919話 もはや自販機じゃねぇ
さて……言葉を発することができず無生物ゆえ気配もないため、「意思を持たない機械」扱いだったメグミの自販機だが……
メグミが成長するにつれ、僅かではあるが自我を持ち始め、自分を限界ギリギリまで使ってくれる主人に、愛着を抱いていた。
普通コキ使われたら、「ふざけんな! 相応の給料払え!」とキレるところだが、この自販機はメグミの魂とリンクしている。
つまり……頼んでもないのに社畜体質に生まれた、多くの眷属達と同じように労働精神旺盛であり……
主人のメグミに酷使されることを、「至高の喜び」と思っていた。
だが今までは、手足が生えているわけでもなく置かれた場所で鎮座するしかなかったため、顧客が来るまでは手持ち無沙汰であり……
僅かながらに動く機体を駆使して、監視カメラのピントがずれぬよう工夫したり、働神の呪いカウンターを丁度いい角度ではね返すのが限界。
図体が重過ぎるうえ、まだそこまで自我も育ちきっていないので、自らの意思で考えて行動するなんて事はできず……
しかし気持ちだけは"働き者"なので、現実とのギャップに苦しんできたのだ。
そんなタイミングで<搾取の実>を与えられ、「<清く・正しく・健やかに>無限労働する自販機」として、生まれ変わらせてもらえた。
その喜びは筆舌に尽くし難く、喋れないので主人に気持ちを伝えることはできないが、内心「精一杯働いて恩義に報いる!」とやる気を漲らせている。
さて……その自販機が1フロア分全てつくり変えられ、脚代わりの"車輪"を得たのだ!
フロアにいる全自販機で協力して、敬愛する主人の敵を地獄に沈めようと、自発的に動き出すのも自然なことだろう。
<<<<<<<<<<−−− ギュイイィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜ンッ! −−−>>>>>>>>>>
彼等はみなぎる闘志のままに、フルスロットルで車輪を回転させ、床の糞尿を巻きあげながら侵入者を迎え撃つべく"入り口付近"に集結。
仲間が巻きあげた糞尿にまみれ、「絶対に商品購入したくない姿」になってしまったが、本人達は一切気にしていない。
なんせ彼等は、自我が育ちきっていないため「キモい」なんて複雑な感情、持ち合わせていないのだ!
加えて金属製の機体に糞尿を浴びたところで、それが生死に直結するかというと、全くそんな事はなく……
生物がもつ危機感や、本能からくる生理的嫌悪感を抱く理由もないため、どれだけ派手にブツを浴びようとも堪えないのである。
だがそれは、あくまでも「無生物で、後で機体を洗えばオールOK」な自販機だから、とれる行動であって……
何も知らず、「自らを模したドッペルゲンガーによる鬼畜AV」をドカドカ流され、精神的にすり減らされた闇神は違う。
<−−− ウィーーンッ! −−−>
<<<<<<<<<<−−− ギュイイィィィィィィ〜〜〜〜〜〜〜ンッ! −−−>>>>>>>>>>
「なっ、何だコレはっ!?」
次こそはマトモな空間をと願い扉をくぐった闇神は、入り口付近で待機していた「車輪付きのクソ汚い自販機」に奇襲タックルをくらい……
驚きと生理的嫌悪感で、腰を抜かしかけた。
そして……自販機に刻まれた「見覚えのある魔法陣」を見て、誰の仕業か察し……怒りのあまり、額にムカデのような青筋をビキビキ浮き上がらせる。
「くそっ、また過労神の仕業かっ! いい加減、姿を現して殺されろっ!!」
ぶっちゃけ、自販機の攻撃力そのものは大したことないのだ。
しかし……糞尿まみれになっているせいで、機体のどの部分に「呪いカウンターの魔法陣」が刻んであるのか、一瞬では見切れない場合があり……
ウッカリ魔法陣に攻撃を撃ちこんで、墓穴を掘るリスクがつきまとう。
それに加えて全機体が、物理的に汚くて絶対近づきたくない「汚物バリア」をまとっているのだ。
タックル攻撃自体はかわせても、ついでに飛んでくる汚臭や汚液は降り注ぐため、我慢ならないし……
そもそも、どういうメカニズムで生えたか意味不明な車輪がヤバ過ぎる!
猛スピードで回転して、車輪に巻きこんだ汚物を豪快に跳ねあげながら、躊躇うことなく近付いてくるのだ。
これで怖がるなというのは、無理な話だろう。
加えて自販機達は、抜群のチームワークを誇る!
なんてったって、彼等はメグミの<自販機作製ギフト>で作られたクローンみたいなものであり、全機体で意識を共有しているのだ。
まだ自我が芽生え始めた段階ゆえ、「敵の動きの意図を読んで、それに合わせた攻撃を繰りだす」ような、頭脳プレーはできないが……
本能による集団行動と同胞への配慮は、群れで暮らす魚と同等レベル。
皆で力を合わせて「主人の敵」へ嫌がらせするくらい、朝飯前である。
もっとも……闇神とて上級神なので、「格下のギフトから生じた機械」ごときに、一方的にリンチされているわけではない。
だが呪いカウンターと汚物バリアのコンボが、「自販機に反撃する気力」そのものを奪うため、心は折れる寸前だ。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)