第2章
翌月の集まりに光希は次回作の登場人物のイラストと絵コンテを持ってきた。主人公は女性のスパイで、男と恋に落ち二人で逃げる逃亡劇を描いた作品だった。主人公の目は凛々しくキリっとしていて、細身にスーツを着た気の強そうな、綺麗というよりかっこいいという言葉が似合う女性だった。画風としては少女マンガがベースだが、人物のデッサンもしっかりしていて描線がきれいだったので、少年向け、青年向けなどどこでも通用する力があった。僕なんか足元にも及ばないと思った。
「この主人公、ちょっと植田さんに似てない?」
「え? そう思います? ちょっとこうなりたいなっていう憧れも入れています。私はこんなに美形じゃないですけど」 そう笑う彼女の顔にちょっと本音が見えた気がした。その表情に魅力を感じた。
「なんか、展開も後半の疾走感がいいね」
「ここの主人公が銃を放つところが決めたいところですね。パーンと」
「銃を放つことが彼女自身の解放でもあるのかな」
「そうです」
「いいね。途中の展開でもう一か所位、ひねりがあってもいいかも」
「そっかあ、ちょっと考えてみます」
「まあ、まだ時間あるからじっくり描いたら」
「ありがとうございます」素直に僕の話を聞いている様に見えたが、本心なのか疑わしかった。そんな不可思議さが僕の興味をそそった。
僕はそれから数日後、光希に電話をした。彼女はスマートフォンを持ってなく、辛うじてガラケーを持っていたのでそこに電話をかけた。
「こんばんは、鏑木です」
「あ、鏑木さん」
「急に電話をしてごめん。今、大丈夫?」
「はい」
「明日の夜、空いてない? よければ一緒にご飯でも食べにいかないかなと思って」
「え? 明日は……うーん、大丈夫、空いています。講義も早く上がるし」
「じゃあ、原宿の山手線のホームで6時に待ち合わせでどう?」
「はい、わかりました」