春とうっすら出会い3
「あ、太陽さん?」
「あれ、なんで名前知ってるの?」
思わず彼の名前を読んでしまった。
普段なら絶対しないこと筆頭なのに。
遠くの賑やかな声がどんどん遠くなっていく感覚を味わう。
名前を呼ばれた本人は、目をパチクリさせて意外そうというか、驚いていた。
花火は『なんで?』と言われ、冷や汗がでる。
そこに悪意や敵意はないのかもしれないが、追い詰められるような窮屈さがジワジワと寄ってくる。
言葉が出なくて、花火が固まってしまうと、太陽は「ああ、あの時名前呼ばれてたからかな」と、気を使って話を終わらせ、離れようとした。
「あ、あの!」
困ったような笑い顔で歩き出した彼を、普段ならしない筆頭その2の大声を出す、で、呼び止める。
呼び止めたあとのことをなんにも考えていなくってそのまま互いに動かず気まずい。
笑い合いながら私達の後ろを通り過ぎる人達。
ここ以外には音が聞こえるのに、ここには重い沈黙が落ちる。
(な、なんで、呼び止めたの、私!?)
呼び止めたのは自分だが、何か言おうとしても、悲しいかな、これまでの人生は最低限の人としか関わってきていないし、大抵は相手から話しかけてもらって、ようやく話し始めるレベルなのだ。
そんな花火のコミュ力はさほど高くなく、また、ほぼ初対面の相手で緊張してしまっている。
さっきとは違う、どうしようという気持ちで冷や汗がでる。
「えっと、構内で気になるとことかある?案内しようか?」
目を泳がせて、口をパクパクさせている花火に、太陽は声をかけた手前、案内役でもと、提案する。
「え、あ、はい。お願いします」
花火は何が何だか分からないまま了承してしまった。
とりあえず、内心泣きそうになりながらも成り行きに従う事にした。