953話 大いなる勘違い
〜スティグマside〜
「ふんっ! 私が<糞>を支配して、<恵のダンジョン>の優位が吹き飛んだ途端、あの働神め……自販機課金作戦に切り替えてきよったわ」
これまで頑なに、私に対してだけブラックリスト判定で"購入不可"を貫いてきたのに、突如として好きなだけ商品が買えるようになった。
しかも、ミッションルーム内に新たな自販機が2つ生え……私の側にある自販機には、他の自販機に刻まれていた「働神<メグミ>の呪い」もナシ。
そして商品も「雑菌に汚染されていないマトモな物」ばかりであり、異常がないか鑑定しても、何一つ怪しいところがないクリーンさだ。
となると……自販機を利用して毒を食わせ、直接私に危害を加える算段ではなく、課金を促進して活動資金を貯め始めた……と見ていいだろう。
<糞>における優位性がなくなった現在、「臭く・汚く・キモい」だけの<恵のダンジョン>は、私を阻む新設備の増築を迫らせており……
その為には大量の資金が必要になるため、購入者を選んでいる余裕などなくなった、と考えるのが自然だ。
ならば、商品を買わずにメグミの財布を締めあげて、神格差で押し切り勝つのが理想的か?
いや、そんな事はないだろう。
たしかに私が<メグミの自販機>で食料品を買えば、短期的にはメグミの財布が潤うが……課金額など、所詮タカが知れている。
逆にコチラの食糧事情は、遠征に次ぐ遠征のため、ここでアイテムボックスに商品を補充しないといけないくらい、枯渇が迫っていた。
誰がやったのか知らんが、闇神城に保管されていた高級保存食にカビが生えしまい、適切な補充ができなかったのだ。
敵が送ってきた塩を無条件で信じて有料で補充するなど、狂気の沙汰であることは、私だって理解している。
しかし超一級品である私の<鑑定>は、コレ等の商品が「衛生的かつ美味しい物」であることを示しており……
それが端金で売っているのだから、買わない選択肢はないと言えた。
「だが不思議だ。いくら課金を煽っても、単価がこんなに安い商品じゃ儲けなど出ないだろうに」
端っこの方に申し訳ない程度に置かれている、摂取量次第では飛べるクスリだけは高単価だから、それを買わせて私をヤク中にしようとしている?
だが、それなら……端ではなく真ん中に置くはずだ。
<−−− ガサッ ガサガサッ ガサッ ガササッ−−−>
「(ふんっ、構うものか! <鑑定>で何一つ怪しい点がなかった商品が、安価で無限供給されている。このチャンスを逃すことこそ、機会損失!)」
いつまたメグミの気まぐれで、自販機が使用禁止になったり嫌がらせの呪いが付与されるか分からないし、買えるうちにかっておこう。
どの商品も、徹底した衛生管理のもと作られているのか……賞味期限も、人間社会の時間感覚にしては長いしな。
<−−− 挑戦者へ通告します。今すぐミッションに戻ってください! 繰り返します。挑戦者は、今すぐミッションに戻ってください! −−−>
「(チッ。いつまでも部屋に閉じ込められる訳にはいかないし、いずれ突破する気はあるが……今言ってくるなよ、面倒くさいな!)」
<恵のダンジョン>がミッションという名目で食わせてくる激辛料理は、不衛生なうえ味も「ただ辛いだけで深みゼロ」という、クソ仕様。
つまり食うときは、事前に「超絶甘い牛乳を含む液体乳製品」で胃袋をコーティングし、衝撃を緩和させないといけない。
「幸いなことに、液体乳製品については激安価格で入手できた! 自販機一つでここまで難易を下げられるなら、イッキ飲みで問題なかろう」
副作用で下痢るが……下痢なんて今更だしな、恥ずかしがるような状況じゃない!
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闇神がメグミの意図を読み間違え、ヤバイ薬を避け激安商品ばかり仕入れて、ジャンクフード漬けの第一段階にハマった頃……
<働神の加護>を授かり、別人のようにキビキビ動けるようになった口裂け女は、闇神の様子を監視しつつメグミへの感謝を呟いていた。
「これまで死んでいて全然回らなかった頭と口が、自由に動く! 私……私じゃないみたい。いや、さすがに生前よりは劣るけど……それでも十分……!」
彼女は<働神の加護>によって、何かあったら即崩れる脆い肉体を僅かながら丈夫にされたうえ、よく動く口と頭を手に入れたのだ!
「きっと<働神の加護>が、腐肉ゆえ動かない唇の筋肉をハードワークさせているのね。ありがたい……! これで、思いの丈を自分の口で伝えられる!」
メグミは彼女のためを思ったというより、より効率よく労働できるようサポートしただけなのだが、結果こそ全て。
彼女にとっては、これまで思うように動かなかった口がスムーズになっただけでも儲けものであり、僅かながら自分を助けてくれた労働教の沼に浸かった。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






