にはすでにたくさんの料理が並んでいた。
昨日見たものとは違うようだ。
マオウがテーブルにつく。
隣にはラブが良い子でおすわりしている。
「遠慮せず座ってくれ。ああ、ラブにも料理を用意してあるからな」
言いつつ、マオウはテーブルの端に置いてあった青い皿をラブの前に置いた。
ラブはフンフンと鼻を鳴らしながら嬉しそうに食べている。
「可愛いですね、ラブ」
「お、そう思うか?」
マオウが嬉しそうな顔をした。
やっぱり動物はどこでも癒しになるのだなあと実感する。
「もちろんです。めちゃくちゃ可愛いですよ」
「そうか、共感してくれる相手がいると嬉しいなあ」
マオウが目を細める。
マオウはあんまり話し相手がいないのだろうか。
「さあ、私たちも食べようか」
「はい、いただきます」
手前から順に食べる。
うなぎの蒲焼、きんぴらごぼう、きゅうりの浅漬け、豚の生姜焼き、キノコの炊き込みご飯。
今朝は和食だ。お腹に優しい気がする。
「好きな料理はあったか?」
「これですかね、いやこれも。いやーどれも美味しくて迷いますね。これらの料理の名前は何ですか?」
「いや、料理に名前は無いんだ。凛の世界では料理に名前があったのか」
「ええ。名前で区別していましたね」
「そうか、面白いな」
マオウは少し微笑んだ。
料理に名前が無いなんて、あれが食べたい!って時はなんて言えばいいのだろう。
あのちょっとピリッとした、ほら、あの、みたいな感じにならないだろうか。
そんなことを考えていると、私の隣にラブがやってきて尻尾を揺らしている。
マオウは立ち上がるとラブを抱えて隣の部屋へ連れて行った。
部屋からはマオウだけが帰ってきた。
「何も追い出さなくってもいいじゃないですか」
私が不服を唱えると、マオウは笑った。
「あれは遊ぶまで催促してくる時のラブの仕草だ。食べ終わったら遊んでやってくれ」
「わかりました」
私もふふっと笑った。
確かに食事中にずっと遊びの催促をされると、食事に集中できそうにない。
それどころか食事をやめて遊んでしまいそうだ。
中途半端になるくらいなら食事を終えて目一杯遊ぶ方がラブだって楽しいだろうし、私の体力も保つだろう。
ちゃんと食べてしっかり遊んであげよう。
食後の楽しみもでき、今回の食事も満足な気分で終えた。