ずっと、変顔の女
「写真、撮ろうよ!」
僕は、勇気を出して言った。
友達に、頼まれたからだ。
「いいよ」
「ありがとう」
彼女になる、一歩手前。
そんな、美女だ。
そんな美女と、一緒に写真を撮る。
でも、本当に美女なのか。
正直なところ、よく分からない。
なぜなら、常に、顔が疲れてしまうほどの、本格的な変顔をしているからだ。
隙なんてない。
いつ見ても、クシャッとしてる。
シワが心配になるレベルで。
「じゃあ、撮るよ」
「うん」
「3・2・1・ハイッ」
「撮れた?」
撮る瞬間、彼女の顔が、一瞬だけ普通に戻った気がした。
横目ではあるが、窮屈そうな顔が、一瞬だけ和らいだ。
そう感じた。
写真を撮るときに、変顔になる人はいる。
でも、彼女はその逆だ。
ハテナが、頭を駆けめぐり続けた。
変顔は、明らかに作ってる。
楽そうではない。
だから、あの変顔を、正常顔とするのは、やや無理がある。
余計に、分からなくなってきてしまった。
撮った写真に、目を移す。
「私、キレイに撮れてるね?」
「うん。そうだね」
そこに映っていた彼女の顔は、いつもより、ほんの少しだけ、マイルドになって見えた。
ずっと変顔でいる彼女の、素顔をまだ僕は知らない。